きっと、スイッチ係のおじさんが別れを惜しんで30分間スイッチを切れずにいたのだろう。スイッチ係のおじさんは、13年間1日も休まずにEPSONのネオン灯のスイッチを切ってきたのだ。目には薄らと涙を浮かべていたに違いない。今までありがとう、スイッチ係のおじさん。
と妄想しながら、EPSONの光が消えた新宿の街を駅に向かって歩いて帰った。
淋しい気持ちになったのは本当だが、現実問題として消灯の瞬間まで2時間近くある。ずっとドン・キの前で待つ気力はない。近くの喫茶店で時間を潰すことにした。消灯時間は20時と決まっているのだ。10分前くらいからカメラを回せば十分だろう。
喫茶店でカフェオレを飲みながら、点灯の瞬間の映像を見返した。やっぱり傘が邪魔だ。消灯の瞬間はなるべく人がいない場所から撮影したい。ってことは、カフェオレなんて飲んでいる場合じゃない。早く外に出てロケハンをしなくては。
消灯の瞬間を傘で邪魔される訳にはいかないのだ。
しばらく靖国通りを行ったり来たりして、絶好のロケーションを見つけることに成功した。
近くに横断歩道がないので人が溜まることもなく、障害物もない。まさにEPSONのネオン灯を撮影するためにある場所である。何で最初からここにしなかったのか、自分に苛立ちを感じつつ三脚を立てる。
今回はちゃんと時間が決まっている。傘に邪魔されるストレスもない。ロケハンの途中、マックで買ったフライドポテトをかじりながら、消灯の瞬間を待つ。
カメラを回してから10分後、運命の20時がやって来た。
EPSONのネオンから光が、
消えないのだ。
5分過ぎても、15分過ぎてもネオンから光が消えない。
どういうことだ?
スイッチを切る係のおじさんが忘れちゃってるのかもしれない。だとしたら、早くおじさんに知らせなくては。でも連絡先が分からない。そもそも、おじさんがスイッチを切るのかどうかも分からない。
消灯予定時間から20分以上が経過した。点灯の瞬間の撮影で1時間以上カメラを回していたので、バッテリーの残りも少なくなって来ている。あと30分くらいしかもちそうにない。
今日じゃないのか?
いや、プレスリリースにはちゃんと6月5日の20時と書いてあった。間違いない。
と、その時!
20時31分、唐突にEPSONのネオンから光が消えた。あっけなく消えてしまった。消えてから10分くらいカメラを回していたが、もう2度と光が灯ることはなかった。
13年間、新宿の夜を照らしてきたネオン灯が、ひっそりと引退した瞬間であった。
きっと、スイッチ係のおじさんが別れを惜しんで30分間スイッチを切れずにいたのだろう。スイッチ係のおじさんは、13年間1日も休まずにEPSONのネオン灯のスイッチを切ってきたのだ。目には薄らと涙を浮かべていたに違いない。今までありがとう、スイッチ係のおじさん。
と妄想しながら、EPSONの光が消えた新宿の街を駅に向かって歩いて帰った。
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