ダウンロードしまくって過去の天気をみてみよう
過去の天気図をざっと見てみたけれども、意外と最近の天気図よりも昔の天気図の方がわかりやすい(日本式の天気記号なので)とか、国際式天気記号も凡例を確認しながら読み込めば意外といろんなことがわかって面白いということがわかった。
自分が生まれた日だけじゃなくて、入学式や結婚式やらの自分にとっての記念日の天気が大体わかってしまうというのはなかなか得難い興奮を味わえるので、ぜひ見てほしい。
続いて見てもらったのは、1936(昭和11)年2月26日の天気図。
二・二六事件のあった日だ。陸軍の青年将校によるクーデター事件だが、当時撮影された写真や二・二六事件を再現した映像作品などを見ると、この日、東京に雪が降っていたのは有名だろう。
増田:これもう、わかりやすいですね。今の天気図にかなり近づいてますから、この天気図を今の気象予報士に見せて「この(天気図の)後の東京の天気を予報して」といったらできると思います。
――雪が降りますみたいなのはわかるわけですか。
増田:そうですね「降る」というのはもう分かるけれど、あとは雪か雨になるかの判断ですね。気温がわかればですけど……。
――これって、南岸低気圧ですか?
増田:そうなんです! 南岸低気圧。本州の南岸を進む低気圧ということで、今でも関東など太平洋側で雪になるパターンですね。ドカッと降る。これ、きれいな南岸低気圧ですね。
――きれいですか。
増田:まんまるできれいすね、この等圧線を描く技術というのも上がっているし、観測所も増えてるというのもあるし……これだけ等圧線が込み入っているということはこの低気圧はものすごく発達しているぞ、風が強まるぞ、たしかに伊豆諸島風が強いぞ。
風が強いということは(低気圧の中心に向かって吹き込む)北風によって冷たい空気を引っ張ってくるぞ……これは(東京で)雪になるぞ……と、この天気図はまあ結果ですけど、これのひとつ前の天気図から見たらそう予想できたでしょうね。
――かなり詳細に予報できそうですね。
増田:仮に今コンピューターがすべてぶっ壊れても(天気図だけで)そこぐらいまでは予報できますね。
――それで、26日はあんなに雪が降ったと。
増田:ただこれ、26日って雪は降ったんですけど、そんなに大雪だったわけじゃなくて。これはデータが残っていて、2月26日に降った雪は……1センチ。
――えー、めちゃくちゃ降ってるようなイメージでしたけど。
増田:なんでかというと、その三日前の23日に36センチの雪が降っているんですよ。
――あーっ、なるほど。
増田:36センチ降ってちょっとずつとけていったけど、26日に南岸低気圧が来て、1センチほど降ったと。
――23日の天気図見てみましょう。
増田:あー、これ! これは、さっきの南岸低気圧よりもっと早く発達してるから雪がガッツリ降るし、寒気の引き込みも強いから、こっちのほうが危ない。
――気象的には23日の方が危なかったと。しかし、二・二六事件の雪は、23日に降った雪を見てたんですね。
増田:この年の2月は4日にも32センチ雪が降ってるんですよ。
――4日の天気図も見てみましょうか。
増田:あー、これは日本海にある低気圧が日本列島を横切るパターンですねこれ。このパターンって今ほぼないんですけど、昔の本を見ると関東でドカ雪が降るときのパターンとしてこういうのも書いてあるんですよ。
――ほー、かなりレアなパターンなんですね。
増田:そんなドカ雪が降るパターンって(気象予報士になってから)25年ぐらい見たことないから、ほんとにあんのかなって思って今まで忘れてましたけど、今この天気図みて思い出しました。
――なぜ今はあんまり見かけないんでしょう?
増田:さあ……なぜでしょう(笑)わからないですけど、今の気象予報士に2月4日午前6時の天気図を見せて「山陰沖に発達中の低気圧があります。これから12時間後の関東地方の天気を予報してください」っていったらみんな外すと思いますね。
――午前6時の天気図の低気圧が、まさかこれから関東地方にドカ雪を降らせるとは思えないと。
増田:だれもこの低気圧が日本列島を横切るとは思わないでしょうね。今だったら、山陰沖の低気圧は日本海の沿岸を沿うように北東に進むと思うでしょうね……。
――山を越えられるとは思わないんですね。
増田:この山陰沖の低気圧がこのまままっすぐ発達しながら東に進むということは、やっぱり北側の寒気が強いからですね……。
――昔のほうが寒かったということですかね。
増田:そうです、低気圧って暖かい空気と冷たい空気の間にできるんですよ。で、昔は南の暖かい空気と北の冷たい空気の力が拮抗していたから、低気圧が日本列島を横切ることができた。でも、今は南の暖かい空気が強いことが多いので、このパターンはあまりでてこない……ということなんでしょうね。
増田:いやー、いい天気図書くなあ、やっぱり。歴史的価値があるし、芸術的ですらある。
――人の手書きですもんね。(今の天気図は機械が書いている)
いずれにせよ、1936年の2月は、南岸低気圧や日本列島を横切る低気圧の影響で東京にも雪がドカドカ降っていた。が、二・二六事件当日は1センチ程度しか降ってなかった。ということが天気図からは読み取れた。
続いては、個人的な話になって申し訳ないけれど……1975年8月28日……すみません、筆者であるわたくし西村の誕生日です。やっぱりきになるじゃん、自分の誕生日の天気とか。
とはいえ、実はこの時代になると天気図もかなり複雑になっており、読み方が昔と違ってよくわからない。ともかく実物を見てほしい。まずこれ。
増田:ああ。電文ですね〜、流石にこれの読み方は忘れちゃいましたけど……森田さん(ウェザーマップ会長の気象予報士)とかは若いころ来たデータを読んで地図にプロットして天気図にしてたんですよね。
――えーっ……これを!?
増田:このデータは何々、みたいにひとつずつ読み取って図にしたのが、こういった昔の天気図なんですよ。
――この天気図も一見読めそうなんですけど、よく見ると天気が見たことない記号で書いてあって、わけが分からないんですよね。
増田:これは、国際式の天気記号なんです。
――国際式! 雨なのか晴れなのか、全くわからないんですよ。
増田:この真ん中の丸は雲量を表してるんです。
――8月28日の鳥取(西村の生まれた場所)の天気はどうですか?
増田:鳥取の表記がないので一番近い隠岐島の観測で見ると、雨とかの記号がないから晴れていて、雲量が2,3、空全体を10分割してそれの2〜3割の雲があったってことですね。東からの弱い風がふいていて、気温は27度。
――8月で27度ってのはちょっと涼しかったのかな?
増田:これは入道雲(雲量の丸の下の鏡餅みたいなマーク)ですね。午前9時で27度あって、晴れているけれどモクモクと入道雲が出ていたということがわかりますね。
――めちゃくちゃ夏っぽい。『ぼくのなつやすみ』みたいな天気ですね……。しかし、国際式天気記号はさっぱりわかんねーと思ってましたけど、凡例を引きながら見ればかなりいろんなことがわかって面白いですね……。
国際式天気記号については、検索するとめちゃくちゃ詳しい凡例が山のように出てくるので、ひとまず気象庁とウィキペディアをリンクしておきます。
過去の天気図をざっと見てみたけれども、意外と最近の天気図よりも昔の天気図の方がわかりやすい(日本式の天気記号なので)とか、国際式天気記号も凡例を確認しながら読み込めば意外といろんなことがわかって面白いということがわかった。
自分が生まれた日だけじゃなくて、入学式や結婚式やらの自分にとっての記念日の天気が大体わかってしまうというのはなかなか得難い興奮を味わえるので、ぜひ見てほしい。
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