特集 2019年3月31日

中途半端な古地図をたよりに散歩する・江東区篇(デジタルリマスター版)

今は使われなくなった貨物線の鉄橋

古地図を持って散歩するのがブームらしい。 ぼくはわりと地図が好きなほうなので、本屋で見かけた古地図の本をよく買うのだけど、そういう古地図はたいてい江戸時代のものが多い。がんばっても幕末から明治時代ぐらいまでのものがほとんどだ。

しかし、古地図って江戸時代だけのものじゃなくて、数十年前の昭和時代の地図でも立派な古地図ではあるはずだ。 そんな中途半端な古さの古地図をたよりに大名屋敷やお城ではない、もっと身ぢかな物件を探して散歩をしてみたい。

※2011年3月に掲載された記事の写真画像を大きくして再掲載しました。

鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

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「中途半端な古さ」といえどもすさまじい変貌ぶり。

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各ご家庭によくある住宅地図


今回、家にたまたまあった中途半端な古さの古地図のうち、昭和44年の江東区住宅地図と、昭和30年代~50年時代の東京都区分地図をたよりに江東区を散歩してみたいと思う。 まずはさっそく区分地図で江東区を眺めてみる。

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(コンパック東京区分地図p8/日地出版1976)


この地図は昭和51年度のものなので、今から約34年ほど前の地図だ。潮見の上に「第八埋立地」なんて書いてあるところが時代を感じさせる。

しかし、こうやって江東区全体をながめてみると、西側は町のひとつひとつが細かく設定されているのに対し、東側は北から亀戸、大島、砂町(北砂、東砂、南砂、新砂)と大きく三つほどしか町がない。 江戸時代から下町として市街地が形成されていた西側の旧深川区地域に対し、農村地帯だった東側の南葛飾郡地域の差が、住所からも読み取れて面白い。

ところで、この江東区の地図でぼくが気になるところは次の2ヶ所だ。

1)豊洲、塩浜周辺の貨物線跡はどうなっているのか?

今や超高層マンションが立ち並ぶ小ぎれいな町へと変貌してしまった豊洲だけど、34年前は貨物列車が行き交う工業地帯だった。この町を縦横に走っていた貨物線・越中島線の線路の痕跡を探してみたい。

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ぐるっと走る貨物線の痕跡を探す
(コンパック東京区分地図p8/日地出版1976)

2)木場、平野周辺の貯木場はどうなっているのか?

地図を見ると、木場という地名の由来にもなった貯木場がまだこのころには沢山あった。木場の貯木場は現在は公園になったけれど、それ以外の貯木場は今どうなっているのか?

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四角い水色は全部貯木場
(コンパック東京区分地図p8/日地出版1976)

以上の点を念頭に置きながら、中途半端な古地図をたよりに江東区を散歩してみる。


未だに残る鉄橋からスタート

最初に向かったのは豊洲の春海橋だ。

春海橋は、中央区と江東区の境界にあり、きれいな高層ビルが立ち並ぶ中に、赤茶色に錆びた古い鉄橋がポツンと未だに撤去されずに残してある。 この春海橋を廃線をスタート地点にして散歩を始める。

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(コンパック東京区分地図p8/日地出版1976)
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晴海ではなく、春海橋
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鉄橋の上に生えた木も結構でかい

越中島線が廃止されたのは1989年なので、生まれた子供が大学卒業して就職するかしないかぐらいのあいだここにある。昔をしのぶよすがとして、ぜひこのまま保存して欲しいと思う。

細切れに残る越中島線跡

春海橋からさらに、石川島播磨重工の工場内にあったと思われる貨物線をたどってみる。

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(全住宅案内地図帖・江東区2000,2070/公共施設地図株式会社1969)

 

1、IHIビル前交差点付近

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全く痕跡はない。

 

 

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突然落ちている車輪。

昔は踏切があったと思われるIHI本社前の交差点には、残念ながら線路の痕跡は全くない。
IHIのビルを少し裏手にまわったところに車輪が落ちていて「すわ貨物線の痕跡か!」と、一人で勝手に色めき立ったが、よく調べたらIHIの鉄道車両作ってる部門がこのビルに入っているから置いてあるだけなのかもしれない。

2、豊洲三丁目公園付近

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公園横にある線路跡
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線路の橋脚だけ残っている

豊洲三丁目公園横には線路がモニュメントとして残してある。ただ、周囲には何の解説もないので、知らない人は気づかないか、気づいても中途半端なデザインのプロムナードぐらいにしか見えない。
このモニュメントからさらに先、小学校の横の道を抜けると運河に突き当たる。その運河には越中島線の橋脚が残っている。

カーブの名残が道路に

豊洲周辺の線路跡をたどっていて気づいたのは、線路のカーブが道としてそのまま残ってる箇所がいくつかあったということだ。
たとえば、豊洲ららぽーと横のカーブは、越中島線のカーブがそのまま残っている。

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(全住宅案内地図帖・
江東区2000,2001,2071,2070/公共施設地図株式会社1969)

 

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カーブに沿って線路があった

さきほどの橋脚だけ残ってた鉄橋から真っ直ぐ伸びてきた線路が、このカーブで大きく南に曲がっていたのだけど、そのカーブがそのまま公園への通路として残っているのだ。

そしてさらにその先、豊洲五丁目付近のビルとマンションの間にも、線路のカーブの痕跡が残っている。

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(全住宅案内地図帖・江東区2071/公共施設地図株式会社1969)

 

昭和44年当時と変わらない一画を発見

住宅地図を片手に豊洲を歩き回っていると、ある場所に目が止まった。

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これはもしかして
(全住宅案内地図帖・江東区2071/公共施設地図株式会社1969)
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やっぱりこの店だ

昭和44年から変わらずここにある店だ。となりの理髪店も、写真には写ってないけど手前にあるガソリンスタンドもそのままだ。
なんだかちょっと嬉しくなって、思わず入って話をきいてしまった。 いかにも昭和の中華料理屋といった雰囲気の店内。ご家族で切り盛りされているようだ。

--すみません。昔の地図をたどってこのへんを取材してるんですが……、こちらのお店はいつごろから営業されてますか?
「んー、えーと昭和42年からかなあ……」
昭和42年といえばこの地図が昭和44年なので開店2年目のころになる。

--やはりこのあたりはずいぶんかわりましたか?
「変わったねー、むかしは工場しかなくてなんにもなかったもん(地図を)ちょっと見せて、あー懐かしいねー、たしかに昔はこんなふうに貨物線があったなあ、このへん(現在の豊洲センタービル)は団地だったんだよね」

--もしかして平屋建ての団地?
「そう平屋の団地でね。道路も舗装されて無くて土のままだったよ。そういえば石川島播磨の敷地内になぜか高橋さんっていうおばあさんが独りで住んでてね、一軒家に、よく出前持って行ったよ」

--工場の中にですか?
「うん、工場の中に。守衛さんに断って入って行ったんだ。なんで工場の中に一軒家があったのか今考えると不思議な家だったなあ……」

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現在の豊洲センタービル

なんとも、とりとめのない昔話だ。でも、こんな昔話を聞くのは大好きだ。

息子さんと奥様も加わって「今のIHIがあるあたりに戦車が戦後しばらく置いてあって中に入って遊んでた」とか「団地の近くにみかんしか売ってない八百屋があって、ねだって買ってもらってた」など、ゆるい昔話がどんどん出てきた。

中途半端に古い古地図には、そこに住む人の記憶のひきだしをこじ開ける力があるようだ。

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やはり昔の地図は懐かしいらしい
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奇をてらわないうまさのラーメン


塩浜の廃線跡は駐車場になっている

ところで、豊洲の隣。塩浜にも越中島線の痕跡がある。これもぜひ確認しておきたい。朝凪橋を渡って塩浜へ向かう。地図を確認すると、豊洲から延びた線路は、現在の越中島貨物駅のあるあたりまで真っ直ぐ伸びている。

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真ん中の青い二本線は高速道路の建設予定地
(コンパック東京区分地図p8/日地出版1976)

なお、この地図で「越中島」となっているのは、現在の「越中島貨物駅」のことで、京葉線にある「越中島駅」とは別物だ。

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①の部分は細長い駐車場になっている

 

塩浜は豊洲と違い、まだ倉庫や工場などが多い。むかし貨物線の線路だった箇所は現在、線路の跡に沿うかたちで細長い駐車場になっている。もっと向こうはどうなっているのか?

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②部分に残るホームと線路の跡

②部分が、旧越中島駅の廃止された部分だ。すでに使われなくなった線路とホームがそのまま放置されている。

以上、2ページにわたって豊洲から塩浜までの貨物線の様子をたどってみた。
廃線跡を巡るのはワクワクするものだが、絵面は地味でしぶい。
地味でしぶいのはこれで終わりではなく、次の2ページでは貯木場の痕跡をめぐるという、輪をかけてしぶすぎる散歩が続きます。

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