特集 2021年12月23日

生まれて初めて自分専用の家庭用ゲーム機を迎え入れた話

初代ファミコンと歳が近い。だけど、ゲーム機にほとんど触れたことがない。

40歳になり、もしかしたら一生このままなのかも……と思い始めていた。だが、ある日急に自宅にゲーム機を迎えることになった。

感想は

「現代にタイムスリップしてきた侍は、こんな気持ちになるのかな?」だった。

文明に震えのだ。遅すぎるってことはなかった。

1981年群馬県生まれ。ライター兼イラストレーター。飲食物全般がだいたい好きだという、ざっくりとした見解で生きています。とくに好きなのはカレー。(動画インタビュー)

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のんびり構えていたら令和になっていた

興味がないわけじゃない。遊んでみたい。一度は買ってみたい。そう思いながら、気がついたら令和になっていた。

のんびりにもほどがある。

確固たる「やらない」の意思があったのならばともかく、なぜこんなにも触ってこなかったんだろう。自分でも不思議である。

ゲームとあまり触れ合うことなく、大人になるとどうなるのか。まず、ゲームをたしなんできた人よりも、ボタンの連打が苦手な大人に成長する。

むかし、飛行機で旅行したとき、座席のまえに備えついていたゲーム機をいじる友人の指の動きを見て、高橋名人じゃなくても、指ってこんなに高速に動くんだ!とびっくりした。

国民的ゲームへの認識もぼんやりしている。『鬼滅の刃』を読んだことがない人が、ふんわりと「鬼と刃物の話なんだろう」と考えているくらいの解像度だと思う。

スーパーマリオが何をしている人なのか、きのことの関係性が何なのかわかってない。この記事をかくために少し検索したときに、ルイージが双子の弟と知って「そうだったんだ!」と驚いた。ひげが生えているので、おじさんだと思っているのだが、違ったら教えてほしい。

ゲームをたしなんでいる人に対しては、ずっと「すごいな!」と思っている。たくさんの人の手で、長い歳月をかけて作られた制作物だ。一筋縄ではクリアできないはずだし、頭も使うのだろう。そこそこ集中力がないと、続けられない気もするのだ。

 

自分もやってみればいいじゃないか、とは思う。

だけど、やらないでいた時間が長くなればなるほど、おっくうな気持ちが増えていく。

連続ドラマを途中から見る感じに近いかもしれない。民放の1クールのドラマというよりは朝ドラや大河ドラマ。いちど見始めたらそれが習慣化され、当たり前になるのだろう。でも始める前までは、生活のなかにどう組み込めばいいのか想像がつかないのだ。

いつかやりたいという気持ちは、「このまま一生手を出さないかもしれない」気持ちに切り替わりつつあった。

なんだか悔しい。

そんなときである。

ビンゴで当たったのだ。ゲーム機が。ニンテンドースイッチが。

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棚からぼたもち

噂に聞いたことはあった。いちばんよく耳にしたのは、ニンテンドースイッチに対応している、リングフィットアドベンチャーというゲームを「毎日やっていたら痩せた」という話である。

痩せる痩せないに個人差はありそうだが、コロナ禍でしっかり太った自分にぴったりではないか。

ゲオの中古ゲーム機のコーナーに並べられている本体機器を眺めながら、買ってみようかなぁと思ったこともあった。でも、勇気があと一歩足りなかった。

そんなときに、棚からぼたもちが落ちてきた。

受け取って抱きしめたとき、「これはよいものだ」と、箱の質感だけで伝わってきた。なくすような大きさじゃないけど、なくさないように大切に持って帰った。

持ち帰ってから、あけるまでには時間がかかった。テレビのとなりに置いたら、妙におさまりがよかったので、一週間以上そのままにしていたのだ。

リングフィットアドベンチャーを別途購入したら、さらにおさまりがよい感じになった

時々箱を眺めながらうっとりしていた。遠足の前日の気分に近い感じである。

そしてそのまま年越ししそうになっていた。

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優しい世界はすぐそばにあった

……とすっかり前置きが長くなってしまったのだが、ある休日の朝、意を決して箱に手をのばした。楽しいことが待っているはずなのに、大掃除くらい気が重かった。

接続までに1日かかったら、必要なケーブルが足りなかったら、接続の仕方がわからなかったらどうしよう。まずはそこから不安なのだ。機械に弱いから。

ただ手を伸ばすだけなのに
赤と青、2つあるのはなんでなんだろうと思いながら見つめる
「初期設定は必ず保護者の方が行ってください」という文字を見たとき、いい大人なのに、誰かに保護者としてついていてもらえば良かったなーという気持ちがよぎった

でも開けた瞬間、その瞬間から、ひゅるひゅると力が抜けた。 

えっ、すごく簡単そう(に見える)説明!

手順はふたつ。文字数も少ない。

わたしにも、できそうじゃないか。 

入り口からすでにホスピタリティのかたまりだ。頭が「これなら理解できそうです!」って喜んでいる。ゲーム機側はずっとこちらに両手を広げてくれていたのだ。これが、あらゆる年齢層にむけて作られた制作物の包容力なのか。

電気とインターネットに接続したら、さらに衝撃が走った。

おお……
なにもかも、画面で説明をしてくれる。インターネットの接続の図説も細かい
テレビに映った瞬間に「映りました」の文字が出たときには、わかっているよ……でもちゃんと伝えてくれてありがとうねっていう気持ちになった
1回にうつされる情報量もちょうどよさすぎる

図のわかりやすさ。一度に映し出される文字数のちょうどよさ。画面が切り替わるスピードの的確さ。

1メートルごとに道案内がされているみたいだ。

わからなくても、置いていかれない。常に、ずっと、わかりやすい。どこにも行けそうな気がしてくる。

こんなに優しい世界があったんだ。

 

優しくないのはトレーニングの内容だけだった。

手加減してもらえるように設定したつもりだったが……
励みに
励み

息切れしながら見つめた画面には…… 

さっきまでのはウォーミングアップにすぎず、これからが本番であることが指し示されていた

がんばろう。


自動車の免許をとる勇気が出た

運動不足の人間がリングフィットアドベンチャーを続けるのは、そこそこハードそうだ。でも、操作にはまったくストレスがなかった。それは、使う人にストレスを感じさせないため、作り手が細かに計算してくれているからなんだろう。

このプロダクトにどれだけの人が関わり、エネルギーを注いできたのか、考えていたら胸がいっぱいになってしまった。

ともあれ、ずっとやったことのなかったものに手を出し、優しく迎え入れてもらったおかげで、ほかのことにも挑戦したい気持ちがわいてきている。

いきなり飛躍しすぎているかもしれないが、もう一生運転することはないと思っていた、自動車の免許がとろうかと思い始めた。

来年の今頃には無事とれているといいな、免許。

 

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