特集 2020年10月11日

書き出し小説大賞200回秀作発表

書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)

雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


前の記事:書き出し小説大賞199回秀作発表

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書き出し小説は今回で連載200回です!

初回は2012年の11月なので、丸8年を迎えようとしています。当時震災からは一年以上経っていましたが、まだどこか引きずる気持ちあり、有名人や作家のことばよりも、そうではない全然知らないひとの、まったく別の「世界」に触れたいと、わりと切実に思っていました。

そして書き出し小説は、誰の心にも自分とは違う、すんげえ豊かな世界があるという当たり前のことに気づかせてくれました。そしていまも、気づかされつづけています。

もうこの長さでつづいたら、自分からどうこうする気持ちはありません。つづけさせてもらえる限りつづけます。作家のみなさん、読者のみなさん、そしてデイリーポータルZさま、今後ともよろしくお願い致します!

書き出し自由部門

美猿が来る。
正夢の3人目

美猿は美脚でもあると思う。

この図書館でハムを切る仕事をしている。
寂寥
昔一度だけ、虹が一日中消えない日があった。
オメガ
この線から向こうは海。
紅井りんご
町のはしっこに腰かけて、薄いコーヒーを啜っている。
xissa
無知は罪だが、武器になる
まる
一歩目で分かる。百年前の今日。雪が降っている。
けー

バラバラな時制が神秘的な効果をあげている。

タバコを2本吸い終えると、彼女は口紅で鏡に何かを書き出した。
嘘みたいな犬
互いに流した血が、廊下の真ん中で手を繋ぐ。
正夢の3人目
ゴールしたマラソンランナーを、手品師がマントに包んで消した。
住民パワー
朝干して出たターバンが、全てなくなっていた。
タカタカコッタ
ヒーローのキックも、アジトにいる参謀からの叱責も、どちらも怖いのだ。
さくさく

戦闘員小説というジャンルがありそうな気がする。

いい地動説と悪い地動説がある。
いそうろう
刑事は米を研ぎ、炊飯器のスイッチを押し、豚肉にパン粉をまぶし揚げながら取り調べを続けた。
哲ロマ
世界観はわかったから、お皿を洗ってくれ。
インターネットウミウシ
神は七日目に回転寿司屋の待合室を消した。
ヘリコプター
僕の夕方にはいつも誰かがいない。
井沢

夕方に居眠りすると決まって子供のときの記憶が蘇って哀しくなる。

吉岡の作るあみだくじは全部同じ行き先に辿り着くという。
井沢
「そんなことないよ」と言うのに二十秒かかった。
紀野珍

友達の自虐ネタがすべてその通りだったとき。

いったん広告です

つづいては規定部門。今回のモチーフは『私小説』でした。私小説の主人公が「私」とは限らない。

書き出し規定部門・モチーフ『私小説』
 

37にもなって、まだ序章が終わらない。
正夢の3人目

同じく!52だけどな!

タッチパネルに嫌われる人生を送って来ました。
たこフェリー
尊敬する人の欄に誰の名も書けない子供だった。
xissa
最終回のような毎日を生きてきました。
ロハン
まだまだ傷ついてる、どん底じゃない。
人馬一体勘

痛みは生きてる証拠。

牡蠣にあたってダラダラしているうちに10年が過ぎていた。
いそうろ
三人組の下っ端として過ごした。オオカミぐんだんという名前だった。
ふじーよしたか
私は「死ね」という言葉を学年に最初に持ち込んだ悪魔です。
モンゴノグノム
父のダンベルとして、すくすくと育った。
suzukishika

ほほえましい。

小中高、会社までも、私が通った建物はもう地球上には無い。
オメガ
ジョン・レノンが死んだ冬、私は生まれた。
紅井りんご
私が産まれた1979年、エンヤはまだ10代で、レッドツェッペリンはとくに目立った活動はしていなかった。
哲ロマ

あえて二つを並べていました。

怒ると気体に、悲しいと個体になる性質がある。
いそうろう
起きたら成人とは思えない量のよだれを流してた。
葱山紫蘇子
大量の積ん読に埋もれて死ぬのならば、それはそれで本望だ。
ろっさん
ハツカネズミのことを思う帰り道、息苦しい夜の景色はなんとなく青みがかって見えた。
友成ユミ子
これは、「好き」と「できる」は違うのだと納得するまでの、長い道のりの記録である。
小野芋子
ああ、他の精子に道を譲ってさえいれば。
prefab

精子時代はみんな前向き。

頭からコンドームをすっぽり被って、僕はいつまで、澄まし顔で取り繕っているのだろう?
タクタクさん

知らんし!

サビの手前で、ぼくは産まれたという。
インターネットウミウシ
俺が諸事情だ。
八重樫

諸症状でもある。

子犬を可愛がる俺を、彼女に見てほしかった。
もんぜん
なんだ。外国の小銭か。
タカタカコッタ

なにかを小銭と間違えてばかりの人生でした。

これは私がゲジムーを飼い始め、そのゲジムーに捕食されるまでの二年間の記録である。
IWA

捕食されるのが分かっているので、気軽に読める。

続編公開のペースを早く感じるようになった
ビアシン
銀座で飲み、四谷で吐く。便器に映る顔はお岩に似ていた。
轍眼鏡
私は10基の墓に葬られる。
昼行灯
ナンをちぎりながら、何を食べているのかわからなくなる。
モンゴノグノム
バッグと上着の置き場所を探しているうちにラーメンが運ばれてきた。
紀野珍

得てしてみんな、そんな人生。


さて、冒頭でもお伝えした通り、書き出し小説は無事200回を迎えました。
そこで書き出し作家による文芸サイト『文芸ヌー』では、「書き出しマイベスト」を募集することにしました。文芸ヌーのTwitter( https://twitter.com/bungei_nu )で告知しますので、ぜひご参加ください。

それでは次回のモチーフを発表します。

次回モチーフ
『ラーメン』

ここ数日ぐっと肌寒くなりました。ラーメンが恋しい季節です。次回は日本の国民食、ラーメンをモチーフによろしくお願いします。締め切りは10月30日、発表は11月1日を予定しております。下記の投稿フォームから部門を選んでおくってください。力作待ってます!


最終選考通過者

薙糸 ぴすとる 紅幸ゆう ゆう3 タカタカコッタ にら将軍ハルナ ラリルレロ 午前0時 暁月 坂上田村麻呂の従兄弟
 

 

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