「マルタ騎士団に選ばれましたはすべて詐欺」
日本での活動経験もあるマルタ騎士団だが、2023年現在、まだ両国間の国交はない。
なのでマルタ騎士団としても、日本で活動を広げたいな……という思いがずっとあったそう。そこにふらりと現れたのが、騎士団への理解MAXの武田さんだった。
まさに「神の思し召し」。マルタ騎士団員は全員カトリックを信仰しているので「そういうの好きなんですよね」と武田さんは言う。
武田さん 人と人とが自然に結びつくというところに、やはり神のご計画を感じるわけです。なので、団員の候補は出会いのなかから自然と決まっていく感じなんですよ。
そういう感じだから、「入りたいです!」という自薦は受け付けてないし、突然「あなたがマルタ騎士団に選ばれました!」なんてこともない。
というか、実際に「あなたが選ばれました!」っていう詐欺もあるらしい。
武田さん ウィーン時代、同僚にそういう手紙が届いていましたよ。蝋で封をした立派な封筒に、「マルタなんとか騎士団」とちょっと変えた名前が書いてあって。高額な入団金を募る詐欺なんですね。
日本だと「なんだこれ」となりそうだけど、マルタ騎士団の名が通っているヨーロッパなら「あのマルタ騎士団から!」と舞い上がってしまう人もいるのだろう。
「レターパックで現金送れはすべて詐欺」と同列に、「マルタ騎士団に選ばれましたはすべて詐欺」と覚えておこう。
マルタ騎士団=メタバース説
武田さんが騎士になってから1年が経つ。ゆくゆくは日本支部を作ったり、日本との国交を開いたり……といった目標はあるが、「それはまだ先の話ですね」と武田さんは言う。
武田さん まずはマルタ騎士団の原点でもある「病者と貧者への献身」が第一であり、日本でそうした活動を立ち上げていくのが重要だと思っています。あとは知名度ですね。日本でマルタ騎士団はほとんど知られていないので……。
欧米にはマルタ騎士団の本は山ほどあるのに、日本にはほとんどない。それなら自分で書いてしまおうと、武田さんは『マルタ騎士団 知られざる領土なき独立国』(中央公論新社)を書き上げた。
「歴史だけでとんでもないページになってしまって(笑)」と、泣く泣く削ったところもあったそう。
十字軍から始まり、長い長い歴史をたどったマルタ騎士団だが、団員数は現在が歴史上最多なのだという。
入団の条件が緩和されたこと、そして、インターネットをはじめとしたテクノロジーの発達も理由のひとつ。なんなら騎士団でZoom会議もやってるらしい。
領土はないけど世界中に団員がいて、ネットワークでつながっている……。なんだかマルタ騎士団って、ちょっとメタバース的なものを感じますね。
武田さん 確かに、メタバース上ならスクードも復活できそうですね(笑)。これは前医療総監が言っていたのですが、「国の価値は領土の大きさではない。あえていうならば、人道救助活動の舞台すべてが私たちの領土である」と。世界中が私たちの活動領域であることを、よく表した言葉だと思っています。
今日も世界のどこかで、マルタ騎士団は人道支援に駆けつけている。領土はない。だが確かに存在している国として。
マルタ騎士団はマルタ騎士団
「マルタ騎士団ってなんですか」という質問に、「『マルタ騎士団はマルタ騎士団です』と言うしかないんです」と武田さんは言っていた。
世界でもオンリーワンの存在だから、そう答えるしかないのだそうだ。現在の形になるまでにはたくさんの経緯があるし、正直この記事でもだいぶ説明を簡単にしたところがある。
そうしたところは武田さんが著書でビシッとまとめてくださったので、ぜひ読んでみていただければ。「国家ってなんだろう」って思います。
そして武田さんは「旅のラジオ」にもゲスト出演されています。こちらもどうぞ!