特集 2021年2月7日

書き出し小説大賞第207回秀作発表

書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)

雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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この冬買ったビーズクッションに自分の型がついて、なんだかスマホにおけるスマホスタンドのような、「自分置き場」になっています。
それでは今週もめくるめく書き出しの世界へご案内しましょう。

書き出し自由部門

あなたが土に還って、私は我に返った。
陸の海苔

ロミジュリのようなすれ違い。

こっち側が水槽の中かもしれなかった。
楽市びゅう
校庭に半分埋まったタイヤ、次大きくへこむぞ。
ビールおかわり

放置タイヤの内側には水が溜まっている。

博士はタイムマシンを考案し、工場長は愚痴をこぼした。
terayo
「そう、もっとコツメカワウソのように」コーチの声に熱がこもる。
七世
自販機の裏に残り雪みーつけた。
人馬一体勘
頭に思い浮かべたポメラニアンはふわふわの球体のまま川に浮いていた。
井沢

叱られたときはこの妄想にしよう。

放っておかれた豆苗が、眠る家主へツルを伸ばす。
七世
牧場で曲がり角を見つけた。
にかしど

角想う。ゆえに角あり。

最後の晩餐に、死刑囚は形の悪い苺を選んだ。
prefab
なぜぼくは右目だけ獣医さんに診てもらわなければいけないのか、その理由を明かさないまま、母は亡くなった。
六井象
七日後。名前も知らないこの男の喪主を私が務めることになる。
けー
ジェニファーが鳴らすトライアングルに、シリアルキラーの奥目が映り込んでいる。
昼行灯

ホラーな四連作でした。

絡み合う2人の愛は、フローリングを湿地帯に変えた。
抜刀斎高嶺
蜜は渇きを癒さない。
terayo

官能の二作品。

送料無料の水牛が20頭来る。
昼行灯
あの日、どのクーポンを使えば正解だったのか、今も分からない。
たこフェリー

アホな二作品。

冬の金玉は揺れない。
八重樫

とんでもない名言!

いったん広告です

つづいては規定部門。今回のテーマは『推し』でした。いつもより熱量高めの推し作品30作品をどうぞ!

書き出し規定部門 モチーフ『推し』

語彙力が無くて、「好き」だけを連呼してる。
葱山紫蘇子

語彙力を奪う存在が推しかもしれない。

推しと出会ったのはほぼ交通事故のようなものだ。
井沢
オフ会のメンバー全員、暗証番号が同じ。
人馬一体勘
液晶フィルムの空気が、推しの顔に邪魔をする。
漆原みたいな犬
試される時が来た。推しからの、「大切なお知らせ」だ。
さくさく
「貴女の推しが、わたしの推しとかぶっているので、ちょっと推すのをやめてもらってもいいですか」
さくさく

電車の中で知らない人に言われたらホラーだなあ。

「推しは変えるものではなく、増やすもの」と言い残して師匠は息を引き取った。
八王寺義昭
推しの名を呼ぶために吸い込んだ息が熱い。
昼行灯
握手会のあと、余韻に浸る用の公園に寄った。
紅井りんご
10枚買った同じCDを僕は順に聴く。
節度亜図夢
推しが結婚したら自分も結婚できるシステムにしてほしい。
ぴよちゃん

推しが結婚したら「ひとつ徳が積めた」と考えるのはどうでしょうか。

ほぼ同じ元素構成なのだから俺が推し自身なのかもしれない。
吉田髑髏
推しと同じ墓を買ってある。
いそうろう
自分のアリバイより推しのアリバイの方が詳しく話せる。
もんぜん
推しっていうのはね、素麺の中に1本だけ入ってるピンクの麺のことなんです。
うにねこ

なんだかすごく理解できた気がします

推しがいない、それは帰宅部みたいなものだと自分に言い聞かせる。
れこ
ちょっと混んでても、こっちのレジに並ぶ。
うにねこ
俺の推しを集めて究極のグループをつくっても、その中で推しが発生するんだろうな。
いそうろう

最後、鉱物っぽくなりそう

どうやら、それぞれの推しを指差した瞬間、タイムスリップしたようだ。
ベランダ
首筋をつたう一筋の汗から、文明が生まれやしないだろうか。
ベランダ

推しの首筋が肥沃!

互いを推し合うあまり、磁石のように反発し合うようになった。
インターネットウミウシ
私ではなく、私が象徴する意味に夢中な人々の幻想を動かすことに私は本気になった。
ミミズグチュグチュ

なに言ってんのか分からないこじらせ方がリアル

相続会議には私と姉夫婦、叔父、推しの五人が集まった。
g-udon
売れたのを見届け、アパートを引き払い田舎に帰る。
g-udon

どういう境地だ(笑)すごい。

右心房しか勝たん。
藤原と川越と山口
二度見していただいた。
午前0時
推しだからこそ、褒めない。
ろっさん
推しの推しが父やねん。
Nick★Acid
お~い!推しぃ~!早う降ってこんかぁ~!
タカタカコッタ
推すと、消える。
寂寥

前回のお題を出した後、今回の芥川賞作品が「推し、燃ゆ」だったことを思い出しました。どうやらそれが頭に残っていたらしいです。被ってしまってすいません。
ちなみに本作の書き出しは「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい」という続きを読まざるを得ない秀逸なもので、実際に読みましたがたいへん面白かったです。

「推し」などはまさに典型ですが、歳を取ると世間の感性と自分の感覚がどうしてもズレてきます。いったいいままでの「ファン」と「推し」はどう違うのか、なんとなく想像はしてみてもいまいち分からない。しかしこのような作品をまとめて読むことで説明しきれない心理がつかめた気がしました。おそらく書き手にとってもそれは同じで、使ってみて、より鮮明に見えてくる意味や質感があるのではないかと思いました。

それでは次回のお題を発表します。

次回モチーフ
『前向きな事実』

今回、自由部門の最後で採用した八重樫氏の「冬の金玉は揺れない。」男性ならきっと分かってくれるこの事実(縮むので)。
しかしこれだけ力強く言われるとなんとなく前向きな格言に聞こえませんか?(僕だけでしょうか)考えてみれば「止まない雨はない」もかっこいい言葉ですが、よくよく考えると当たり前のことだったりします。

次回はこのような誰もが知っている事実でありながら、あらためて言われると格言のように聞こえる文章を募集します。変化球なお題ですがよろしくお願いします。

締め切りは2月26日、発表は2月28日を予定しています。下記の投稿フォームからご応募下さい。力作待ってます!

最終選考通過者 ブーゲンビリア ナカムラロボ へねもね シロイルカ 若猫 モンゴノグノム のだなのだ 七寒六温 堺くん

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