特集 2019年6月23日

書き出し小説大賞第171回秀作発表

書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)

雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


前の記事:書き出し小説大賞170回秀作発表

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フグ調理師免許、返納します!(持ってないけど)というわけで今回もめくるめく書き出しの世界へご案内しましょう。

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書き出し自由部門

「知り合いかも」の中に宇宙人がいる。
スリッパ
手の平で豆腐を切ってるのを見て娘が目を背ける。
自由人
異国のビスケットは湿気っていた。
xissa
ヒールの先で飴玉を割る、歌舞伎町の女達による天気予報。
轍眼鏡
れでぃおへっどは、やさしかった。
寂寥
これでもか。と言うほど優しく撫でられている。
のすけ
中学生って、想像力だ。
さくさく
あと少しの石鹸はつるりと手のひらで踊り、円を描いて排水口へと吸い込まれていった。
さくさく
上手くいったダブルプレーを思い出しながら飢えをしのいだ。
まじいい
朝靄の奥に空気入れが見える。
ウチボリ
くらやみを歩くためにと手に入れた炎でみんな燃えてしまった。
カミハリコ
祖母から教わったこの技術は、ピッキングという犯罪だと警察で知った。
住民パワー
五分咲きのアンコールだが、出てやる!
カズマンヌ
いいわけ御殿が完成した。
紀野珍

寸評
●スリッパ氏「知り合いかも~」元彼とハリウッドセレブと命の恩人もいる。
●轍眼鏡氏「ヒールの先で~」その砕けた飴玉、くれ!
●のすけ氏「これでもか~」毛根が焦げるほど。
●カミハリコ氏「くらやみを~」RPG風であり寓話的。ふしぎな世界観。
●住民パワー氏「祖母から~」祖父からはサムターン回しを。


つづいては規定部門。今回のテーマは『不条理』でした。現実ではあり得ないイメージを喚起する力、言葉の持つ面白さのひとつです。

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書き出し規定部門・モチーフ『不条理』

母も裏返ってしまった。
xissa
弁当箱の蓋を開けると、眩しそうな顔の自分と目が合った。
紀野珍
転校生だけのクラスができた。
紀野珍
予報にはなかった冷凍イカが傘を破って頭に刺さる。
インターネットウミウシ
女は笑いながら砂になっていき、銀歯だけが残った。
インターネットウミウシ
エレベーターを待ってる間に訃報が届いた。
人馬一体勘
雨の夜、車で道を走っていると、助手席に三日月を乗せている車とすれ違った。
へんへん
太陽が3つ、月が5つ輝くこの星で、心臓はひとつも残っていなかった。
えむけい
ここは号泣が認められた公共の場。
ろっさん
今年流行した言葉は、一つもありませんでした。
もろみじょうゆ
父の仇と言って、父を蹴り上げる。
レンゲBOY
縦に半裸の男がバーベキューを仕切る。
井沢
街中を、ポチの自意識で塗りつぶした。
タクタクさん
それはV字に並べられた12匹の猫だ。
タクタクさん
こめかみが指に引っかかり、落下をまぬがれた。
モリダイ
小さいおじさんは食券ボタンをロッククライミングのように登った。
カズマンヌ
昇る太陽を追いかけるように、地平線の向こうから長い舌が伸びてきた。
トモマリ
五つの関節がある中指を、テントウムシが登っていく。
昼行灯
お客様、この大陸では摺り足でお願いいたします。
高田
鬼はヨガを覚え、やがて公園の遊具になった。
ヘリコプター
「なんでやねん!」とツッコミを入れると、砂の相方は静かに崩れた。
住民パワー
溜池山王駅がない。
xissa
無い!眼球から足の爪に至るまで!なのにこのジャグジーの気持ち良さたるや!
高田
店長がスクラップされ、立方体になって出てきた時、僕はなるほど店長は確かに丸顔だったんだと思った。
フルカワ

寸評
●インターネットウミウシ氏「女は笑いながら~」書き出し小説版『砂の女』
●えむけい氏「太陽が3つ~」人類がいない世界に惹かれ、癒される感覚ってなんだろう。
●もろみじょうゆ氏「今年流行した言葉~」不条理の尺度も人それぞれだなあと感じた作品。
●レンゲBOY氏「父の仇と言って~」実写化するとしたら父役は?
●井沢氏「縦の半裸の~」半裸の側にやけに煙が……
●昼行灯氏「五つある関節~」ネットの『蓮コラ』画像に通じる、ムズムズした読後感。
●住民パワー氏「なんでやねん!~」どないせーちゅうねん!と被せたい。


それでは次回のお題を発表します。

次回モチーフ
架空のメニュー

次回は現実にはない、架空のメニューの名前を募集します。ふつうの料理名に関係ない単語をミックスしたもの、語感がそれっぽいもの、変な世界観があるもの、ダジャレなど、いろんなアプローチでクダラナイ料理名を考えてください。いくつか例を出しておきますね。

『青春の挫折煮』『ウクレレの肉詰め』『自転車のサドル炒め』『積み立て貯金のテリーヌ』『山形産チンパンジーと中学生のマリネ・反省文を添えて』『蟹クリーム工船・プロレタリアート風』『ウィンブル丼・お新香付き』……など。こんな感じで(もちろんもっと斬新なものも)よろしくお願いします。

締め切りは一週長い7月12日、発表は7月14日を予定しています。
下の投稿フォームから部門を選んで送って下さい。力作待ってます!


最終選考通過者

氷音 モノカキコ くらむぼん ポン酢助兵衛 にら将軍ハルナ 坂上田村麻呂の従兄弟 いがらっぱ おいでませ宮俊 ぎぎぎっす たこフェリー suzukishika わけわけ

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