特集 2024年2月22日

ピコピコハンマーの正式名称は「ノックアウトハンマー」

知名度向上のきっかけはたけしさん

それにしても、いつから「ピコピコハンマー」って呼ばれるようになったのだろう。正式名称があるのに。

これについて詳しい時期はわからないが、知名度が飛躍的に上がったきっかけは、「やっぱりビートたけしさんですね」と木島さんは言う。

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14年前に当サイトにも登場いただきました(大物監督にコケる芸を習う

木島さん うちの先輩が、テレビ局から「たけしさんが御社のKOハンマーを使いたいと言っている」と連絡をもらったそうなんです。たけしさんは「これバラエティで使えそうだな」と気にしていたらしいんですよ。

ハリセンのように大きく振りかぶる必要がなく、見た目が派手で面白い音がして、そこまで痛くない。まさにテレビのバラエティ番組にはうってつけ。

テレビ局からの「2、3個提供してくれませんか」というお願いに、先輩は大判振る舞いで、段ボール1箱分のKOハンマーをドーンとあげちゃったという。

木島さん あとで聞いた話ですけど、たけしさんはすごく喜んでくれたみたいで。それ以降、バラエティで結構使ってくれたんです。すごく律儀な人だなぁと思いましたね。

たけしさんが片手に“ピコピコハンマー”を持って立っているイメージ、すごくある! 『オレたちひょうきん族』も『スーパーJOKEY』も『平成教育委員会』も『世界まる見え!テレビ特捜部』も……。

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気がついたらずっとKOハンマーを握ったままお話を聞いていました。

そんな木島さんも、実際にビートたけしさんと会う機会に恵まれた。2016年、たけしさんがロケで本社を訪れたのである。(2016年11月17日放送『所さんのそこんトコロ!&海老蔵 石川五右衛門&たけしのニッポンのミカタ!超合体4時間スペシャル!』にて)

たけしさんに直接「いつも使っていただきありがとうございます」とお礼を言えたそう。

木島さん たけしさんに「チャンバラトリオからヒントを得た」って教えたら「やっぱりそうか」って言ってましたね。俺もハリセンに似たようところがあるからいいなと思っていた、と。「使ってみたらやっぱりよかった」って。

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木島さんはたけしさんや所さんに古いおもちゃを紹介。「たけしさんは『今いろいろロボットあるけど、こいつら残れなかったね』って笑ってましたね(笑)」

たけしさんが使って以降、“ピコピコハンマー”のテレビでの活躍は言わずもがな。

あるときは「たたいてかぶってジャンケンポン」に、あるときはアメリカ横断ウルトラクイズで敗者たちのうさばらしに、あるときは『恋のから騒ぎ』の説教部屋に……。

木島さん 『恋のから騒ぎ』で明石家さんまさんが使っていたハンマーは、金色に塗られていて、叩くたび金粉が飛んでたでしょう? あれはハンマーの素材的に塗装が定着しにくいので、叩くたびに金の塗料が剥がれて飛んでいたんですよ。毎回、律儀にスプレーし直していたみたいだけど(笑)

それだけテレビに登場したら、さぞかしKOハンマーはドーンと売れたんじゃないですか?と聞いてみると、木島さんは「そこまでじゃないですね。みんなハンマー持って殴り合いするわけじゃないし」と笑う。

木島さん そもそも大量に作れないんですよ。海外で大量生産しているわけじゃなくて、今も国内の工場で結構手作業で作っているので。だから販売も国内だけですね。

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「似たようなものも出てきましたけど、結局なくなってますよね。“ピコピコハンマー”と言えばもう『これ』ですから」
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おもちゃの「元祖」だらけの会社

さて、KOハンマーに限らず、増田屋コーポレーションはさまざまな玩具の「元祖」を生み出している。

たとえばラジコン。1955年に発売した「ラジコンバス」が、世界で最初に発売された無線操縦玩具だそう。実は「ラジコン」の商標を持っているのも増田屋コーポレーションだ。

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こちらが「ラジコンバス」。アメリカを中心にヒットした。

木島さん 「ラジコンバス」の発売後、霞が関から役人が来たんです。当時、あらゆる電波は国家資格免許がないと扱えなかったらしく、「これはどうなんだ」と。

そんな環境でラジコンを売り出しちゃうのもすごいが、もっとすごいのは「すいません」と引き下がらなかったところ。

増田屋さんは「微弱電波だし1チャネルしかないから影響はない」とお役人を説得。逆に向こうが「電波の新しい時代が来たんだな」と、電波法を改正するきっかけになったそう。

世界初のラジコンはバスだけじゃなく、法も動かしていたとは。

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こちらも1950年代に発売された「ソニコンロケット」。音に反応するセンサーが内蔵されており、笛を吹くと進行方向を変える。
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ソニコンロケットは「裸の大将」こと山下清画伯も気に入り、自身の作品にも題材として取り入れた。絵をよく見ると、左下で山下清さんが笛を吹いている。

そしてもうひとつ、めちゃくちゃ売れたのが「モーラー」。あの毛虫みたいな謎の生物である。1975年3月に発売し、2ヶ月で180万個も売り上げた。

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「虫みたいだから」と発売日は啓蟄に合わせた。今もカタログにKOハンマーと共に並んでいる。「『CMみたいに動かないぞ!』と、よく恨みつらみをぶつけられました(笑)」(木島さん)
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おもちゃのひとつひとつに、全部歴史があるんですね。

KOハンマーの歴史は、増田屋コーポレーション創業300年のほんの一部。そしてそれは、他のおもちゃたちもそう。

それぞれのおもちゃの歴史が積み重なって、今の姿があるのだ。

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ちなみに、今のイチオシは線路のパネルをつなげて電車を走らせる「パネルワールド」。ちいかわもモルカーもいます。まだまだ歴史は積み重なりそう。

令和も続くよどこまでも

KOハンマーもモーラーも、発売当時は子どもを中心にヒットしていたが、令和のいま、Z世代によく注目されているという。

YouTubeの企画で「たたいてかぶってジャンケンポン」をしたり、TikTokでモーラーを操る動画を撮ったりする人がいるのだそう。確かにモーラーはショート動画に映えそう。時代は巡るのだ。

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本社の裏手にある東横イン。ここはかつて、旧本社兼倉庫があった場所で、ここから世界におもちゃが輸出されていた。その印に、壁にブリキのオモチャ像が取り付けられている。


取材協力:株式会社増田屋コーポレーション

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