特集 2019年5月19日

こいのぼりじゃない、「めだかのぼり」

「小田原市の郊外でたまたま見かけた鯉ではない魚ののぼりがキニナリます。いつも掲げているようではなさそうですが、なぜ鯉のぼりじゃないのでしょうか。珍しかったので調査をお願いします」という投稿が、晴天さんからはまれぽ.com編集部へとどいた。

調査したところ、変わったのぼりの正体は、大きな「メダカ」だということがわかった。小田原のメダカ保全のシンボルとして、生息地の空を泳いでいた。

(はまれぽ.com:田中 大輔

はまれぽ.comは横浜のキニナル情報が見つかるwebマガジンです。毎日更新の新着記事ではユーザーさんから投稿されたキニナル疑問を解決。はまれぽが体を張って徹底調査します。

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日本の5月を彩る風物詩として、誰もが知るこいのぼり。

逆流を遡り、果ては龍になるというコイと登竜門の伝説になぞらえ、子どもたち、特に男の子に強く立派に成長してほしいという願いをこめて、屋根より高く揚げられる吹き流しだ。

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コチラは日本人なら誰でも知ってるこいのぼり(フリー画像より)

最近ではそういった伝統的なこいのぼりだけでなく、水族館や魚に縁のあるお店などで、コイ以外の魚を象(かたど)った「変わりのぼり」を目にすることもある。今回のキニナルも、そんなユニークな変わりのぼりなのだろうか。さてさて、小田原のナントカのぼりの正体とは?

小田原と縁のあるあの魚が正体!?

さっそくだけれど、その「変わりのぼり」というのがコチラ。

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派手なこいのぼりに比べると、色合いはちょっと地味目?

確かに、よく見るこいのぼりとはデザインがだいぶ違う様子。
こいのぼりのようにカラフルではなく3匹ともに似た色をしているし、こいのぼりのコイにはないようなヒレがあるような気もする。

さて、みなさんはコレがなんの魚を模しているか分かるだろうか?
ヒントは、この「変わりのぼり」が揚がっている場所が小田原市内の桑原と呼ばれる地区だということ。

地元の人ならご存知かもしれないが、この場所は隣接する鬼柳地区と並んで、神奈川県内唯一の野生メダカの自然生息地なのだ。

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のぼりのそばに立つ看板。この近辺の一部の水路が市指定の保護区になっている

というわけで、この変わりのぼりの正体はメダカ。メダカを象った「めだかのぼり」というわけだ。
実は小田原市はメダカと縁が深い街で、県内最後の生息地があるだけでなく、童謡『めだかの学校』の歌詞に描かれた場所でもあるのだ。作詞をした茶木滋(ちゃき・しげる)氏が、市内の荻窪用水辺りで交わした息子との会話から着想を得てしたためられたそうで、市役所近くには記念碑も建てられている。

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市役所の近くに建てられた『めだかの学校』の碑(画像提供:小田原市)

また、市の魚(淡水魚)にも指定されているなど、小田原市とメダカというのは切っても切れない間柄にあるようだ。

職人の手作り! こだわりの詰まった「めだかのぼり」

「めだかのぼり」たちが悠々と泳いでいるのは、こんなところ。

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池のほとりで泳ぐ大きなメダカ。周りには田んぼなどが多い

手前の池はビオトープ(生物が生息できる環境の整えられた場所)として整備されていて、野生のミナミメダカたちが暮らしている。

「めだかのぼり」を作ったのは市内で造園業を営む沖津昭治(おきつ・しょうじ)さんで、この土地の所有者でもある。沖津さんは、子どものころから当たり前に触れ合ってきた動物たちを守りたいと、受け継いだ田んぼだったこの場所をメダカやほかの生き物たちのためにビオトープ化したのだそうだ。

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沖津さん(左)と娘の高橋さん。小田原のメダカ保全に奮闘している

娘の高橋由季(たかはし・ゆき)さんは『酒匂川水系のメダカと生息地を守る会』の代表を務め、関係団体とともに、お父さんの作ったビオトープだけでなく、この地域のメダカの保全に取り組んでいる。
かつては「よくいる魚」だったメダカも、環境の変化や水質の悪化により数を減らし、現在では日本に暮らすミナミメダカ、キタノメダカともに環境省の絶滅危惧種に指定されていて、人間による保護を必要としている状態なのだ。

「めだかのぼり」が作られたのは2001(平成13)年のことだそうで、沖津さんがテレビ番組に取り上げられたことがきっかけになったとのこと。
番組製作スタッフとの雑談の中から、「めだかのぼり」を作ってはどうか、というアイデアが出てきたため、沖津さんはさっそく行動を開始。
こいのぼりの生産量日本一として知られる埼玉県加須市の職人に頼み、例の「めだかのぼり」を作ってもらったのだそうだ。

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沖津さんが揚げている「めだかのぼり」は、娘さんの結婚式にも登場したそうだ

よく見かける化学繊維にプリントされたのぼりではなく、木綿生地に職人さんが手描きした手の込んだ一品。実際にメダカを見て描いてもらったそうで、細部まで忠実に再現されている。デザインの段階で専門家にもチェックを受けているから、その精度は折り紙つきだ。

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かわいいだけじゃなく、メダカの特徴がしっかりと描き込まれている

お父さんメダカは5メートル、お母さんメダカは3メートル、子どもメダカでも2メートルのサイズで、オスとメスの体の違いも表現されている。小学校で習った雌雄の見分け方を思い出して、違いを探してみると面白いかも。

メダカを脅かす開発の波

早春の青空を「めだかのぼり」が泳ぎ回っていたこの日は、専門家を招いての保全調査の日。
三浦メダカの記事でもお世話になった、神奈川県水産技術センター内水面試験場の勝呂尚之(すぐろ・なおゆき)さん、嶋津雄一郎(しまづ・ゆういちろう)さんらに加え、水族館職員や学生などのボランティアも集まって作業が行われていた。

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調査では生き物の採集と、数やサイズの計測が行われた

この日の調査では、266匹のメダカが捕獲されたほか、オイカワやタモロコといった魚類やヤゴなども見つかった。

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採集されたメダカ。計測後はもちろんリリースされる

また、外来種であるアメリカザリガニやカワリヌマエビも発見された。彼らに罪はないが、在来生物に害を及ぼす可能性があるため、保全活動の一環として外来生物を取り除くことも行われている。

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赤くはないが、れっきとしたアメリカザリガニ。残念ながら駆除対象

当地の周辺は都市計画上、工業団地の建設が決まっている場所もあり、現在の自然環境が大きく姿を変えることは疑いようがない。

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隣接する地区の一帯も、工業団地になることが決まっている

沖津さんや高橋さんは仲間たちとともに、市や県とも協議を持ち、できる限りメダカをはじめとする動植物の生息地を守れるように努力している。

行政や業者もやみくもに開発するわけではなく、そういった声に耳を傾けてくれることもあるそうだ。例えば、2011(平成23)年に近隣に県道が作られた際には水路の位置を調整したり、道路をくぐるようにトンネルなどを設けたりして、生き物の生息地が分断されないように配慮した工事を行ってくれたとのこと。

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辺りには魚だけでなく、サギやカモ、カワセミなどの鳥たちの姿も

でも、どれだけ配慮をしても、開発が進めば少しずつメダカやほかの動植物の住みかが減ってしまうことには変わりがない。

開発によって地域経済が活発になったり、恩恵を受ける人もいるから、一方的に悪いことだとは言えないが、自然への配慮が足りなければ貴重な命が失われてしまい、取り返しのつかないことになってしまう。

その一方で、工業団地の開発計画があったがために、用水路の整備などが行われず、結果的にメダカが生き残れたという側面もあるそうだから、なかなか一言では言い表せない部分もあるようだ。


取材を終えて

沖津さんは、自らの土地をビオトープにしただけでなく、官地である土手に市の許可を受けて30本の桜を植えたり、知人たちと協力して私費で「めだか之碑」を建てたりと、積極的に地元の自然を守ろうと活動している。

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「めだか之碑」。知らなければ個人で建てたとは思えないクオリティ

その活動を理解して協力してくれる人も増えてきているが、心無い人に困らされることもあるという。

メダカを獲ろうとする不届き者や、池や川に生き物を放す人だ。ペットショップなどで売っているヒメダカはもちろんのこと、同じミナミメダカであっても、別の水系から来たメダカを放してしまうと、自然には混ざるはずのない遺伝子が混ざってしまい「遺伝子汚染」と呼ばれる状態になってしまう。また、本来はいないはずの昆虫がメダカを捕食してしまうこともある。

悪意のあるなしに関わらず、元々ある自然を壊してしまうことになるため、勝手な放流は絶対にしてはいけないことだ。

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のぼりをきっかけに、ちょっとでもメダカのことを知ってほしい

そんな保全活動のシンボルとして、空を泳ぐ「めだかのぼり」。

調査だけでなく、観察会などのイベントを開く際にも揚げられるそうだから、目にする機会があるかもしれない。

そのときは、あの大きなメダカが泳ぐその下で、小さなメダカが暮らしていることを思い出してほしい。


-終わり-

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