我々に必要なのはお金じゃなくて、筆ペン
『千と千尋の神隠し』において異界に迷い込んだ千尋は、まず名前を奪われてから働かされることになった。逆に映画『バービー』では量産型の人形が自分の名前を得ることで、アイデンティティを獲得していた。
ただ何となく口に入れている物にも、明確に名前を与えてみよう。それだけで食材は俄然、輝きを放ちだす。今我々に必要なのはお金じゃなくて、筆ペンなのだ。
ふと目線を上げると、そこにはカップラーメンがあった。こいつで“良いもの”感を出せたら、悪い流れを断ち切る一発逆転の特大ホームランだ。
さきほどの失敗を踏まえ、私は中身を別皿に移した。
これはなんだろうか?これが私の求めていたものなのか?それにとんでもなく手間暇掛かった。手軽に“良いもの”感を得ようと始まった話なのに。目の前に広がる光景が、さらに追い打ちをかける。
すべての具材をどんぶりに移して食べるカップのないカップラーメンは、お湯が麵に行き渡らずボソボソして美味しくなかった。
“良いもの”感の先に掴みたかったのは、当然QOLの向上である。下げてどうする。
変化(主観)
カップラーメン:約280円→測定不能
翌日。地元の集まりでパック寿司が配られた。(これだ!)。私は直感で理解した。
私が幼い頃と比べて、もっとも手軽に食べられるようになったものが寿司だと思う。それには良い面も残念な面もある。昔は今ほど回転寿司やテイクアウト寿司の選択肢がなかったから、たまに親に連れられて食べるカウンターの寿司屋は、理由も分からず呼び出された職員室くらい緊張感があった。その緊張感の先にあった寿司だけが纏えるオーラ。
名札によって、もう一度あのオーラを纏わせられるだろうか?まず、念のためパックのまま名札を添えてみる。
悪くない、悪くないぞ。だが、やはりオーラを纏うまではいっていない。兄貴の友達、くらいの感じ。頑張れば話しかけられる。
変化(主観)
パック寿司:約1,000円→1,300円
では、パックから取り出して皿に並べてみよう。
やったぞ。皿が小さくてぎゅう詰めになってしまったが、これは“良いもの”感が出てる。寿司の近寄りがたさ、カムバック。
変化(主観)
パック寿司:約1,000円→2,500円
しかし、ここである疑惑が浮かんできた。
もしかして“良いもの”感は名札ではなく、「色んな種類の食材が一堂に会している構図」によって醸し出されるのではないだろうか?
昔の新年のジャンプの表紙のように。不安になった私は、マグロのぶつ切りを買ってきた。
これを皿に移し替え、名札を立ててみる。
感じる。感じるぞ、“良いもの”感。やはり間違いない。名札の力だったんだ。
名札が効力を発揮する時とそうでない時。何となく見えてきた。
①細い字ではなく太く堂々とした字を書き込む(印刷でも可)
②市販の食品トレーや紙皿から皿に移した方が良い
③「手軽に」を超える努力をすると、虚しさの方が勝ってしまう
その上で色々な食材を試してみたが、もっとも簡単で意外なほどに効果が出たものを最後にご紹介しておきたい。最近ハマってるInstagramのレシピ動画風にまとめてみた。
『千と千尋の神隠し』において異界に迷い込んだ千尋は、まず名前を奪われてから働かされることになった。逆に映画『バービー』では量産型の人形が自分の名前を得ることで、アイデンティティを獲得していた。
ただ何となく口に入れている物にも、明確に名前を与えてみよう。それだけで食材は俄然、輝きを放ちだす。今我々に必要なのはお金じゃなくて、筆ペンなのだ。
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