世界一周にリベンジ
けん玉歴3か月とは思えないプレイを見せてくれた少年に感化されて、マンホールの上では出来なかった「世界一周」にお姉さんからアドバイスをもらい再度チャレンジしてみた。
はい、というわけで44回目にして人生初の世界一周を成功させることができました。それもけん玉発祥の地、廿日市で。感無量です。
さて、ここまでけん玉を推されると、やはり廿日市の人たちがけん玉をやるのかが気になってくる。
ただ一度けん玉製造が途絶えていることや市によるけん玉普及がけん玉製造再開後に本格化していることを考えると、けん玉が作られてから脈々とけん玉文化が継承され続けているとは考えにくい。
廿日市駅前にあるお好み焼き屋のご主人も「年代的に子どもの時には普通に遊んでいたけど特別にけん玉が流行っていたわけではなかった」と話していた。
そうなると、けん玉をやっているとしたら小学一年生で全員にけん玉が配られ始めた2011年以降の子どもたちだろう。2011年に小学一年生だった人たちはいま21歳くらいだ。
というわけで小学生~大学生くらいの人たち数人にインタビューしてけん玉事情を聞いてみた。先に結果から書こう。
というようなことが分かった。クラスにうまい人がいる、というのは何も廿日市に限った話ではないが、全校集会でやったりクラスで流行ったりと他の地域よりはけん玉に触れる機会が多そうな様子である。
それに「そんなにやっているわけではない」と言っていた現役小学生に実際にけん玉をやってもらったら、ちゃんとした持ち方でもしかめ(大皿と中皿で交互に玉をうつ技)をやってくれた。これは廿日市のけん玉リテラシーが高い証拠だろう。
本当はもっとたくさんの人に話を聞いて統計的なアンケートを取りたかったのだが、あまり歩いている人がいないと事情もあった。というか歩いている人は大抵電車に乗る目的があり、15分に一本の電車を逃がすわけにはいかないので、話を聞いてくれる時間がない人がほとんどだった。
その点、路面電車のホームは切符が無くても入れて、ホームに着いてしまえば電車が来るまでは時間があるということで話を聞きやすかった。路面電車のホームがインタビューをしやすいというデイリーには珍しく今後も活かせそうな知見を得た。
「クラスにいるけん玉が上手い人」の情報を得るため、最後にけん玉ショップに訪れた。
ここのお店ではけん玉が購入できるだけではなく、店内の体験用けん玉で自由にけん玉を楽しむことができたり、休日にはけん玉教室が開かれたりとショップとは言いつつけん玉文化を育む場となっている。
せっかくなので私も体験用けん玉を借りてみよう。けん玉といっても色々なタイプがあるのだが、お借りしたけん玉は玉に滑りにくい加工がしてあって、グリップが効きやすい。
けん玉ショップのお姉さんによると、けん玉界隈の最近の主流は連続で技を決めるスタイルで、そのスタイルだとけん玉自体が手から離れることも多いのでグリップが効きやすい方が良いのだとか。
そもそもけん玉に主流のスタイルなんてあったのか。私が小学生の頃に親しんだ技を一つ一つ決めていくスタイルはいまやオールドタイプになっているようだ。
しばらく店内にいたが、小学生の男の子がお父さんと一緒に来店し、初めてのマイけん玉を選ぶ姿も見かけた。今はとめけんを練習しているということで、ショップのお姉さんからアドバイスをもらってしっかり成功していた。
さらにお姉さんがその習熟度を見ておススメのけん玉も紹介してくれるので、買う方からしたらかなり安心できる。「これはけん玉文化の大きな支えになっているな」と感じた瞬間であった。廿日市市民のけん玉リテラシー向上に確実に寄与している。QOK(クオリティ オブ ケンダマ)爆上がりである。
玉にグリップが効きやすいということで試してみたい技がある。玉の上に垂直に引き上げたけんを立てたまま乗せる「灯台」という技だ。この技は学童時代にかなり練習したが、結局習得できずに今にいたる。
ショップのお姉さんによるとコツはこの2つ。
①1・2のリズムでけんを引き上げること
②引き上げるけんの先に目線を合わせること
実際にアドバイスをもとにやってみると、特に①の効果がてきめんですぐにできるようになった。動画で見てほしい。(スマホが壊れていて音声が正しく収録されておらず無音です)
けん玉はこういうちょっとした変化で急にできるようになったりするので面白い。それだけ身体の使い方が繊細に表れてくる玩具ということだ。いや、もう玩具の域を超えちゃってるね。
灯台に成功してホクホクしていたら、お姉さんからすかさず「灯台できたら次は逆落としだねー。今は灯台と逆落としはセット!」とコメントをいただいた。逆落としとは玉の上に乗せたけんを一回転させてけんを穴に入れる技だ。連続技が主流だとこうなる。全然時代についていけない。
そうこうしているうちに、常連とおぼしき学生が来店した。午後からのけん玉ワークショップに合わせて来たそうだ。このショップには世界チャンピオンレベルのプロがゴロゴロしているので広島市からわざわざ来ているという。
ありがたいことに撮影を快諾してくれたので技を見せてもらった。
撮られ慣れていないこともあり本人的には満足いく出来ではなかったようだが、動きがかなりプロだ。そして驚くのが、本格的にけん玉をやり始めてまだ3か月だという。え、嘘でしょ?
3か月前は飛行機ができるくらいのレベルだったとのことで、つまり私と同じくらいだ。いやいや、いくら練習しても3か月でこのレベルに到達する気がしない。
本人曰く、このお店でトップレベルの選手の技を見たり、直接教えてもらったりしたことが大きいという。今の時代YouTubeで動画はいくらでもあがっているが、やはり実際に上手い人に教えてもらうのとは習熟度は全然違うのだろう。
そういう意味では、やはり廿日市のけん玉に触れ合う機会、そして上手くなりたいと思った人が上達するための機会は、他の地域に比べて多いと言ってよい。市民全員がけん玉をやるわけではないけれど、やる人、やろうかなと思う人には優しい街、それが廿日市だ。
けん玉歴3か月とは思えないプレイを見せてくれた少年に感化されて、マンホールの上では出来なかった「世界一周」にお姉さんからアドバイスをもらい再度チャレンジしてみた。
はい、というわけで44回目にして人生初の世界一周を成功させることができました。それもけん玉発祥の地、廿日市で。感無量です。
旅の醍醐味はだいたい書いたのだが、廿日市のけん玉推しはまだまだあるので最後にまとめて紹介したい。
廿日市駅周辺からは少し離れるが、宮浜温泉の宮浜グランドホテルには世界一大きなけん玉も飾られている。宮浜温泉の近くに住むけん玉チャンピオンの夢を叶えるというテレビ番組の企画で製作されたもので、もともとはそのチャンピオンのけん玉教室に置かれていたが、教室をたたむ際にホテルへ寄贈されたそうだ。
でかいものを作ったら置き場所に困るというのはどこの世界でも同じである。
モニュメントだけではない。和菓子屋には廿日市銘菓「けん玉もなか」が売られている。けん玉型の皮に小倉、抹茶、ゆずなどの餡がつまった廿日市ならではのお菓子だ。
そして街をあげたけん玉推しの中でも最も感動したのが、けん玉公園だ。新宮中央公園が正式な名前だが、その姿を見たらけん玉公園としか呼べなくなるに決まっている。
私は公園の遊具も好きなので、変わった遊具があるとつい気になってまじまじと見てしまうのだが、ここまでこだわった遊具はあまり見たことがない。地域で有名なものをテーマにした遊具は多いが、一番高いところにモニュメントを設置したり、色でモチーフを表現したりがほとんどだ。
遊具メーカーのパーツのカスタマイズでどうにかしようと思うとどうしてもそうなってしまうのだろうが、その点この遊具は樹脂製のパーツだけでなく木材も織り交ぜて作られており、廿日市の「木のまち」としての矜持も感じることができる。
この写真を撮ったときは上のけんから伸びている紐の先に玉がついていないのはなぜだろう?と思ったが、改めて見返すと赤い屋根が玉だからそこにつながっているのか。フランス貴族もびっくりの玉のでかさだ。
けん玉×遊具という個人的に好きなものの掛け合わせということもあるが、廿日市にきたらけん玉公園は見逃し厳禁である。
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