ちゃんと涼しい
後日、白いブルゾンを冷蔵庫で冷やして着てみた。

それはさておき、ちゃんと涼しい。
しばらく着てたら、お腹が冷えてきたので危険を感じて脱いだ。
そのくらい涼しい。
また夏が来たら冷蔵庫に入れてみよう。
小学生の時、夏は金魚の水槽に顔をつけて涼むのが好きだった。
目を閉じると、水槽に酸素を送るコポコポという音が聞こえて、ガラス越しに水の冷たさが伝わる。
目を開けると金魚が涼しげに泳いでいて、それをぼーっと眺めるのが好きだった。
まるで水の中にいるように蝉の声が遠ざかる。
暑い日は金魚みたいに冷たい水をまとっていたい。
水の入った服があればいいのだ。
本物の水なら、見て涼しい、着て涼しい、夏にぴったりの服になるはずだ。
※この記事は『デイリーポータルZをはげます会』のサポートによって制作しました。
というわけで、水の入った服を作ることにしたのだが、今回やってみたいことがある。
それは「ランウェイスタイルと実用的スタイルを作ること」だ。
ランウェイだけだと「奇抜すぎて着れない…」と思われるが、実用的を作れば着る想像がつきやすくなるのだ。
どうして2スタイル作りたいのかというと、AmazonPrimeのメイキングザカットというデザイナーの番組を見て、制作衝動にかられたのだ。
その番組ではたったの2日でコンセプトを決め、ランウェイスタイルと実用的スタイルを1着ずつ作りショーをしていた。とんでもない速さと技術なのだ。
私もそれをやってみたい。
今回のコンセプトは「服の中の水」にしよう。
さっそくデザインを考えた。
まずはランウェイスタイル。
水を入れるクリア素材(PVC)で切り替えた白いブルゾンを作る。
クリアの面積が大きいので、見た目のインパクトが大きな服になると思う。
実用的スタイルは案が2つ浮かんだので2着作る。
1つ目は、貝殻の入ったビスチェ。
体の周りを水が一周しているので着るとひんやり涼しそうだ。
2つ目は背中が丸くあいたTシャツ。
のぞくとキラキラのラメが宇宙みたいに見える思う。
これでデザインが3つ決まった!
しかし、改めて見直すと詰めが甘い。
コンセプトには沿っているが、3着の系統がバラバラだ。全部違う雑誌に載っていそう。
でも、まぁ、いいか!
全部気に入ってるし、この3つが作りたい。
今回はクリア部分にPVC(ポリ塩化ビニル)を使う。コロナ対策でコンビニのレジに垂れ下がっているプラの素材だ。
ネットで調べたところ、ビニールはアイロンで熱接着ができるらしい。PVCも大きくくくればビニールな気がするから大丈夫だろう。
ということで生地屋に行き、透明とイエローのPVCをレジに持って行った。
お会計をしている時に、店員さんに「PVCはアイロンで熱接着できますか?」と聞いたら「できませんね。」と返された。
え!…?となった。驚きと不安で目が乾いた。
「くっつけるならボンドですかね?」と聞くと、「うーん、ボンド…か」と店員さんは答えを渋った。顔も梅干しぐらい渋くなってた。不安だ。
でもおつりは5円だった。縁起はいいらしい。
家に帰って、アイロンを当ててみたら、PVCはあっさりくっついた。
少し強く引っ張っても剥がれないが、かなり強く引っ張るとメリメリと剥がれた。店員さんは、完全にはくっつかないと言いたかったのだろう。
でもくっつくなら望みはある。試しに水を入れて1日置いておく。
次の日、圧をかけても水漏れしないし剥がれない。よかったーー!作れそう!
最初は練習も兼ねて、こちらの実用的スタイルから作る。
まずは水を入れる部分を作ろう。
丸く切った紙をPVCで挟んでじっくりとアイロンを当てる。
すると紙の部分はくっつかないため空洞ができるのだ。
さてさて、できたかな?と紙をとってみると、あーーーっ…!!
悔しい。出だしでこのミスは凹む。ティッシュと一緒に洗濯機回しちゃったときのやるせなさだ。
でもこうやって熱を加えれば好きなプリントをPVCに転写させることができるのだ。知らなかった。今度何かに使ってみよう!
立ち直って水を入れてみた。
ビニールに入った水を見ると夏祭りの金魚すくいを思い出す。
次に、水の中にラメとラメの動きをゆっくりにする洗濯ノリを入れ、穴をアイロンで閉じる。
次に黒いTシャツの背中に穴を開ける。
そして穴に水座布団をはめ込み、縫い付ける。
強度を高めるため、ジグザグ縫いで一周。
できたー!
このラメ銀河にはやぶさを飛ばしてみる。
この調子でもう一方も作っていく。
先程の失敗から、まっさらなクッキングシートを挟んでアイロンをかけた。
クッキングシートを外し、水を入れる。
熱接着が甘かったのだ。熱しすぎると溶けて穴があき、不十分だとこうなる。
再度接着してラメと貝殻を入れる。
動かすと貝殻がカラカラ転がる音が聞こえてくる。久しぶりに海の音を聞いた。
最後に肩ひもとファスナーをつけていたら、あれ、また水が漏れている!
水漏れの穴は小さく、PVCの間に水が浸透してしいるので再度熱接着は難しい。困った。
こういう時は、奥の手セメダインで固める。
接着剤で止めてある服は見たことがないし、着心地にも影響するからだ。
でも完全に乾いて、完成ー!
セメダインも目立たずでよかった。
よし、今日は気合を入れてランウェイスタイルを作る。
まずは製図。手持ちのジャケットから型をとり、線を整える。
さらにクリアにする部分を切り分けてから、裁断。
次に、水を入れる部分を作っていく。
次に水とラメとビーズを入れる。
あ、、もうかわいい!
そしてラメも入れる。
パーツが揃ったら、どんどん縫い合わせていく。
次に袖、裾、ファスナーをつける。
どんどん出来上がっていく。自転車で坂を下りているような疾走感だ。
最後に襟をつけて完成ー!
制作中にラメの魅力にハマってしまった。こんなに小さいのに出力するエネルギーが大きくて尊敬する。
さて、3点全て完成した。
メイキングザカットで自信や迷いは服に出ると言っていたが、
特に白いブルゾンは自信作だ!
さて、服を着てみよう。
まずはランウェイスタイル。
実際着てみると、水の部分はさほど肌に触れないので冷たくない。でも見た目は涼しい。
後ろはこんな感じ!ナイロンの透け感も涼しげ。
そして、水はかなり傾けないと動かない。
ずっと着ていると熱がこもるが、前を開けておけばよし。5〜7月ならばいろんな着方で楽しめそうだ。
次はビスチェ。
ピタッとした服なので、胴回りがうすらひんやりと冷たい。
体を揺らすと見た目も楽しい。
貝殻のカラカラ音と、水のサラサラ音が海を感じて心地よい。1番水を楽しめるアイテムだ!
着ても見ても涼しいが、水漏れの危険とセメダインを使用したことで実用性とは離れてしまった。
最後はTシャツ。
直に背中に貼りつくので、1番冷たい。大きな湿布を貼っている感じ。
1番着やすくて実用的かと思いきや、
背中の水を入れすぎた。これでは快適とは言えない。
今回、2スタイル作ってみてデザイン性と実用性の落としどころの難しさが身に染みた。
これを高次元でやっている世のデザイナーの方々には恐れ入る。
にしても、好きな服を作れて楽しかった。好きな服は着るだけで前向きになれるのだ。
服には不思議な力がある。
スーツを着るとピシッと身が引き締まるし、着物を着れば所作までおしとやかになる。
メタルバンドのTシャツを着れば愛想笑いなんてしないぞと思うし、アロハシャツを着れば浮かれてしまう。
まんまと服に踊らされているのだ。
私は服を着ているんじゃなく、服に着られているのかもしれない。
服のそういうところがおもしろい。
落ち込んでも、好きな服を着てラメを見てればすぐ元気になれるのだ。
後日、白いブルゾンを冷蔵庫で冷やして着てみた。
それはさておき、ちゃんと涼しい。
しばらく着てたら、お腹が冷えてきたので危険を感じて脱いだ。
そのくらい涼しい。
また夏が来たら冷蔵庫に入れてみよう。
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