特集 2019年4月12日

川沿いを散歩するヤギ

「神奈川県横浜市戸塚区の柏尾川沿いでヤギを散歩している人がいるという。一体なんのためにヤギを飼っているの?」という疑問が湧いた。

川沿いで散歩していたのは、2017年11月より福島県から戸塚へやってきたヤギのメイちゃん。
調査したところ、命の尊さを伝えるため毎日柏尾川付近を散歩していることがわかった。

はまれぽ.com:はまれぽ編集部

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JR「戸塚」駅の線路沿いで、ヤギが飼われているという情報を入手した。噂によると、よく柏尾川沿いを散歩しているという。

「戸塚」「ヤギ」のキーワードでインターネット検索をかけると、“戸塚ヤギブログ”なるものに辿り着いた。すると、ヤギの飼い主さんが以前取材させていただいた、「自家製焙煎珈琲モネ(純喫茶モネ)」のオーナー、片山大蔵(かたやま・たいぞう)さんだと判明!

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今回も取材依頼を快諾してくれた片山さん

どうしてヤギを飼っているのか? 街の人の反応は? いろいろとキニナルことはあるが、何よりヤギに会ってみたい! ということで、戸塚のヤギに会ってきました。

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戸塚のヤギ

事前に片山さんから、「戸塚駅東口の交番の近くにヤギ小屋への案内がある」と聞いていたので、

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戸塚駅東口を出て右手に進むと
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JRの線路沿いに
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張り紙を発見!

小屋の入り口にはヤギのお名前、

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「命(めい)ちゃん」と書かれている

そして入り口まで迎えに来てくれたのは・・・

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片山さんとメイちゃん!

「こんにちは~!」と声をかけると、柵のすぐそばまで寄ってきてくれたメイちゃん。

なにこの子、めっちゃかわええ~。会って数秒で心を許してしまう人懐っこさだ。

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お近づきのしるしにキャベツを手渡す
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片山さんのキャベツは一味違うようだ(笑)

それにしても、電車がきても全く動じないメイちゃん。

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貫禄さえある

片山さんは、「メイは順応性が高くてね、生まれて数ヶ月でここへ来たから、もう電車の音には反応しないよ。今は女性のヒールの音が苦手みたいだね」という。

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メイちゃんスマイル

2017(平成29)年11月に福島県から戸塚へやって来たメイちゃんは、現在1歳の女の子だ。

戸塚でヤギを飼育することとなった経緯について片山さんは、「約2年前、当時15歳だった少年による痛ましい事件が戸塚で起こったんです。まさか自分の生まれ育った街で、しかも自分の息子と同じ年齢の子どもがどうして・・・と悲しくて切なくて、とても残念でした。子どもを持つ親として、大人として、街づくりをしている人間として自分にできることはないかと真剣に考えたんです」と、当時の思いを振り返る。

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「自分の街のことは、誰かに頼らず自分で責任を持とうと思ったんです」

片山さんは、生き物や命と触れあうことで、子どもたちの生活に命(死)を身近に感じてもらい、街を巻き込んでコミュニケーションを取れる環境を作ろうと、メイちゃんの飼育を始めたそうだ。

そして現在は、片山さんの想いに共感してくれる協力者が共に飼育の手伝いをしてくれているという。

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主食が草なので、体臭もフンもほとんど臭くない

「いつもこの辺りを散歩するんだけど、街の人の反応がとても面白いんだよ。メイを通して学ぶことがたくさんある。言葉にするより、見てもらったほうが早いかな(笑)」と片山さん。

そこで、メイちゃんの散歩に同行させてもらうことにした。

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メイ散歩

メイちゃんの小屋は、桜並木が有名な戸塚区の柏尾川のすぐ真裏にある。

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リードをつけて出発!

横浜市内では、3頭までならヤギはペット扱いになるという。また、神奈川治水事務所(柏尾川管理者)と戸塚土木事務所に雑草を食べさせても良いと許可をもらっているので、お散歩中のお食事も問題ないそうだ。

川沿いから街中へ出ると、

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道行く人が振り返る
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反対側の川沿いまでやってくると

 

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雑草を食べ始めたメイちゃん

メイちゃんが雑草に夢中になっていると、後ろから男子高校生がやって来た。物珍しげにジーっとメイちゃんを見ていると、片山さんが「おいで!」と声をかけ、キャベツを手渡す。

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恐る恐るキャベツをメイちゃんに近付けていた

メイちゃんがキャベツを食べる様子を見届けると、男子高校生は片山さんに軽く会釈してその場を去っていった。

それから数分もしないうちに、今度は女の子が少し離れた場所からメイちゃんを凝視している。片山さんは先ほどと同じように声をかけキャベツを手渡す。

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「触っても大丈夫ですか?」

女の子はキャベツを食べる様子を興味津々に眺め、そっとメイちゃんの体に触れると、「かわいい・・・」と笑顔になる。

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目と目で通じ合っていた

どちらも控えめなイメージの子だったが、積極的にメイちゃんと触れ合っていたことに驚いた。

「人は見た目じゃ分からないなぁ、と改めて思ったよ。普通だったら関わることのなさそうな人も、メイがいると笑顔で寄ってくるからね」と、片山さんは嬉しそうに話す。

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通りすがりの男性は「おぉ、ヤギか! 珍しいね」と躊躇なく手を伸ばす
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塾へ行く途中の男の子も足を止めてメイちゃんと交流

散歩をスタートして20分も経たないうちに、メイちゃんが街の人にもたらす癒し効果を目の当たりにした。触れ合う人がみんな笑顔になっていくのだ。

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そしてメイちゃんはひたすら草を食べる

3歳になる息子さんを連れていた女性は、「戸塚に住んでいますが、ヤギがいるなんて知りませんでした! 息子は動物が好きなんですが、ヤギは初めてだから良い機会になりました」と、メイちゃんにキャベツをあげている息子さんの様子を眺めていた。

片山さんは、「メイを通して“街があったかい”と感じることもあるし、その反対もある。お孫さんがメイの嫌がっていることをしても注意しないおばあちゃんとかね。そういう時は、自分が代わりに注意したりして。だからこそ、こういう地域のつながりを大切にしたいと思うよ」と話してくれた。

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約1時間のお散歩で、20人以上の方がメイちゃんと触れ合っていた

手持ちのキャベツがなくなったところで、本日のお散歩は終了。

黙々と雑草を食べるメイちゃんと、それを見て笑顔になる戸塚区の住民たち。ただただ様子を見ていただけなのに、なんだかちょっと幸せな気持ちになった。

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戸塚駅の3・4番線ホームからもメイちゃんの様子が見える

基本的には柏尾川近辺をお散歩しているメイちゃん。雨の日以外であれば、お散歩しているメイちゃんにバッタリ出会えるかもしれない。


取材を終えて

片山さんの営む純喫茶モネには、メイちゃんの活動を応援するグッズやお客さんが自発的に作った「ヤギ募金」が置いてある。
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メイちゃん缶バッチ(500円)
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もうお金が入らないほどいっぱいだった

ほかにも、くず野菜を提供してくれる地域の方や、定期的に小屋へ遊びに来てくれるファンもいるそうだ。

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生き物って、いいなぁ

今年の春には子ヤギを迎え入れる予定とのこと。戸塚がヤギの街になる日は、そう遠くないかもしれない。

ー終わりー

取材協力
戸塚ヤギ
http://fanblogs.jp/totsukayagi/

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