やれなさそうな裏技
撮影前に担当編集の藤原さんと話していて「シートを燃やす」という案が出た。
できないのでイラストで紹介します。
納豆に割り箸を突き立てて回し、フィルムをきれいに剥がすという裏技がある。
きれいに剥がれる点もさることながら、ものすごく裏技っぽくてかっこいい。こういうことをたくさんやりたい。
納豆のフィルムを裏技っぽく剥がしていこう。
まず「裏技っぽさ」とは何か決めておこう。考えた結果、この3つを評価のポイントにした。
そして一番重要なのが「きれいに剥がせる」という評価ポイントを入れなかったことである。
何回かやって分かったのだが、箸を回す技もうまくいかない時がある。
何事にも習熟度というものはあって、付け焼き刃の裏技より鈍くさいいつもの方法が結局うまくいったりするのだ。しかしそれでもなお、あの箸を回す裏技はかっこいい。そういう技を他にも見つけたいのだ。
「きれいに剥がせる」ではなく「そこそこきれいに剥がれる」まで意識を低く設定することで、発見される裏技がよりイノベーティブになるのではないか。相手にダメージがなくても、必殺技のポーズはかっこよくあってほしいだろう。これはそういう試みである。
色々やって、結局箸を回す技も含めて8つの方法を試した。確実なものから順に紹介します。
まず、インターネットで見つけた裏技からやっていこう。人がやってみて裏技っぽかったから紹介してくれているわけであるが、自分でやった時の手応えも知りたい。
一番有名な方法だろう。すごくきれいに剥がれて「あ、これでいいな」と思った。道具も特別な技術もいらない。すぐできる。
フィルムの中央をつまみ、パックの方を回す方法。
これが意外に難しく感じた。フィルムを剥がそうと上に力を入れすぎるとパックごと浮いてしまうので回転を加えられない。そもそもフィルムの真ん中って納豆とぺったりくっついているのでつまむのが難しい。
しかしやはり鍋のフタを用意する時の裏技っぽさといったらなかった。台所のちょっとした道具を使うがすごくワクワクする。「意外さ」は満点である。
凍らせる、という技もある。前の晩に納豆を冷凍庫に入れておいた。
このあとしばらく冷蔵庫に入れ、解凍させてから食べた。フィルムを裏技っぽく剥がすためだけに冷凍され、解凍された納豆だが、そこまで味に変化はなく、相変わらずおいしかった。しかしすごい時間のかけ方である。これなら普通に剥がして、付いてきた納豆は箸でちまちま戻してもいいんじゃないかと、うっかり野暮なことを思う。
気持ちよく剥がせはするが、「時間」という、かけがえの無いものを生贄に捧げた悪魔の裏技である。納豆の味も少し落ちる気がする。悪魔がちょっと食べたんだろう。
もし賞味期限などの事情があって納豆を冷凍しなきゃいけない時には、バリッと剥がれるので楽しみにしておこう。乾燥やにおい移りが起こるので、パックごとタッパーに入れて冷凍するのがいいらしいです。
ここまでがインターネットで見つけた技である。次からオリジナルになる。つまり、なんかダメそうな技になっていく。便利な情報を期待せずにご覧ください。
「きれいに剥がす」という点にこだわるなら、こういう方法が結局一番うまくいく。
「底に穴を開ける」
突然ダメそうになった。でもこういう方法でうまくいってこその裏技ではないか。
もちゃもちゃもちゃもちゃやって納豆をお碗に移した。そもそもこのもちゃもちゃした作業をやりたくないからこその裏技なのだ。特別きれいに剥がれなくてもいいけど、最低限そこはクリアしたい。
「底に穴を開ける」の改良版である。さっきはパックがジャマしてうまくフィルムが剥がれなかったので、まずパックと、フィルムの付いた納豆を分離させる。そのために強く振るのだ。
あれ…! う、うまくいった…!
普通と違うやり方で、(そこそこ)きれいに剥がせた。裏技と呼んでいいだろう。妻に教えたら妻も驚いてくれた。次に納豆を食べる時にやってくれるかというとそこまでではなさそうだったが、その場が盛り上がれば十分である。
今度はシンプルな裏技。
あれ……、うまくいった…!(うまくいかなそうだなと思ってやっているので、うまくいくと言葉を失う)
そこそこきれいに剥がれたフィルムを持って呆然とした。うまくいった。やればできるのだ。
これは人に教えたいし、人に見せたい裏技である。テーブルクロス引きみたいなスマートなかっこよさがある。彼女との初めてのデートなどで披露すると好感度が上がっていいと思う。
ここまで順調に来てしまってなんだかドキドキしているが、最後の裏技である。
もしフィルムとフタがしっかりくっついれば、フタを開けるだけでフィルムが剥がれるという最高にスマートな裏技が完成する。理想はそちらだが、納豆ごとフタに付いてきてしまったり、テープでフィルムをぐしゃぐしゃにしてしまう、良くない未来もうっすら見える。どうだろうか。
また言葉を失った。
こんなにことごとくうまくいっていいのか。フタが開いてフィルムのない納豆が見えた瞬間、胸がキュンとした。初めてのデートはこっちがいいかもしれない。
以上、既に知られている裏技を4つ、オリジナルの裏技を4つ試した。オリジナルは4つ中3つがうまくいったのが我ながらすごく意外である。久しぶりに「やればできる」という言葉を思い出した。
僕は結局、これからも慣れた方法でフィルムを剥がすのかもしれないけど、そうではない裏技を知っていて、しかもやったことがある、という経験があるのは何よりも大きい。シーンによって剥がし分けてやりたいと思います。
撮影前に担当編集の藤原さんと話していて「シートを燃やす」という案が出た。
できないのでイラストで紹介します。
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