特集 2020年8月23日

書き出し小説大賞197回秀作発表

書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)

雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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階段の虫の死骸くらい、お金が落ちてたらいいのにね!それでは今週もめくるめく書き出しの世界へご案内しましょう!

書き出し自由部門

うんこを漏らしてしまえば、社長だろうと恐くない。
オメガ

パンツは惨状。目は聖人。

輪ゴムで鬱血した指先と同じ色に染まる夕空。
紀野珍
昔は道端の軍手にも物語が見えたのに。
正夢の3人目
隣人とはいっさい面識がないが、飼っている芝犬とだけはよく目が合う。
g-udon
夕立を吸い込んだ段ボールを指で押すと、義母のようにへこんだ。
昼行灯

お義母さんは低反発

眩しいけれどひんやりしている。
xissa
ひとに食べてもらえなかったドーナツの穴の分だけ、宇宙は狭くなっていく。
さくさく
海パンの紐がほどけない。着替えのパンツも忘れた。2つの絶望に襲われた。
みつばち社長
天使の輪を煮出したスープは、腐った豆のような味がした。
prefab
何もない部屋。いや、正しくはスイートコーンの缶詰が一つだけ置いてある部屋だ。
ながさむ

ポップアートのような部屋。

吐き散らかしてやる、マーライオンのように。
人馬一体勘
まずはA列からG列の方まで、森へお帰りください。
もんぜん
女王のまま湯切りする。ガムテープの繭が情けなく蠢き出す。
けー

やめどきを誤ったSMは、ただダレるだけ。

クイズ王は一度も瞬きせず、懐石料理を平らげた。
けー
見て見て!虱って、なんとも言えない字面よ!
タカタカコッタ

貧乏な絵しか浮かばない!

いったん広告です

つづいては規定部門。今回のテーマは『怪談』でした。部屋を暗くして液晶の灯りだけで読んで下さい。

書き出し規定部門・モチーフ『怪談』

これからする話を、あなたは「覚えていないだけ」です。
正夢の3人目

このあと自分が引き起こした惨劇を聞かされると思うとホント怖い。モダンホラーの趣き。

君の影、今日は元気だね
七寒六温
冷凍庫から出した太ももを抱くとよく眠れた。
ビールおかわり
生首と焼き首が置いてあった。
もんぜん

いろんな薬味といっしょに。

弁当にのせてある保冷剤の中身は胎盤だった
パチリパンダ
靴の展示会を行います。素材は全て自分です。
モリダイ

全身の皮を靴にした男……グロくていい設定。

「ここ、良い物件だよ。私のせいで事故物件になって、家賃も安くなってるし」
さくさく
お盆になってようやく帰ってきた恋人は、腐った桃のような匂いがした。
さくさく

腐臭を漂わせながら、どこかロマンティック。

好奇心は猫を殺し、猜疑心は人を殺す。
ながさむ
「私」にも見えない「私」が何かしている。
sf
枕元にザリガニの幽霊がいる。
寂寥
勢いよく引き抜いたイカの腹から、見覚えのある女の髪の毛が溢れ出す。
ぴぃ

鮮度からのホラー!

小さなタイヤ痕は側溝に続いていた。
いずも
その崖に落ちたのが、この主人です。
モリダイ
舗装された土の下のセミのことを考える。
xissa

閉所恐怖症は最悪の妄想

風鈴が止み、注いだ覚えもないのに麦茶が増えている。
井沢
金縛りになると同時に香水が香る。殺した女がそばにいるのだ。
g-udon
男は最後にプロテインを飲み干すとそっと蝋燭を消した。
はらげん

怪談中もずっと空気椅子の姿勢だった。

今日は記念日。冷たい貴方に虫だけでなくて元気も湧いてほしい。
モンゴノグノム
女性が消えた後のぐっしょり濡れた座席を見た運転手は、その夜激しく妻を抱いた。
ぴすとる
「やっぱり『いいね!』が足りない」お菊さんが令和に寄せてきた。
吉田髑髏

井戸とハッシュタグ似てるね、とお菊さん

ママが作ったメインディッシュにはシルクハットが添えられていて、パパは席には居なかった。
轍眼鏡
その女の子の家のベランダにいたやつ、俺だったんだよ。
ふじーよしたか

じゃあ、あの三角巾はパンティ?

もう、おじいちゃんったら。こっちは現世よ。
空論城
祖父は私を怖がらせまいと、慌てて頭の白い三角の布を仕舞った。
ろっさん
だいすきだよずっといっしょにいようねずっとだよすきだよだいすきだよぜったいはなれないでねいっしょだよだいすきだよすき
あさげ

これが全身に浮き出したら怖いだろうなあ……

フェイスシールドを外して、ゾンビが噛みついてきた。
たこフェリー
ギターを抱えた人形の、髪は伸び続け、ベルボトムの裾も広がり続けた。
タクタクさん
どんな計算式に当てはめても起こり得ない現象だと認めたとき、博士の口から悲鳴が漏れた。
紀野珍

悲鳴の前に「故に…」と。

テヘッと笑い、ペロッと出した舌が異様長く、先が二股に割れている。
住民パワー

しかも緑色

タクシーの車内で消えた女が次々とここにあらわれた。
ミミズグチュグチュ

書き出し怪談はこれにて閉幕です。それではみなさんご唱和ください。せーの!「お前だーーーーーつ!」

では次回のお題を発表します。

次回モチーフ
『まだ名前のない
感情』

うれしいでもない、かなしいでもない、せつないでもない、こわいでもない、マヌケでもない……人には言葉にならない感情があり、その感情を伝えるために言葉がある。それは何気ない風景の描写だったり、一瞬の切り取り方だっだり、直感的な比喩で可能かもしれない。まだ名前のない感情を呼び起こす書き出しを募集します。

締め切りは9月11日(一週延びます)発表は9月13日を予定しています。下記の投稿フォームから部門を選んで送って下さい。力作待ってます!


最終選考通過者

あさげ ともちゅん 稲荷 亡鳥 ヨウキ9500mg 宮川電卓 坂上田村麻呂の従兄弟 高田 yasui 魚子 ともきよ 葱山紫蘇子 ぐるりん さかな いそうろう

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