8cm短冊シングルにこだわる
今回は大好きなスーパーマーケット「エレナ」のイメージソングCDを自作する。エレナにも、曲のプロデューサーにも許可が取れた。(くわしくは前回の記事をぜひご覧ください! そのままこの記事だけ読んでいただくのでも楽しめます!)
制作にあたって、ひとつだけ決めていたことがある。それは、いわゆる普通のサイズのCDではなく、8cmの短冊シングルで作るということだ。
人生で初めて購入した音メディアがそれだった。たしか小学5、6年生ぐらいの時だったように思う。佐世保の市街地にあった小さなCD店で、なけなしのお小遣いで手にしたのは97年リリースの「WHITE LOVE(SPEED)」だった。
当時おおいに流行っていて、学芸会みたいな催しでも大活躍の曲だったのだ。私も買ったよの一言で一気に場が盛り上がるのは本当に気持ちが良かった。「絶対に8cmの短冊で!」 となったのはそういう思い入れがあるからだ。
とはいえ、私はストライクな世代ではないかもしれない。なぜなら、「8cmシングルはケースを折っていた」ことを知らなかったからだ。先日、エレナソングCD化を許可してくれたエレナ営業企画部長のツヨシさんからその事実を伺った。省スペースの意味も含めて折っていたようだが、余った紙はどうしていたのだろう。ぐいっと折り曲げていたのか。えぇ、そんな。絶対斜めの線が入ったり紙がぼこぼこしたりするよ。そんな自信ないよ。
周囲に聞いてみると、折る派と折らない派がいたようで、ここを掘り下げると大変なことになりそうなので先を急ごう。
90年代の青春を代表するものの1つ、8cm短冊シングル。いつのまにか消えてしまった幻のようなメディアだからこそ、いまこの手で形にしてみたかったのだ。
お手軽に自作するなら「フリープリントのCD-R」
「(普通のCDではなく、8cmCDを作るなんて)大丈夫ですか?」と、前回インタビューさせていただいたエレナソング生みの親・狩須魔緒(かりす まお)さんから心配されてしまうのも無理はなかった。
狩須「でもあれか、業者にプレスしてもらうわけではなく家のパソコンでプリントしたり曲を書き込んだりする形ですよね。そしたらフリープリントのやつがいいですよ」
フリープリントというのは、プリンターなどで直接ラベル印刷ができるものだ。
ネットで調べてみるとあった!バンドをやっている義兄や音楽に詳しい知人に「8cmCDを自作する方法」を尋ねてみたが、「海外の業者にでも頼まないと無理では」といったコメントもありややひるんでいた。そう簡単に手に入らないのではと思っていたので意外だった。
8cmのシングルCDを手作りする方法
8cmのシングルCDを手作りする。手順としては、こうだ。
- フリープリントのCD-Rを購入する
- 音源を用意して、焼く
- 盤面をデザインし、CD-Rにプリントする
- ジャケットをデザインし、用紙にプリントする
- 短冊ケースに入れて、完成!
もちろん、盤面やジャケットのデザインは自分でやりたい。しかしわたしはデザインに関してはまったくの素人で、最近やっと「レイヤー」を覚えたレベルだ。文字同士の幅を調整したり画像をぐるっと回転させたりデータを出稿するときのアレコレといった作業はほぼ夫に丸投げだったのである。
その不安を狩須さんに打ち明けると、「とりあえず、こちらをお貸ししますから!ぜひ読んでみてください」と、2冊の本を手渡された。
ちなみに、私が使っているのはAdobeの代替ソフトともいわれているAffinityだ。IllustratorやらPhotoshopっぽいことができるそうだ。
手にした瞬間よみがえる青春
フリープリントのCD-Rが届いた。
手にした瞬間、やはり心の隅っこがキュンとする。縦長の短冊サイズもだけど、この四角いケースに入ってるのもなかなか懐かしさをそそる。
25年前ぐらいだったか、ナチュラル系の雑貨屋などに行くとレジ近くに置いてあったのだ。「Sea」とか「Forest」とか書かれたこのサイズのリラクゼーション系のCDが一枚500円ぐらいで。小遣い片手にたくさん買い集めていたが、「真珠」とか出てきたあたりでやめた。癒しってなんなんだろう、と思ったのだ。
さて、このフリープリントCD-Rに、先日の記事の際に狩須さんから音の細部を調整してもらった音源を入れる。私のデスクトップPCだとなんとか対応できそうである。しかし待て、ちょっと、この曲を書き込む作業って、ダルマに目を書くのと同じぐらいヘビーなことなのではないか?
すっかり委縮してしまった私は、先に盤面とジャケットのデザイン制作から始めることにした。
エレナレッド、盤面を染める
苦手意識からか、PCを開く手が重々しい。しかし、デザインが苦手を通り越して作りたいのだ私は、エレナのCDを。
狩須さんからいただいた8cmCD盤面とジャケットの雛型を開くと、「とうとうここまできたか」と何かがこみあげてくる。いやいやまだこれからだというのに。飲み込め何かを。
エレナロゴを開いた。普通ならおいそれと触っていいものじゃない・・。頭をピッと下げてから作業に移る。
失礼を承知しつつ、すでに出来上がったデザインの上からおそるおそるエレナデザインを施していく。エレナロゴの独特な赤をスポイトで吸い取り、「これがエレナレッドか」と目を細めたりした。
強すぎる長崎の要素がぶつかり合い、徐々に画面は黄色からエレナレッドへと移り変わっていった。
やっぱり、「象が飛んでいた」だから
次はジャケットだ。ここは、どうしても「象が飛んでいた」にしたかった。個人的な反省も含めて。
前回の記事を読んでくれた狩須さんからこんなコメントをいただいていたのだ。
狩須「あの……ちょっと言いにくいんですが。象が飛んでいた!と看板を撮った写真、すごく良かったんですが、晴れてた方が良かったかもなって」
ギャー!確かにそうです、私もそう思ってました…!しかしちょっと自分に甘かったせいか変な妥協をしてしまいましたよね。本当におっしゃる通り!
そんなわけで超快晴だったとある日、ふたたび現地に赴き写真を撮ってきた。
本当は夕焼けが良かったのだけど、季節と方角的に難しく断念。これをジャケットの内側、歌詞ページに配置する。
家庭用プリンターを選ばなかった結果、謎の感動が待っていた
たぶんここまで6時間はかかったのではないだろうか。あとは印刷するだけなのだけど、家庭用プリンターでは心もとないうえ、クオリティに妥協したくなかった(青空は妥協したくせに)。
そこで出来上がったデータを引っ提げて、向かった先は佐世保市の印刷会社「エスケイ・アイ・コーポレーション」。地元のフリーペーパー「月刊ならでわ!」をはじめ、数々の冊子や広告などの印刷を手掛けている会社だ。
「8cmCDの印刷、できますか!?」と尋ねると、「12cmCDは実例がありますが、8cmCDはないですね。なんとか、できる限りやってみます!」と快く受けてくれた。しかし、ここで問題が発生。なんと私がデザインした盤面のサイズが規格と合っていなかったのだ。
「実寸測りました?」と聞かれ、いいえ、と力なく応える。ああ、自宅に持ち帰ってやり直さねばと思ったのも束の間。「なんとかしますよ!」と社員さんの一人が立ち上がり、デザインを修正してくれることに。
いやもうほんと、お仕事中に申し訳ない、と平謝りしつつ、素早い作業にぽかんと魅入ってしまった。そうこうしているうちに修正版が完成した。
もうこの時点でやり遂げた気分である。しかし肝心の印刷作業は、前例がない手探りの状態だ。とりあえず、CD印刷用のトレイに8cmCDをセットして試みる。しかし、プリンターはわずかに動いて見せたあと、スーッとトレイを突き返してきた。なぜだ。
「やっぱり12cmCDサイズしか認識しないんですかね。用紙をかませてみましょうか」
12cmCDと同じサイズの用紙をかませることで、プリンターに8cmCDごと認識してもらおうという作戦だ。「ひょっとして結構無茶させているのではないか」と申し訳なく見守った。
プリンターが、さきほどとは違う音をたて、小刻みに横に動き出した。思わず「おおっ!」と叫ぶ。印刷会社なのに一人うるさくてごめんなさい。
「黄色が少なくなってます」的な表示にドキドキしつつ、印刷が無事に終了した。
なんだかエレナレッドがくすんでいる。ああ、あれか、CMYKでデザインすべきところをわたしはRGBでやってしまったのか。
サイズは間違えるわ、色は間違えるわ、踏んだり蹴ったりだ。などと頭を抱えているあいだに「じゃあ、少しいじってみますね」と社員さんが手早く修正。プロの仕事は早い。
ついにエレナレッドの印刷に成功!ようやく近いようで遠かった完成が見えてきた。二次元から三次元になるってこんなに興奮することなんだな。
ご協力いただいたエスケイ・アイ・コーポレーションの皆様、本当に有難うございました。
SPEEDのCDにわたしの青春を引き継いでほしい
次はジャケット部分をつくる。CDを据え置くトレイのみ買えないものかと探してみたが見つけることができなかった。となると、中古のCDのトレイを流用するしかない。
BOOKOFFなどを手あたり次第当たろうかとも思ったが、なんの縁もないアーティストのCDを無為に使い捨てるようなことは気が進まない。では、若かりし頃、お耳を豊かにしてくれたSPEEDのCDにわが青春を引き継いでもらうというのはどうか。
惚れ込んだスーパーの曲CDを作る。ここに至るまで、曲だけでなくCDを作る過程にまで気持ちがずんずんと入っていっていることに気が付いた。ならば最後まで、一方的な思い入れを貫き通させてもらおうではないか。
ジャケットをぱかっと開いてみると、CDを差し込むイソギンチャクの口のような部分の1つが欠けてしまっていた。こんなうっかりも含めて青春としよう。
ごめんと内心つぶやきながら、ためらわずべりっと剥がす。接着面は4箇所だけであっさり剝がれてくれた。表面を綺麗にし、接着剤でエレナジャケットの厚紙を貼る。
魂の曲入れ、正座にて
最後に、印刷したCDに曲を書き込む。これまでポテトチップスを食べながらやっていたような作業とは全く違う。ダルマの目入れと同じなのだ。ゆえにこの工程は最後にもってきた。気持ちはすっかり滝に打たれる前のごとく。正座して挑む。
書き込んでいるあいだ、わたしの頭のなかには色んな思い出が巡っていた。緊張しながらアポの電話をしたこと
あ、書き込みが終わった。
ではこれを、完成したケースにはめて、
完成です!
長かった気がする。いや、作業には実質2日も費やしていないので短かったかもしれない。が、エレナさんや狩須さん、印刷に携わってくれた方々など、関わってくれた人たちのことを思うととても濃厚な時間だったと感じるのだ。
せっかくなので見てやってください
ジャケット全体は、エレナレッド一色のイメージで、象の存在感のみを打ち出しています(要はロゴだけしか使っていないということです)。
そして本当に最後の仕上げに移ろうと思う。もう1つの懐かしアイテム、ケースだ。
SPEEDのCDが入っていたものだ。パープルみががったブルーのようなアンニュイな色。これにも青春を引き継いでもらおうと思う。なにを隠そう、このセッティング作業がちょっと苦手だ。
若干震えながらもなんとかセット。カチッとはまる感触が少しだけ気持ちいい。
色付きケースの存在理由がいまいちわからなかったが、少し傾けてみて納得した。
なるほど、ゲーミング〇〇のごとく、光ってる感じがなんだかカッコいい。当時はまったく理解できなかったけど、あらゆるものが光る令和の時代ならこれはアリかもしれない。
完成したCDをお披露目に
さっそく完成したCDを手に狩須さんのもとへ向かった。プロの方に見せることに多少の恐縮さはあったものの、この純度の高い思い入れの塊をご覧いただきたかった。
狩須「ベリーエレファンティーですね」
山本「えっ」
狩須「象の造語です。山本さんの心が、象のように大きくて優しいという意味です」
ものすごく第6感を刺激するコメントをいただいた。盤面やジャケットに散りばめられたエレナ愛を感じ取ってくれたようだ。要はものすごく絶賛していただいたのである(デザインの技術面はさておき)。とにもかくにも、形になって良かったと思った瞬間だった。
以下、追記です!(2022/01/04)
その後日、ようやくエレナさんにもCDをお披露目することができた。
ためつ、すがめつというのだろうか。他の社員さんと一緒に、それはそれはもうじっくり大切にご覧いただいた。
まるで生まれたばかりのわが子を抱っこしてもらっているような感覚になった。まさかCDにそのような感情を抱くことになるとは。
そもそも、このゾウのロゴはツヨシさんたちにしてみれば親でもあり子どもみたいなものだろう。CDを手に取る姿から愛が伝わるのも納得だった。
好きを形にすること
今回、「ホントにクールだな!」が高じるとこのようなことになってしまうというのを身をもって知った。遠くから眺めているだけでは済まなくなってしまうのである。愛を形にすることをDPZの記事から存分に学んだつもりではあったが、やはり自分で体験してみないことにはわからない世界だった。それにしても、こんな自己満足を受け入れてくれる関係者の方々の懐の深さよ。
なお、飾るだけと言っておきながら、自慢はしたいのであちこち持って行って見せびらかす予定だ。まずは、佐世保にいる8cmCD専門のDJに回してもらいたいと思っている。
取材協力
株式会社エレナ
有限会社エスケイ・アイ・コーポレーション