特集 2022年4月14日

「君の名は。」の二人は例の階段で出会えるのか

結論:ちょっと無理。

1976年茨城県生まれ。地図好き。好きな川跡は藍染川です。(動画インタビュー)

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映画の中で二人が出会う階段がある

2016年公開の「君の名は。」という映画にこういうシーンがある。主人公の男女それぞれが乗った電車がすれ違い、一人は新宿駅で降り、もう一人はその隣駅で降りる。お互いを探し歩き、とある神社の階段で出会う。

kaidan.jpg
モデルとなった階段

いいシーンなのだが、地理好きとしてはそれらの位置関係がどうしても気になっていた。

赤は男が降りた新宿駅、青は女が降りた千駄ヶ谷駅、そして緑は二人が出会った階段のある須賀神社だ。

緑の場所、べつに中間地点じゃないのが分かると思う。

そしてそもそも、お互い連絡も取れない状況で歩き回ってどこかで出会えるということがあるんだろうか。文句を言ってるわけじゃなくて、ふつうに興味があるのだ。

検証してみる

広い新宿のどこかで本当に二人は出会えるか。それを検証するためにシミュレーションをしてみることにした。

こういう仕組みをつくった

やり方はこうだ。

・道路のつながりを表した地図データを利用する
(https://www.openstreetmap.org/)
・二人はそれぞれの駅を出発する
・歩く速度は分速80mとする
・交差点にさしかかったら、行ける方へランダムに進む。ただしもと来た道は避ける(同じ場所を行ったり来たりしないように)。
・制限時間は8時間とする。その間にどこかで出会えれば(100m以内に近づけば)終了。

進む方角はランダムだというのがポイントだ。ようするに頭が悪いのである。だがまずはこれでやってみよう。

1日目

舞台となる新宿周辺の道路を抜き出した。左の赤い丸が、新宿駅で降りた男(瀧)、青い丸が千駄ヶ谷駅から出発する女(三葉)、緑が須賀神社である。

二人は無事出会えるだろうか。ようすを見てみよう。

2時間後

二人が歩いた跡はそれぞれの色の線で描かれている。

2時間経過したが、二人はまだ駅周辺にいるようだ。三葉(青)は駅の南側の神宮外苑を調べている。

登場人物の名前を強調するのはいささか内輪っぽいとは思うが、今回ただの赤い丸と青い丸なので、少しでも人間ぽさを出すために名前でも呼んでみたい。

4時間後

4時間が経ち、瀧(赤)がついに東側へ進んできた。新宿御苑の中を調べているようだ。入園料払ったのだろうか。 

6時間後

さらに2時間後、瀧(赤)がついに新宿御苑を脱出した。出口が少ないうえ、ランダムに進むので一度入り込むとなかなか抜け出せないのである。

三葉(青)は聖徳記念絵画館の調査を終え、国立競技場の周囲を回り出した。よほど中央線の南側が気になるのだろう。

8時間後

8時間が経ち、ここでタイムアップとなった。結局二人は須賀神社には見向きもせず、新宿御苑と神宮外苑を熱心に調査してこの日の活動を終えた。

経過時間(分)ごとの二人の距離

二人の距離の時間経過をグラフにしてみた。

最初二人は1.5km離れている。その後もつかず離れずで、もっとも近づいたときでも約700mだった。これでは運命の出会いは見込めない。

例の階段を下から見るとこんな感じ
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二日め以降

若い二人は二日目以降も同じ条件でお互いを探し続ける。

以降は結果だけ書いていく。

2日め

二日目の頑張りが期待されたが、瀧(赤)はついに新宿駅前を脱出することができなかった。そんななか三葉(青)がはるばる新宿駅東口までやって来る活躍を見せ、二人の最短距離はなんと128メートルとなった。

もう少しで会えるところだった。「がんばれ」「瀧なにやってんだ」などと思わず声が出る。

3日め

3日目はお互いに行動範囲を広げ、肝心の須賀神社にも近づいてきた。いい感じである。そして、ついに4日目にそれは起きた。

4日め

瀧(赤)は新宿三丁目を、三葉(青)は再び神宮外苑を念入りに調査する展開が続いたが、終盤に二人ともが新宿御苑に入ったことで、ある意味で閉じ込められ、ぐるぐると御苑を歩いているうちについに二人は出会った。出発からじつに7時間49分が経ったときだった。

いったんまとめ:二人は出会えるが、4日かかる

この調子では会えないかと思ったが、「君の名は」の二人は確かに出会うことができた。ただしそれには4日かかる。というのがいったんのまとめだ。

やりたいことはだいたいできたが、もうちょっとだけ工夫してみたい。

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工夫その1:相手がいそうな方へ進む

二人とも、それぞれが降りたとすればどの駅かは分かっているはずだ。つまり瀧(新宿駅)は南東へ向かうべきだし、三葉(千駄ヶ谷駅)は北西へ行くべきだ。

そこで、交差点に来たときにそれを加味して、瀧は南東、三葉は北西の選択肢を他の2倍の確率で選ぶようにしてみた。その結果が次のグラフだ。

時間(分)ごとの二人の距離。赤が工夫後、青が工夫前。

なんと、初日の開始80分でいきなり二人は出会うことができた。赤い線だ。それまで4日かかっていたのとはえらい違いである。

 

出会えた二人の図。場所は新宿駅南口。三葉(青)がはるばる千駄ヶ谷から会いに来た。瀧(赤)は南口の馬券売り場のあたりを回っていたようだ。何をしておる。 

工夫その2:須賀神社に行ってもらいたい

こちらが須賀神社です

短時間で出会えるようになったのはいいのだが、ここはせっかくだから須賀神社の例の階段で出会ってもらいたい。

そのための合理的な方法はとくに思いつかなかったので、以下のような設定を追加してみることにした。

・二人はとても信心深い(実際、片方は巫女である)
・交差点に来るたび、神様のお導きにより須賀神社の方角のほうへ他よりも2倍の確率で行きたくなる

無理やりだが、合理的に進んで新宿三丁目付近で出会うのを阻止したいのである。というわけでやってみた結果がこちら。

 

出発して3時間34分後、二人は須賀神社(緑)の近くの信濃町の路上で出会った。わずかにタイミングがずれれば例の階段だった。惜しい。

それにしても二人ともだいたいまっすぐ須賀神社に向かい、そのあたりをぐるぐるしているのが見える。これが信心というものである。

その後も何回も試したが、いずれも須賀神社ぴったりではなく、その近くの路上で出会うばかりだった。これを改善(?)するためには、須賀神社に着いたらそこに留まる、みたいな条件を追加する必要があるだろう。ようするに普通の条件ではなかなか無理のようだ。

須賀神社の周りをぐるぐる歩くようす
 

まとめ

現実でこれを試すのはちょっと勇気がいる。どうせ会えないだろうなあと思ってしまう。ただ、気のあう二人なら可能かもしれない(どうせあのお店にいるなとか)。

地図上で何かをうねうね動かすというのがやりたかったので、できてよかった。

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