やたら荷物が重かった
やることはすごくシンプルで道具も少なくていいはずなのに荷物が重くて大変だった。
靴の中に水が入るのは不快だ。でもその水がちょうどいいお湯で、靴が長靴だったらどうだろうか。足をお湯が包んで、もうそれは足湯なんじゃないか。
突然こんなことを言われても困るかもしれないが、当時の気持ちをなるべく正直に打ち明けるとこういうことになる。長靴にお湯を入れて履きたくなったのだ。
仕事で大失敗をしてヤケになって、とかそういうことではない。毎日毎日決まったことを穏やかに繰り返す生活の中で、ふとそう思ったのだ。
靴の中に水がある不快感と、でもそれがいい温度のお湯である気持ち良さが混ざってわけの分からないことになるのではないか。そう、わけの分からないことになりたのだ。特に理由もなくこんな気持ちになるということは、普段の暮らしが穏やかすぎるのかもしれない。だからわけの分からない刺激を求めるのかもしれない。
とにかく思いついてすぐ、担当編集の藤原さんにメッセージを送った。「長靴にお湯入れて履いたら面白いですかね。足湯になりますかね。」深夜1時半だった。
返事をくれる藤原さんがいかに優しいかを確かめるために、全然関係ない友人に同じメッセージを夜中に送ってみようかと思ったが、嫌われそうなのでやめた。
これを確かめるために藤原さんと等々力(とどろき)渓谷に来た。
いいところに来た。もし長靴にお湯を入れて足湯みたいになるのならば、いい景色を見てくつろぎたい。
やることはシンプルである。長靴にお湯を入れて履くのだ。そのためにまず、長靴にお湯を入れる。
長靴ってこんなに水が入るのか。結局持って来た水筒5、6本を全部あけた。片足1.5リットルぐらい入っていたと思う。お湯の温度は50度ぐらい。足を入れて冷めることも考えて、お風呂の温度よりは高めで持ってきた。
発泡に圧倒されたが、気を取り直して履く。
靴と靴下を脱ぎ、長靴にそっと無防備な足を入れ、お湯と触れる。一瞬「うわっ」と思う。やっぱり靴に水があると不快だ。でもそのまま足を沈めていくと「っくぅ〜」という熱いお風呂に入る時の痛気持ちいい感覚がきて、そこですっかり落ち着いてしまった。お湯の温度がちょうどいいし、芯からじんわり温まる感じがする。いい香りもする。
気持ち悪さもあるかと思っていたが、ほとんどない。いい温度のお湯に足をつけている感覚そのままだ。そのままだし、しかもこれ、歩けるのだ。
木々の合間から差し込む日の光を受けて、湯に浸かってパピコを食べている間、藤原さんがたくさん移動して色々な写真を撮ってくれた。「悪いなあ」と思った。
この渓谷について書かれているパネルがいくつかあったので見て回ったが、何が書いてあったかよく覚えていない。銭湯の壁にお湯の効能とかが詳しく書かれていてお湯に浸かりながら読めたりするけど、あそこに書いてあること、覚えられなくないですか。気を緩め切っているからだと思う。今そういう気持ちなのだ。
パピコを2本とも食べた。パピコなんだから片方藤原さんにあげればよかったのに、気がついたら全部食べてしまっていた。
足湯に浸かっている人にあれこれ言ってもしょうがない。
この長靴のいいところは足湯気分のまま歩けるところである。近くに不動の滝というスポットがあるので長靴のまま向かってみる。
お湯が入っていてすごくゆっくりしか歩けない。そして段差にかなり弱い。
この長靴、歩けることは歩けるのだが、長い距離や段差が多い場所は無理だ。
なるほどなるほどと思いながら戻って、お湯も冷めてきたので足を拭いて靴を履いた。
見た目には靴が変わっただけなのだけど、温泉からあがってきた感覚なのがおもしろかった。体がポカポカしていて充実感がすごい。ビール飲みたいなと思った。
長靴にお湯を入れて履くとかなり足湯気分になれる。他、気がついたことはこんな感じである。
ただ、本当に元も子もないことだけど、足を温めるグッズというものが世の中にはたくさんある。足用の湯たんぽなどもあるのだ。本当に足を温めたかったら、そういうものを使った方がいい。
だから長靴にお湯を入れて履いたのは、やはりその行為自体がなんかおもしろそうだったから、という理由でしか説明できない。実際長靴に足を入れて「っかぁ〜!」となるのはなんかおもしろかった。
やることはすごくシンプルで道具も少なくていいはずなのに荷物が重くて大変だった。
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