特集 2019年12月22日

書き出し小説大賞181回秀作発表

書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)

雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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暮れも押し詰まって参りました。毎年暮れが押し詰まるたびに、これ以上押し詰まると、その反動で半年くらい過去に戻れるんじゃないかと思うのですが、そういうことはまだ一度もありません。それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご案内しましょう!

書き出し自由部門

サドルを低くしているおじいちゃんが小さい。
ビールおかわり

ただ自転車に乗ってるだけなのに曲芸に見える。

ハトがいっぱいいる公園で、私なりに落ち込んでいる。
さくさく
この迷子センターは迷子たちが自力で運営している。
くのゐち

迷子センター創始者は三歳で親とはぐれ生涯迷子を貫いたという。

屁を小分けにして雑踏を進む。
にかしど
楽しげが、我が家の前を通りすぎてゆく。
正夢の3人目
もう動かないセガサターンが床の間に鎮座している。
桜草
暴れる犯人に耳掃除をしたら眠ってしまった。
住民パワー

そのあと寝言で自白した。

真似る口癖、進展のない恋。
人馬一体勘
あなたの優しさは、サボテンにとっては暴力でしかなかった。
八重樫
その行為がパワハラに当たると考える者にとっては、その行為はパワハラに当たるのだろう。
いそうろう
犯罪に動機がないことを不思議がる人々は、自分自身に生きる動機がないことを不思議がらなかった。
ミミズグチュグチュ
夢で食べる寿司の味って、実はぜんぶ同じ味らしいよ。
内側の模様

夢の中の寿司はたぶんサビ抜き。

右脳派探偵の「ちょっと待ってください」に、左脳派刑事は露骨に嫌な顔をした。
さくさく
隣の吊革に捕まってる人にもおすそわけで漫画を見せる。
インターネットウミウシ
大きな袋を担ぎなおしたとき、隣の屋根の上にいる同業者と目が合った。
紀野珍

読後1秒後にクリスマスネタだと分かりました。

もう少し寒かったら雪になる雨だ。
xissa
叩きつけたエレキが畳をへこませた。
昼行灯
空に燃えるような銀杏の黄色が見えたら神社の出口だ。
井沢
ブルーシートを庭いっぱいに広げて海の説明を始める。
オメガ
とっくに文金高島田なんて崩れている。
ろっさん

ウェディングドレスで逃げる花嫁、の和装版

景色は線になって、また元に戻った。
もんぜん
いったん広告です

つづいては規定部門。今回のモチーフは『鍋』でした。どんな作品が飛び出すか分からない、闇鍋気分でお楽しみ下さい。

規定部門・モチーフ『鍋』

全てが鍋になる。
昼行灯

すべてがFになる的な。

鍋を間に挟み、鍋奉行と灰汁代官が火花を散らす。
小野芋子
豆腐の取り合いで、関係も崩れた。
胸見て一杯
めったに怒らない鍋島が、ぐつぐつ言い始めた。
月嫁
かわいいかわいいと、姫はなんでも鍋に入れた。
けー

優香の「バカ姫」で想像しました。

不合格通知の紙の上に鍋は置かれた。
自由人
インスタにあげたいがカニで手がべたべただ。
xissa
人知れず育てていた肉が、姪の溶き卵をくぐる。
にかしど
同じ肉を取りにいった箸が触れあった。
セッドあとむ
鍋奉行のお裁き待ちでスープが蒸発した
八王寺義昭
ゴリラはモツ鍋よりもバナナを好む。
江戸ガットン

剥いたバナナを鍋に浸して食うゴリラ。

「鍋パしよう」じいじの笑顔は温かかった。
いちろく
「つまり人生ってさ、蓋をした鍋と同じなんだよね。」その心はどうでもいい。この人のことが嫌いだ。
いちろく

なんでも「人生」に紐付けしてくる人っているよね。

今夜も親方とふたりちゃんこ。デザートはハーゲンダッツ。
寂寥
この俺が鍋に囲まれるとは思わなかったぜ。
たこフェリー
パーカーのヒモが浸かっている。でも僕は言わない。
フルカワ
その戦隊ヒーローは、ひと仕事終えたあとよく鍋をする。
紀野珍
冬はサソリ鍋が旨い。歯の隙間に挟まる毒針もまた楽しい。
住民パワー

サソリ鍋を紹介するホームページにありそうな文章。

鍋を伏せるように土下座した。
住民パワー
わたしの出汁だけが目的だったみたい。
カリフォルニアダンサー
湯気が立ち上る目の前の鍋も、隣で微笑んでいる彼女も、VRだ。
はらけん
食べた人が、次の具材になる。
タクタクさん

無駄に怖いよ!

しいたけに刻まれた十字を見て、ルーマニアの鍋奉行は苦しみ出した。
IWA
箸で掴んだこれは、昆布なのかウェットスーツなのか。
terayo
餅巾着の口を留めた指輪に気付かれないまま、シメのうどんを入れた。
哲ロマ
鍋底をのぞく時、鍋底もまたこちらをのぞいているのだ。
モンゴノグノム

深い意味があるようで実はなんにも言ってない。


美味しい作品ごちそうさまでした!
さて、今年の書き出し小説は今回でおわりです。すっかり長期連載になった書き出しを、変わらず応援してくれる読者のみなさま、DPZのみなさま、そして作家のみなさまありがとうございました!
それでは次回、来年一回目のモチーフを発表いたします。

次回モチーフ
『スリーワード』

次回のお題『スリーワード』とは、三つの言葉を並べただけの文章です。以下の例をご覧下さい。

気の抜けたハイボール。くたくたの白菜。サングラスのチンパンジー。
寂寥

これは今回の規定部門に、寂寥さんが送ってくれた作品ですが、書き出し小説ではよくこうした「言葉を並べただけの作品」を採用します。いままでは無意識に選んでいたのですが、あらためてこの作風をテーマとして募集します。
初夢の縁起物とされる「一富士、二鷹、三茄子」、あるいはかつてのヒット曲「部屋とTシャツと私」のように、人は三つの言葉を並べるだけでも、その絶妙や関係性を面白がれる感性をもっているようです。
三つの言葉は脈絡があったり、なかったり、またその並べ方にも感性が問われるでしょう。語感にもこだわりたい。助詞は必要だと感じられればつけてもかまいません。試しに僕もつくってみました。

遮光カーテン、ローカルCM、踵の折れたハイヒール。

出張先の外資系OLというイメージでつくってみましたが、固まったイメージではなく、バラバラな言葉からオリジナルの風景を創出するのも面白いと思います。いろいろ組み合わせて楽しんでみて下さい。

最終選考通過者

むぎちゃんがペロペロ バビッチ佐野 花瀬いをり トニヲ ゴロ シモカワヨウヘイ つんざくざくろ 山田ヒク之 モリダイ シマシマ秀和 ふくすけ デデデニオング オレンジ ともきよ みそぎ 狂った夏が来た 加藤チゲアキ カズマンヌ シロイルカ 出しなよ、音。 夫妻木聡 近畿KiDs 葱山紫蘇子
 

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