特集 2023年8月27日

書き出し小説大賞 267回秀作発表

書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)

雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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暑さ、仕事、人間関係などで追い詰められたとき、私は笠地蔵をイメージすることで、ひとときの安寧を得ることにしている。
笠をもらった地蔵たちが雪の夜、列になってお爺さん宅に向かう光景だ。その列の最後尾に一体だけ遅れてついていく、手ぬぐいを被った地蔵がいる。笠が足りなく、代わりに手ぬぐいをもらったお地蔵さんだ。
この最後尾のお地蔵さんを想像するたびに、私はいつ何時であっても微笑することができる。ひとしきり微笑した後現実に戻る。蒸れた陰嚢の感触が蘇ってくる。

書き出し自由部門

その日、夏雲は、真夏のピクトグラムとなった。
タカタカコッタ

リアルな思い出もレトロゲームの背景も、等価で懐かしがられる世代。

あっという間に夕立が降り、あっという間にあがった。君はまだ動かない。
おの
「一億五千キロ先の光を見て眩しいなんてバカみたい」
えりも秋
免罪符を使い果たして、まだ水曜日。
もろみじょうゆ
ずいぶん前に日替りスープの寸胴を過ぎ、左手に「御手洗い」の案内板が見えてくる。もうそろそろ東ドリンクバーだ。
高田

荒野のフードコート。

少し大人になった従姉妹が茶を注ぐ。供物のバナナが青い。
g-udon
どちらかといえば夏のせいだ。アスファルト輝いているだけで、私たちはうまくいっていると思っていた。
信号待ち
思い出の中のミロほど美味しい飲み物はない。
ぐるりん
失敗を楽しむタイプのサーカスに所属している。
ウウタルレロ

当たり前の成功より、面白い失敗が好き。

菌になろ、まではいいの。なんで部長の歯の裏で逢おうなんて言うの。
いちもくれん

だいぶ離れたマルチバースで交わされた社内恋愛の会話。

深呼吸と共に、空調服の電源を切った。
ろっさん
テーブルの空き缶に残った昨日の記憶を洗い流す。
みよおぶ
いったん広告です

つづいては規定部門。今回のテーマは夏の恒例『書き出し怪談』でした!猛暑の夏、瞬間冷却の恐怖をどうぞ。

規定部門・モチーフ『怪談』

まーくんがだいぶとけたので、まぜた。
正夢の3人目

ひらがなの怖さを十二分に活かした秀作。

天井の木目が、いっせいにまばたきをした。
紀野珍

定番の木目ネタにひとつ動きを与えるだけで鳥肌が立つ。

急ブレーキの車は崖の手前で止まり、カーナビは舌打ちした。
ぴすとる
鏡の中の私はちょっと遅れる。
ぐるりん
四十九日が過ぎても殺した女はやって来た。
g-udon
後ろにはいない。足元にいる。
S.マウンテン

ナイスフェイント!

⏩ 規定部門「怪談」続きます

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