特集 2019年8月9日

だるまの目はスピーカーに、ブラウン管テレビは打楽器にする!それが娯楽のものづくり「Maker Faire Tokyo」

だるまの目がスピーカーに見えたから、本当にスピーカーにしてみたという作品

作りたいから作ったものって最高だ。はつらつとしたエネルギーに溢れている。

そんな制作物を一気に楽しめるイベント「Maker Faire Tokyo(メイカーフェア・トウキョウ)」が8月3日(土)4日(日)、東京ビックサイトで行われた。そこで出会った制作物たちをレポートしたい。

1981年群馬県生まれ。ライター兼イラストレーター。飲食物全般がだいたい好きだという、ざっくりとした見解で生きています。とくに好きなのはカレー。(動画インタビュー)

前の記事:広島県呉のメロンパンはラグビーボール型

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「作りたかったから、作ってみた!」が溢れている

ものづくりの祭典「メイカーフェア」。その界隈にとっては、夏の風物詩ではないだろうか。我らがデイリーポータルZも毎回ばっちり参加している。

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当サイトで運営しているロボット相撲大会、技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)も開催されました!

今回集まった団体数は約350。会場には、時に緻密すぎるくらいに緻密に、時に「えいやっ!」という力技で、産声をあげた創作物たちがぎっしり並んでいる。

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巨大クレーンのミニチュアが手作りされていたり(ちゃんと荷物を掴む)
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すごいバランスで置かれてる石があったり
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全身を一瞬で撮影できる(!)3Dスキャナーが置かれてたり
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紙飛行機の世界チャンピオンがさっそうと紙飛行機を飛ばしてたりする

……と、至るところで愉快な何かが起こっているのだ。

そんな祭典で出会ったもののなかでも特に「なんだろうこれは」「用途がわからない」と思ったものや、ずっと眺めていたかったもの、謎の熱いパッションを感じたものを中心に紹介してみたい。

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だるまの目がスピーカーになっている! 

ふと、眼力の強いだるまと目が合った。 

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長机の中心部に、だるま3体がどごっと置かれている。その情景も含め、なんなんだこれは。胸に迫ってくるものがある
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目が、スピーカーになっている。ちなみに小さいだるまの目もスピーカーになっている

なんとも強い。眼力にひるんで、目をそらしたら追っかけてきそうだ。 

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「常々、スピーカーユニット(音がでる部分)が、 目玉に見えるなと思いつづけ、日々過ごしておりました」

だるまの目の穴開けには、「ホールソー」というノコギリのようなギザギザ付きのドリルを使っているという(詳細は、作者ご本人が書いたnoteが詳しい)。 

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制作過程のようす。おお……きれいにくり抜かれている

気になったのでつい聞いてみてしまった。だるまの目をくり抜くときってどんな気持ちなのでしょうか……?

全く罪悪感がないわけではなかったのですが、くり抜いたままではなく、最終的には目を装着するので、大丈夫だろうと考えました

たしかに。眼力アップもできたし、だるまも願ったり叶ったりかもしれない。

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ブラウン管テレビが打楽器に変貌 

徐々に希少品になりつつある、分厚いブラウン管テレビだが、こんな活用法があったのか……!とハッとなる作品があった。

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叩いている
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単にテレビを叩いて出る音じゃなくて、楽器音が響いている!その名も「ブラウン管ガムラン」

 

……って一体どうなってんだ。どうやって鳴らしてるんだろう。おもむろにわたしも叩いてみたが、ただ叩くだけでは全く鳴らない。

ブースの人に聞いたところ、ブラウン管から出ている電磁波を人体でキャッチし、足につけたコイルへ通すことで音を鳴らしているという。

……えっ。そんなことができるのか!

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装置を足にくくりつけてる
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このプロジェクト「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」は、古い電化製品を使い、電子楽器を生み出し、オーケストラをつくっていこうとしているんだそうだ。

使われなくなった家電も、こんな第二の人生が待っていたら嬉しいんじゃないだろうか。

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Googleホームが、昭和の機器を動かす

令和と昭和が共同作業しているブースもあった。

Googleホームに話しかけると、家電が動く。ここまでは普通である。だが、家電はすべて昭和の遺産。お願いする際に使うのは黒電話である。

「オーケーGoogle。テレビをつけて!」

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黒電話、むかし実家にあったぞ。久しぶりに触った

数秒のタイムラグののち、何かがテレビに写った。 

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映像は、下に置いてあるタブレットを介して、写しているという

ほかにも、真空管ラジオ、レコードプレーヤーなどがずらりと並んでおり、全部Googleホームと連動している。 

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昭和の民家の家電、寄せ集め状態

軒並みすぐには付かず、数秒経ってからなんとなく付いていく。そんな昭和家電のマイペースな感じにぐっときた。 

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制作工程が激しい「しゃべるケーキ」

メイカーフェアの様子をツイッターで閲覧していたときのことだ。激しく揺さぶられる出展があった。「しゃべるケーキ」である。ライターさくらいさんがツイートしていた。

ツイートに「どうかしてる」と書いてあるが、確かにすごい。目の見開き具合といい、口元といい、POPでありながらも、ただならぬ狂気を孕んでいる。

 ぜひ肉眼で拝まなければ。現場に向かったところ、まさに今、作られているところだった。

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赤い。クリームは本物のバタークリームだそうだ
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「しゃべるケーキは建造中!」似顔絵が似ている
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内側に埋まってしまったまつ毛を押し出すため、ケーキのなかに手を突っ込んでいるところ

次第に道ゆく人も「なんだなんだ?」と足を止め始めた。ああ、溢れんばかりのライブ感よ。

やがて電流がつたうと、ケーキは朗らかにハッピーバースディの歌を歌い始めた。時折「スタッフが美味しくいただけません」とも言ってくる。

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まばたきは多め

そんなケーキだが、発案のきっかけを聞いたところ、意外な回答が。会社の社長の誕生日に、ケーキをプレゼントしたいと思い、つくったことに始まるんだという。

電子工作は、社長から教わったんです

社長はどんな反応をしていましたか?と聞いたところ、「元々リアクションが大きい人ではないので、喜んでいるのかがわからなかったのですが……、奥さん曰く『喜んでいる』とのことでした」とのこと。

見た目のどうかしている具合に反して、ちょっといい話ではないか。 

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テッシュを引っ張ると波動拳

次に関してはもう、とりあえずGIFを見てほしい。

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テッシュを引っ張ると波動拳が起こる
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手元に大量のティッシュが残るのがポイント

こういう、ささやかな喜びを寄せ集めて暮らしていきたい。

バームクーヘンを「公平」に分配するAIの公平じゃなさ

「『おいしいものをフェアに切り分けたい!』という願いは、人類にとって大きなテーマです」

そんな壮大な思いが込められた作品があった。何をやるかというと「バームクーヘンの分配」だ。

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PCの画面に写った顔から、AIが勝手に人々のBMIを判定し「公平に」バームクーヘンを切り分けるという

BMIが多そうな人には少なめに、BMIが少なそうな人には多めに分配してくれるという。ただし顔からしか判断しないので、正確なBMIとは限らない。

どうしよう。顔が丸いので心配だ。

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顔判定を元に導いた、バームクーヘンの分配図
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分配図を元にカットされていくバームクーヘン

取り分の少なさを不安視していたところ、案の定少なめであった。勝算のありそうな人にだけ実用をすすめたい機械である(楽しいけど)。 

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 『美味しんぼ』海原さんを唸らせた米を半自動でつくっちゃう装置

『美味しんぼ』に登場する「本村米」をご存知だろうか。お米をひと粒ずつ選別し、粒の大きさを揃えて炊くという、すこぶる丁寧な過程を経て生まれる白飯だ。

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微妙な炊ムラがなく美味しいと、海原雄山が絶賛。15年経っても忘れられない味なんだという

それを「自動で作り上げてしまおう!」という夢の機械があった。力技っぷりよ。

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こちらです。ダンボールのなかにカメラが内蔵されている。「全自動」が「半自動」に書き直されているな

お米をカメラで拡大撮影し、その画像から、状態を確認しているという。

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選別されていく米。合否の文字がフリーハンドなところにぐっときた

ともあれ、今いちばん食べてみたいお米である。

ずっと見ていられそうな、植物がじわじわ動く装置

ずっと見ていられそう……と思った作品があった。白い額縁のなかで静かに、植物のようなものが、いじらしく動いているのだ。

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静止画だと「白と黒で構成されたシックな標本」なのだが……
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じわじわ動くのだ

動く仕組みは磁石だ。植物に磁石にくっつく塗料が塗られている。台の下で、磁石をくるくると回し、その動力で、植物が開いたり閉じたりしているかのように見せているんだとか。 

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これが台の下の磁石

自宅の壁掛けにして、誰かが来た時に「ファッ!動いている……」って驚かせてみたい。 

自作のニキシー管

オレンジ色のやわらかい光で、0から9までの数字を表示する「ニキシー管」。いわゆる「レトロ自販機」と呼ばれるような、うどんやそばが出てくる自販機などで、待ち時間の秒数表示に使われていたりする仕組みだ。

現在市販されている機器には使われていない。だが、趣味で所有したり、カスタマイズしたり、作ったりしている人がいる。

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メイカーフェアでも見られた
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個人で手に入れたニキシー管を、時計として使えるよう配線を組んだものだという

外側のプラスチックは100円ショップで購入したもので、もともとは全く関係ない人形が入っていたという。そういう改造秘話、ぐっときてしまう。

と、そこにひとりの青年があらわれ、ブースがどよめいた。その界隈では有名な、ニキシー管を自作している人だという。

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見せてもらった
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うわー。これ、作れるのか!

どうやって作るんですか?と聞いてみたところ「ガラス工芸のような感じです」とのこと。その作業工程、ぜひ見てみたい。

約400体あるという「琵琶湖の神様」

「琵琶湖の神様」

そう聞いたとき、あなたはどんな姿を思うだろうか。正解はこちらだ。

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なんとも形容しがたい形状

琵琶湖の近くにある成安造形大学に所属し、琵琶湖に触れるなか、琵琶湖で何かできないかと考え、作ったのがこの神様という。

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祀られていた。説明書きには「琵琶湖と3Dプリンタを大切に思い対峙することが必要となります」と書いてある
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琵琶湖と琵琶湖の神様との間には、上記のような類似点があるという

 神様は、3Dプリンターで生成されているそうだ。しかもほぼ毎日。1年以上続けた結果、今手元には約400体の神様があるという。

神様は、3Dプリンターで増えるのだ。

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1個もらった。神様はもらえる

 そのほかにも色々

と、ざっと琴線に触れたものを紹介したのだが、作品はそのほかにもモリモリある。

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磁石の働きで表示が変わる仕組みという
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タブレットの画面に笑顔を見せると、鉄道模型が加速する装置。しかめっ面をしたら、低速になった
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「令和」としか叩けないキーボード

作りたい気持ちってすごい。ただ思い描くだけじゃなくて、作っちゃうってすごい。相手の高揚を感じて、こちらもつい高揚する。「やったー!」という気持ちになる。

答えがあるとかないとかどうでもいい。わかってもわからなくても、ひたすらニコニコしてしまう。

 そんな瞬間に何度も出会える奇跡のようなイベントだった。


電気、1日触ってると慣れるらしい説

「高電圧や炎、レーザーなど激しいものが好き」とプロフィールに書かれた、高エネルギー技術研究室さんが「テスラコイル」という、雷のような稲妻を発生させる装置などを展示していた。

ブース内では電流を触わることもできるという。触ってみたところ、激しくビリビリし「ひい!」と飛び上がった。

 

しかし、ブースの人は平常心でその電流に触り続けている。「痛くないですか?」と聞いたところ、「慣れました」という。

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電流に触ってるところ(電流がよく見えないけど)

「今朝初めて触れた」「触れる前まではドキドキしていた」らしいが、触っているうちに慣れたという。……電気ってたった数時間で慣れるものなのか。

よくわからない知見がたくさん増えた1日であった。最高だ。 

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