特集 2026年3月26日

奄美群島・加計呂麻島に幻のような角打ちがある

店主・茂岡さんにお話を聞く

店主の茂岡保久さんもお客さんと一緒にハイボールを飲んで楽しそうである。あまりお邪魔にならないように少しだけお話を伺った。

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店主・茂岡保久さんと私

――この売店はいつからあるんですか?

ここは、終戦後は集落でやっていた(運営していた)売店で、うちの親父の伯父が集落から買い受けて、昭和35(1960)年からはうちの母親がやり始めたの。それから平成27(2015)年の4月いっぱいまではお母さんがずっとやっていた。

――お母さんが長くやっていて、それを継がれたんですね。

自分はバスの運転手をしていたから。

――あ、前に来た時にちらっとそのように聞いた気がします。加計呂麻島を走るバスの運転手をしていたんですよね。

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島のあちこちで見かける「加計呂麻バス」

自分が(売店を)やるようになった最初は、バスの運転の合間に2時間、3時間って休憩の時間があるから、その間に店を開けて、5年前に定年して、それからこういう風にやるようになった。

――なるほど、定年されてからこのようにお店の中で飲むスタイルが始まったんですね。

そうそう。朝9時から売店を開けて昼は13時まで。13時から18時までは休憩。

――で、18時から19時半はこんな風に営業されると。飲みに来るのは地元の方が多いですか?

そうでもない。外からの人が多い。ここで飲みたくて来るっていう方が多い。年に3回、4回来たり。予約して来る人もいる。いい魚が獲れたら来る人もいる(笑)

――そうなんですね。こうやってみなさんが持ち寄った食べ物をいただけるのもうれしいです。

曜日によって持ってきてくれる人がいたり、バイキングみたいに食べ切れない時もある。

――前回来た時も色々いただきました。

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前に行った時ももずく酢とかお漬物とか色々食べさせてもらった

都会ではお金出せば遊ぶところがあるけど、田舎には遊ぶところがないから、ここが唯一の楽しむ場所かなと思ってやってる。ここで金儲けしようと思ったら無理だからね。ここは“ゆらい処”(「ゆっくりくつろぐ場所」という意味の言葉)だから。観光で来た人同士がここで話したりするのも楽しいでしょう。

――楽しいです。ここにいると色々な人と自然に話せます。茂岡さんは西阿室のご出身なんですよね。

うん。加計呂麻島は30の集落がある。限界集落も多いけど、西阿室は諸鈍の次で、2番目に大きい集落。加計呂麻島は、屋久島よりも外周が大きい。

――海岸線が複雑だから、そうなるわけですね。

そして島全体で山林が80%ある。でも生まれ育った島で生活できてよかったなと、後悔はないね。

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――昔は西阿室にこういう売店が他にもあったんですか?

4か所あったね。今はここだけになった。

――あの川のうなぎはいつからいるんですか?

ずっといるよ。20年、30年前からいる。夏場はそこに椅子を出してうなぎを見ながら飲む。テーブルまで出す時もあるよ。前も、世界的な有名なチェロの人が来て外で弾いた。有名らしいけど、こっちはわかんないから(笑)

――いいなー!それはいい時間だったでしょうね。

勝手な店よ。ええ加減。てげてげ(「いい加減」「ほどほど」といった意味の言葉)よ。

――でもここにこの店があることは貴重な気がします。

もう70歳になるからね。まあ、75歳までは続けるかなと。今は区長もしとるから忙しい。

――前に来た時も、外の放送をやっていらっしゃいましたよね。

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店の近くに設置されたマイクで集落内に重要なお知らせを放送するのも茂岡さんの役目

うん。会議もあるし、でも誰かがやらないといけないから。売店してると、色々、付き合いもできるから。でも毎日楽しいよ。

――前回、釣りが趣味だと聞きました。

そこに貼ってる写真、全部釣った魚。

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壁には茂岡さんが釣った魚の写真がたくさん貼られている

――すごいなー!茂岡さんもこうして一緒に飲んでいるのが楽しいです。飲むのはいつもハイボールなんですか?

ハイボール飲んで、家に帰って、仕上げに黒糖焼酎を飲む。

――仕上げに黒糖焼酎!いいですね。

夢のような時間の終わり

と、そんな会話をして、黒糖焼酎のソーダ割りを飲んで、気づけばあっという間に19時半になっている。「遅くまですみません!」と言うと、茂岡さんは「いや、いいよ。前は19時半になると『蛍の光』をかけてたけど、みんな無視するからやめた」と笑う。

それでも常連さんがテキパキと片づけをして帰っていくので、私たちも会計をして(当然だが、驚くほど安い)店を出ることにした。

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加計呂麻島の夜に茂岡売店の明かりがある

「また来ます!」と言う私たちを、茂岡さんは「もう来るなよー。次来たら忘れてる」と、笑顔で送り出してくれた。

外に出るとでっかいカニがいて、いつの間にかすっかり晴れた空に月が煌々と光っていた。

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うわ!でかいカニ!と騒いだが島では当たり前のことらしい
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月があまりに美しく輝いていて、見惚れてしまった

集落で唯一、遅くまで営業している「お食事処もっか」というレストランがあって、そこに行ってみると、さっきまで茂岡売店で飲んでいた方がたくさんいた。そこで話が弾み、明日はその場にいたみんなで綺麗な砂浜に出てピクニックをしようということになったりした。こんな出会いも、茂岡売店からの流れがあったからこそだったと思う。

すっかり酔って民宿へ戻る。すぐに布団に横になって、翌朝、集落に鳴り響く放送で目が覚めた。「携帯電話の落とし物がありました。売店のベンチの上に置いてありますので、心当たりのある方は取りに来てください」と、そんな放送だった。

きっとそれは茂岡さんの声で、こうして朝早くから仕事をしているんだなと思いながら、昨日の楽しい時間をぼんやりした頭で思い浮かべていた。

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奄美大島の旅を終えて、茂岡売店の店内に飾られていた絵を指差して茂岡さんが「あれは“ちゃず”っていうイラストレーターが描いた絵」と教えてくれたのを思い出した。

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茂岡売店に飾られていたイラストレーター・ちゃずさんの絵

その“ちゃず”さんのことを調べていたら、國武綾さんという方が撮った『夫とちょっと離れて島暮らし』というドキュメンタリー映画が2021年に公開されていて、その映画がちゃずさんの加計呂麻島暮らしを追ったものだと知った。

自分の加入しているサブスクで配信されていたので早速それを見てみると、加計呂麻島の西阿室に移住したちゃずさんの暮らしぶりが映る中に、茂岡売店も、その周辺の景色も、集落で会った人たちもたくさん登場していた。

すごくいい映画で、それを見てしまったものだから、私はもう茂岡売店に飲みに行きたくてたまらないのだった。営業日の18時になると、「今日も茂岡売店で誰かがお酒を飲んでいるんだろうな」と思う。心の中にあの店がある。

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編集部からのみどころ
こういう素敵な原稿に見どころを書くのは緊張しますが、夕焼け・夜のカニ・漬物などのディテールを重ねることでその場の空気とナオさんの気持ちが分かります。
前半の「観光客としての私の感傷的な気分」が旅行そのものを言い表していているし、最後の「今日も茂岡売店で誰かがお酒を飲んでいるんだろうな」も旅の余韻があるな~!!(林)

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