特集 2020年9月13日

書き出し小説大賞198回秀作発表

書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)

雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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夏空に秋空が混じり合い、今日はアイスコーヒーより冷めたコーヒーを飲みたい気持ちです。それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご紹介しましょう。

書き出し自由部門

象の尻が濃ゆくなって雨だ。
terayo

いままで誰も書いたことがない雨の表現ではないだろうか。ゾウ飼育員にとってはあるあるかもしれない。

昨晩の雨による水温の低下が、今年最後のプールの授業をバスケに変えた。
さくさく
このくらいなら自分にも描ける、と思わせる夏の空だ。
七世
色に名前がない時代、みんな好きなもの着て暮らしていた。
ヘリコプター

色に名前がつく前から、「きれい」はあった気がする。

レースなんて虫食いみたいで気持ち悪いじゃない。そう言うと彼女は靴下を脱いだ。
井沢
祝日みたいに1日だけの秋が来た。
井沢

分かる!秋ってこういう感じで来る。ただし休みにはならないけど。

水晶玉と占い師が転げ落ちて来た。
ぴすとる
文金高島田は意思があるように転がり続けた。
住民パワー

「箸が転んでもおかしい」と言うように、転がるって本能を刺激する面白さがあるんだろうか。

魚なんだから泣くな!
女肝産
大漁や豊作の歌ばかりだ。
xissa

歌詞中に「例年に比べ」が入ってる。

丁稚のさぶが死んだ晩、屋根裏の錠前が静かに開いた。
けー
静岡を境に、ラーメン屋の椅子が丸と四角に分かれるらしい。
いずも

もっともらしい嘘って面白い。

はい、おっしゃる通りお客様は神様ですが、絶対に許さねえでございます。
インターネットウミウシ
巨大抹茶パフェの中で、意識が遠のいていく。
たこフェリー
「おじさん見てて!」と見知らぬ男児が言って駆け出し、公園の外へ消えた。
紀野珍
妻に借りたワイヤレスイヤホンは電車内で次々とペアリングしていった。
ビールおかわり

一種の寝取られモノ?

猿と暮らしてみて多くを学んだ。
セッドあとむ
イマジナリー猫が膝で寝ている。長く延びた尾は私の身体に何重にも巻き付いた。
prefab
いったん広告です

つづいては規定部門。今回のお題は「まだ名前のない感情」でした。この微妙過ぎる心理に共感してください!

書き出し規定部門・モチーフ『まだ名前のない感情』

かゆいところがわからない。
xissa

逃げ水みたいな痒みってあるよね

カバー曲だったのか。
紅井りんご
ランドセルにしまえない気持ちだってある。
タクタクさん

しまえない気持ちの方を大事にして欲しい

飲み込んだ言葉で喉が焼き付いた。
セッドあとむ
「ひとくちちょうだい」君の喉に、ヤクルトが全て流れていく。
さくひな

驚→惑→怒→仏

怒ったまま「じゃあいいよ」と譲られた。
ジコカン留学生
前に観たよね、このAV。
人馬一体勘
担任はおやじ、参観会で来たお袋。
オメガ
回転寿司で倒れている寿司を見かけた時の感情。
えびさん
多分、この気持ちをどんな日本語で表してみても、一画足りないだろう。
三原皐月

この作品を、他の作品のつづきとして読むと面白い。

あなたは覚えているだろうか。裸足で自転車に乗った感触を。
空論城
俺じゃなければ「うまい!」と思ったんだろうなぁ。
正夢の3人目
新幹線の車窓から電線を眺めている。
吉田髑髏

ああ。分かる!とくに帰路の新幹線であのフィルムのように流れる電線を見るときの感傷。ぐっと来るね~

ピンとこないヨガを20分続けている。
インターネットウミウシ
モテている息子を見て、宇宙空間で一人旅をしているような気持ちになった。
もんぜん

地球からの交信も途絶え……

ここに建っていた何かを思い出せぬまま、信号は青に変わった。
けー
第85形態の敵と闘う。
いそうろう

30形態越えたあたりからどうでもいい。

「20年前の作品とは思えない斬新さだね!」というコメントが9年前。
モリダイ
「りんご」「ゴリラ」「ライス」「す、好きです付き合ってください」「炒り胡麻」
さくさく

「炒り胡麻」で見事一本。

俺が一昨日した話を上司の口から聞いている。
紀野珍
引越し前日、初めて見るコンセントがあった。
にかしど
恐らく人生初であろう天気雨に遭遇した幼稚園児を、雑貨屋の軒下で雨宿りしながら見ていた。
高田
殺虫剤の白い小さな粒を黙々と巣に運ぶ蟻に、見入ってしまった。
タカタカコッタ
散歩道で飼犬の糞を片づける時、私は無になる。
g-udon
囮になった私だけ生き残った。
住民パワー

輝いたまま逝きたかった。

上海の裏通りに飾られていたマネキンは、上半身は半袖のポロシャツと左肘にサポーター、下半身はブリーフのみで、ポロシャツの裾をしっかり入れてあった。
小野芋子
1日の終わりに何のきっかけもなく涙が出た。
もんぜん

誰しもある。そう信じたい。

 

それでは次回のモチーフを発表します。

次回モチーフ
『もっともらしい嘘』

今回の自由部門で採用したいずも氏の「静岡を境に、ラーメン屋の椅子が丸と四角に分かれるらしい。」が面白かったので、次回のお題は『もっともらしい嘘』にします。

一瞬で分かる嘘ではなく、素直に信じてしまいそうな嘘。さらにその嘘自体に目的はなく、だまされたところで実害はない、そんな「ただの嘘」をよろしくお願いします。締め切りは9月25日正午、発表は27日を予定しています。下記の投稿フォームから部門を選んで送って下さい。力作待ってます!

最終選考通過者

チャレンジくん/にら将軍ハルナ/yasui/轍眼鏡/TOKIOの空席スナイパー/八重樫/はらけ

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