特集 2021年8月29日

書き出し小説大賞第220回秀作発表

書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)

雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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先日までは幸水だったが、ようやく豊水が出回りだした。シャキシャキの幸水も好きだけど、梨汁ブシャーの豊水も捨てがたい。相変わらず息苦しい毎日、梨のことだけ考えることにしている。
それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご招待しましょう!

書き出し自由部門

祖父の探し物にマスクが増えた。
ウチボリ

探しているメガネは額に、マスクは顎に。

風が水を浚い、プールの底に描かれたタコの絵がゆらゆら歪んだ。
タカタカコッタ
たくちゃんが「よっほぅ」と唱えると、ふたばもみつばもよつばに変わった。
稲荷

夏休みの課題図書にしたくなるような書き出し。

菓子パンを一つだけ握りしめている子供を私のレジの前へ優先させた。
自由人
「いるな?!」父さんの目が鋭くなった。虫かごを持つ手に力が入る。
ブーゲンビリア

小2の父親としては、読むだけで夏の思い出が増えたような気がします。感謝。

冷凍庫に生きてるものはいない。
反骨心のアップリケ
詩人はあえて童貞のまま死ぬ事によって、作品に新たな意味を持たせた。
さくさく
「記憶と思い出のちがいって分かる?」あなたは繋いだ手をゆっくりと離し、下を向いた。
auroraーark

作家さんの意図とは違うかもしれないけど、青春ラノベ的世界。二人称が更に効果を生んでいる。

このコーヒーがホットだったのかアイスだったのかは、無言の彼にしかわからない。
鯨谷いさな
靴は履き主に似るというが、なるほど口をぽかんと開けた間抜け面が弟そっくりだ。
ナタデ坂
執事の低い側転に、王女は頬を赤らめた。
ベランダ
警部!語尾泥棒の被害が広がっておりま
蛸か高田

語尾を一文字削るだけで成立させた。技あり。

あまりにも気持ちがいい高原だから目が止まらなかったが、普通にペガサスがいる。
正夢の3人目
「王様だーれだ?」で圧政が始まった。
楽市びゅう
麦茶を腐らせて、秋がやってきた。
紅井りんご
月ももう薄目も開けてられないみたい。
井沢
いったん広告です

つづいては規定部門。今回のテーマは『2021年・夏』でした。昨年につづくコロナ、客のいないオリンピック。そして河村市長の金メダル事件。特別な夏をみんなで見送りましょう。

規定部門・モチーフ『2021年・夏』

腫れた腕をさすってくれるばあちゃんの手は冷たかった。
寂寥

腫れた腕ではなく、おばあちゃんの手の方に記憶が残る。いいねえ。

揚げ物みたいなセミの声だけが、去年と同じだった。
細矢和葉
プールでは気兼ねなく外せるマスク。人間は魚に戻ったんだと思う。
こんどう巨神兵
今日は何曜日なのだろう。テレビは甲子園の様子を延々映している。クーラーの切りどきが分からない。
もくてる
「今日は朝顔みっつ咲いてたでー」みりん干しの焼ける匂い、蝉の合唱、刺すような青空。
葱山紫蘇子
アクリル板以外、何も無い夏でした。
タクタクさん
冷やし中華、はじめられませんでした。
のと
ワクチン打ちたいけど打ちたくない、これって恋かな?
いそうろう

恋かも(笑)

市長がメダルを噛んだ日、娘の歯が抜けた。
タカタカコッタ

今年の漢字一文字は「噛」でいいんじゃないかと思うくらい、これしか記憶にない。

聖子は自分の銅メダルを取り出し、音を立てないようにそっと前歯をあててみた。
suzukishika

橋本聖子議員は選手時代、銅メダルひとつだったそうです。ちゃんと確認して書いているところがプロ。

国内でオリンピックがあったらしい
ウチボリ
何会式も見なかった。
井沢
ベランダでブルーハワイの舌を見せあった。
紅井りんご
また会いたいくて借した本が、レターパックで送られてきた。
午前0時

コロナだからか、ただのお友達だからか?

別れ話を会ってするかで、また揉めた。
昼行灯
リモートじゃ柱に身長を刻めない。
人馬一体勘
発泡酒とつまみを握りしめパソコン前で待機したあの日、ミーティングIDは届かなかった。
KESHI
真っ暗な画面の前で、映像が固まる真似をしてみる。
ベランダ

リモートもすっかり日常の風景になり、新しい叙情に加わりました。

クーラーの効かない部屋で、ただ豚汁が吹きこぼれていくのを見ている。
七夕涼香
娘が宿題として出したハムスターの寝相の研究は、地元で小さい賞を貰った。
prefab
私の息子は金魚の糞だけをすくっている
メスゴリラ師匠
ルームミラーの下、御守りと踊るマスク。
みよおぶ
元妻がカウンターを決めメダルが確定したころ、私は流しそうめんとして軽井沢を流れていた。
花惑

離婚後の「私」の経緯がすごい気になる(笑)

胡瓜の馬が走っていく。私が殺したあの人を、迎えに行くためだ。
蜂賀三月

「あの人」は胡瓜に乗って復讐に来るのだろうか?

怪物と化す覚悟で注射針を受け入れた。二日経っても人間で、また世間に絶望した。
荼毘に付される祖父を真下に感じながら食べる寿司は冷たく、異様なまでに美味かった。
桜草
22メートルの高さから、ロープをつけたまま飛び込んだ。今年が2021年であることも、夏の暑さも、感染症の煩わしさも、大切な人を失くした悲しみも、あらゆる喜びも忘れられた。
桃とペンギン

それでは次回のモチーフを発表します。

次回モチーフ
『風流』

次回のお題は風流。一見すると難しいお題のように見えますが、風流とはつまり、その人が「いいな」と感じる風景であったり、時間だと思います。もちろん茶道、鹿威し、風鈴など日本の美意識から発想するのもいいですが、自分なりの「風流」を編み出してみるのも面白いと思います。
締め切りは9月10日金曜正午、発表は9月12日を予定しています。下記の投稿フォームからご応募下さい。力作待っています!

最終選考通過者

eat_sushi  スズメ ガンプラ君 代打代走 加藤明矢 モリダイ terayo オメガ いずも ミヤカン 釧路ダンディ 坂上田村麻呂の従兄弟 シルヴェスタ・スタロウ カナダへ渡る光よ輝け 次郎の刺身 青白マグ 七寒六温

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