まずは林さんが下見
断崖絶壁を前に足がすくむ。崖っぷちまで歩いていける気がしない。まあ、あれだ。無理をしなくても、「崖まで行ったけど、やっぱりダメでした~」という体で記事を書けばいい。林さんもきっと同意してくれるだろう。
しかし、林さんは本気だった。まずは自分が様子を見て来ると言っている。一番怖そうな場所を探すと言うのだ。
最初に入り江の左端の崖から下を覗く林さん。僕は崖っぷちから距離のあるセーフティエリア内からその様子を伺う。
「ここも怖いですけど、もっと凄い場所がありそうですね」
と言って別の崖っぷちを探し始める林さん。
苦手を克服させたい一心なのか、ただの意地悪なのか。林さんの本心は分からない。どうしても崖の上で熱いニンジンを食べさせたいようである。下見を続ける林さんの後ろ姿に軽い苛立ちを覚えたのでこの写真を掲載しよう。
この写真を撮っている時、観光案内係の人がその様子を笑って見ていた。自分が笑われた事に気付いた林さんは「笑うんだったら、あんなの置いとかないで欲しいですよね」と言っていた。確かにそうだ。
舞台決定
林さんの下見はさらに続く。入り江の一番奥に向かって歩き始めた。
崖のはじっこまで辿り着いた林さんはうつ伏せの状態で下をのぞく。最初にのぞいた場所とは比べ物にならないくらい、怖いらしい。
あまりにも怖いので思わず笑ってしまったようだ。
ここなら苦手克服の舞台に申し分ない。らしい。
谷の様子を写メールで送ってくれた。
ほどなくして届いた写メールがこれだ。
2008/6/7 15:15 -----------------------END----------------------- |
メールに本文はなく、写真だけが添付されていた。写真を開いてすぐ、僕はその場にうずくまってしまった。その様子を林さんが動画に収めていたので、そこから画像を切り出してみた。
なぜ動画を撮影していたのか。理解に苦しむところだが、とにかく添付されていた写真を見てその場に立っていられなくなってしまったのだ。
やっぱり無理だ。
セーフティエリア内でしばらく座り込んでいると、林さんが崖っぷちから戻って来た。
「とりあえずいける所まで行ってみる、っていうのはどうでしょう?」
妥協案の提示である。
そうまでして僕を行かせたいのか。行かせたいのだ。目を見れば分かる。
仕方ない。行ける所まで行ってみよう。
こうして写真を見返してみて改めて思う。顔が必死だ。ここ数年、こんなに真剣な顔で何かを訴えた事があっただろうか。多分ない。
その思いは林さんにも伝わったらしく、一旦セーフティエリア内に戻らせてもらう事にした。