特集 2020年2月9日

書き出し小説大賞第184回秀作発表


書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)

 

雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


前の記事:書き出し小説大賞183回秀作発表

> 個人サイト バカドリルHP 天久聖一ツイッター

月に一、二度行く近所の家系ラーメン屋はごはんが無料で、巨大な炊飯ジャーの隣には、キン肉マンのイラストが貼られており、その吹きだしには「ジャーのフタは静かに閉めてくれよな!」と書かれている。

それでは今週も、めくるめく書き出しの世界へご案内しよう!

書き出し自由部門

その逆恨みは、ほとんど祈りだった。
紀野珍

祈りと呪いは紙一重

号泣したあとの気まずさはチョコレートが甘すぎたときに似ている。
七世
作り立ての笑顔は乾いた唇をパックリ割った。
ビールおかわり
マカロンがなにか分からなかった俺は、それをマカロンと思い込むことにした。
いそうろう

大相撲の表彰式に出てくる巨大マカロンが好き。

キャスター付きの椅子に乗って、深夜の社内を探検する。
インターネットウミウシ
「沖縄のサンゴ礁と私、どちらが大切なの?」
さくさく
知らぬが花、尿管結石は星。
さくさく

星の砂の正体は尿道結石。

甥っ子が口から出すレゴでテラテラ光る塔が完成する。
人馬一体勘
馬鹿が戯言をほざくと、可愛い鳥がピーと鳴いた。
次郎の刺身
犬はスペースシャトルの中まで付いてきた。
もんぜん

月に置き去りにした犬と数年ぶりに再会。

暗めの照明がポークソテーを安くする。
マグマを抱いて黄金を知る 黒田清輝です
パエリアのムール貝が一斉にはばたく。
xissa
ニセ猫は食用になる。
prefab
アスファルトを突き破って咲いてる3株の水仙が、500円を拾う自分を見つめていた。
葱山紫蘇子
帰ってきた6億円とともに、エルニーニョ現象は起こった
七寒六温

莫大な過払い金は気候をも変える。

君の持つ余白と、月のクレーターは似ている。
マチェーテ
いったん広告です

続いては規定部門、今回のモチーフは帰って来た『吉田』。前回からなんと五年ぶりの再会です。50本ほど選んで置きましたので、たっぷりご覧ください!

規定部門・モチーフ『吉田』

また、吉田から列が曲がっている。
セッドあとむ

吉田を調節することで、さまざまな図形がつくれる。

人数がちょうどいい時に限って吉田は遅れてやってくる。
セッドあとむ
出すぎた真似というかフリをする吉田。
人馬一体勘
「男にだって生理はある!」吉田はうるさかった。
トミ子
ワーキング・ホリデーに行った吉田はそれっきり帰ってこない。
轍眼鏡
エア吉田コンテストの初代優勝者は吉田だ。
わび酒oF千利休ール
キュレーター気取りの吉田だった。
にら将軍ハルナ

キュレーターの意味も知らないままに。

神輿の上の、吉田が吐いた。
昼行灯
マッチ棒を何本動かしてみても、吉田は吉田のままだった。
八重樫
救急車が通りすぎるたびに吉田は吠えた。
もんぜん
何食べたい?の質問に吉田さんはパスタを巻く仕草で答えた。
ろっさん

腹立つ~~~w

ボーカルの吉田は、曲の9割を観客に歌わせていた。
みそぎ
夕方になり、多くの吉田たちは、飼い主の元へ帰っていった。
いそうろう
磔にされた吉田は、どこか誇らしげだった。
いそうろう
ラテアートで描かれた吉田の顔は、曖昧に笑いながら消えていった。
伊勢崎おかめ
死んで吉田の握力は0になった。
伊勢崎おかめ

開いた拳からドン・キホーテのコインが……

字がある、吉田とある、剣道の垂である。
ロベルト・ホラーニョ
吉田晴れの空に、吉田雲が出てきた。
suzukishika
二時間後、口に獲物をくわえたお父さん吉田が戻ってきた。
IWA
あそこで吉田がずっこけなければ、銃弾は確実に大統領を射抜いていただろう。
IWA

現在その地にはずっこけた吉田の像が建っているという。

吉田は胸に赤い薔薇を咲かせて倒れた。
住民パワー
吉田?ああ、髑髏のことか。
ぴすとる
ヘリが流れていく。吉田は無事気球に飛び移ったようだ。
けー
「ほら私、古田だよ。進化して吉田になったの」
タクタクさん
下の棒が長い田と結婚して、アハ体験みたいになった。
メカと渓谷
ハブとマングースと吉田は互角の闘いぶりをみせた。
インターネットウミウシ

前半はより攻勢な方へつく立ち回りを見せていたが、後半は実質、吉田VSバブ・マングースだった。

吉田は生きたまま腸に届いた。
紀野珍
AIはまず吉田の名字から奪っていった。
くのゐち
ようこそ吉田ランドへ。案内係の小林です。
町誤子

なるほど(笑)動物園でも動物が客を案内するわけじゃないしね。

「あ、いらっしゃい」ささくれを弾いていた吉田が顔を上げた。
井沢
吉田のことを思い出すたびに、僕はウケ口をひっこめる。
フルカワ
吉田宮殿をヘリから見下ろすと、吉田の文字になっていた。
g-udon
完璧なシンメトリーなど存在しない。そう、吉田を除いては。
g-udon

志村けんがよくやる鏡を使ったコントを思い出しました。

スマホの中の吉田くんはいつも笑っていて、私は余計に悲しくなる。
葱山紫蘇子
遺影代わりのタブレット。吉田の顔が5秒おきに変わっていく。
寂寥
吉田がバンクシー?そう、その時まで。それを見るまで。
寂寥

吉田がゴミの日に出した、ステンシルを見るまでは……。

ビルの窓という窓にびっしりと吉田が貼り付いている。五年前から。
シグナル
飲み干したグラスの向こう側、ボヤけた吉田が膝から崩れ落ちる。
ナシハリ
吉田たっての希望で、皆に作務衣が支給された。
嘘みたいな犬
吉田の影が長い。慌てて弁当をしまい現場に戻る。
はらげん
吉田ん家のペガサスがまた空中で糞している。
prefab

教室の窓から見た風景。

「来るぞ、夢オチ来るぞー!」と吉田が騒ぐ。
にかしど
吉田の言う「素人さん」は自分以外を指すらしい。
にかしど
とびきり元気のいいミジンコを吉田と名付ける。途端に見失う。
terayo
吉田を折り返して、ランナー達はラストスパートをかける。
terayo
吉田の耳が、ファッと落ちてサッと戻った。
モリダイ

怖いんですけど(笑)耳は落ちないようにちゃんとしといて。

間もなく最後の吉田がゴールします!
わけわけ
吉田さんの認印、でっかいなあ。
xissa
吉田くんの残像がまだ校門のあたりに。
xissa
そこ、その土管の上、そこでジャンプすると吉田出るよ。
哲ロマ

出しても取らない方が得なアイテム。


 五年ぶりの再登場にも関わらず、捕らえどころがなく、でもしたたかで、融通無碍な振る舞いを見せる吉田像は、不思議なほど継承されている。

全国の吉田さんには申し訳ないが、吉田という名字の字面と響きには、他のメジャー名字にはないある種の汎用性がある。「佐藤」や「山田」ほど主張がなく、「鈴木」や「小林」ほどスマートでもない。もちろん私たちが個別に知る吉田さんは、それぞれ個性的で豊かな感情を持っている。しかしそれらの情報を遮断して、総体としての吉田を想うとき、目に浮かぶのは開けた風景の中、少し離れた場所で、逆光ぎみに佇む吉田さんだ。

いつか見たはずの、でも思い出せない。薄い鉛筆で描かれたようなその面影は、だからこそあらゆる作者のイメージの中で、何度も自由に描き直されるのだろう。

今回も質、量ともに申し分ない吉田が集まった。数年分の吉田は充分まかなえたと思う。

それでは次回のお題を発表する。

次回モチーフ
『謎』

次回のテーマは『謎』。いまでは思いっきり自由な表現になってしまったが、書き出し小説の根本テーマは「つづきが読みたくなる冒頭」だった。そしてそうした一文には必ず「謎めいた魅力」が含まれているものである。

ミステリに限らず、あらゆるジャンルで冒頭に提示した「謎」は読者を一気に物語の中へ誘う。書き出し小説のいいところはその謎になんの責任も持たないでいいことである。投げっぱなしの魅力的な謎を募集します。


締め切りは2月21日、発表は23日を予定しています。下記の投稿フォームから部門を選んで送って欲しい。力作待ってます!

最終選考通過者
オメガ 桜草 小野芋子 シロイルカ シグナル 規約違反のため表示することはできません いちろく 薙糸
 

▽デイリーポータルZトップへ

デイリーポータルZを

 

▲デイリーポータルZトップへ バックナンバーいちらんへ
↓↓↓ここからまたトップページです↓↓↓

 

今日のみどころ