特集 2019年8月18日

書き出し小説174回秀作発表

書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)

雑誌、ネットを中心にいろいろやってます。
著書に「バカドリル」「ブッチュくんオール百科」(タナカカツキ氏と共著)「味写入門」「こどもの発想」など。最近は演劇関係のお仕事もやってます。


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キンキンに冷えたコンビニから外に出るたびに、こんな絶望的な暑さを体験できるのは、コンビニのある現代社会に生まれたおかげという、歪んだ感謝の念を抱いてます。
それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご案内しましょう!

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書き出し自由部門

俺は夜中に鳴く蝉だ。
住民パワー
サクランボを浮かべて、母の素麺が完成する。
人馬一体勘
隣の女子高生からブルーハーツが聞こえたら、もうどうでもよくなった。
坂上田村麻呂の従兄弟

山下敦弘監督の『リンダ・リンダ・リンダ』を思い出した。数年に一度観たくなる名作。

猫の温度を28度に設定した。
もんぜん

「猫設定」ほかの機能もいろいろ考えたい

「とても丸いから許しておくれ」とダンゴムシ。
ヘリコプター
ミラーボールのあのキラキラの一枚でいい、輝きたい。
ポン酢助兵衛
鉢から逃げ出しそうなガジュマルと暮らす。
terayo

いい比喩。ガジュマル知ってる人なら、しっかり想像できるはず。

硝煙の香りを漂わせながら、浴衣を脱いだ。
森野苺
声変わりしたばかりの少年たちが花火の見えない公園で遊んでいる。
xissa
ありんこと、水着のかたちに日焼けした小学生がソーダ水に群がる。
さくさく
仰向けのセミを枯れかけのヒマワリが見守っている。
八重樫

ゴッホのタッチで想像した。

テーブルを叩く、手を叩く、その隙をコバエが抜ける。
ビールおかわり
タイルの目地に沿って牛乳が侵攻していく。
井沢
扇状地!扇状地ですって!
terayo

草ボーボーですって!

テレポーテーションしてはつんのめる。テレポーテーションしてはつんのめるから、せっかくの恋が覚めていく。
昼行灯
金は払うから、1時間だけでいいから、僕を尊敬してくれないか。
傷だらけの美人

個人的には罵倒8、尊敬2くらいのプレイのがいい。

自分が邪魔で彼女の姿が見えない。
傷だらけの美人
世界の終わりのような優しさだった。
紀野珍

自由部門は夏らしい作品が集まった。もんぜん氏の「猫の温度~」がいい。設定方法はスマート家電っぽく、猫に直接呼びかける感じだろうか。terayo氏の「扇状地!~」も暑過ぎてなにも考えられなかったのかな? と思えば夏らしい作品。それにしてもピンポイントの単語を選んでくるなあ~(笑)
続いては規定部門。今回のテーマは『怪談』であった。書き出しだけでゾクっとできる、急速冷凍のホラーをどうぞ。

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書き出し規定部門・モチーフ『怪談』

メッセージを打っている途中で「既読」が付いた。
紀野珍
スマホのカメラを向けると、画面が無数の顔検知マークで埋め尽くされた。
紀野珍

心霊モードに入れたままでは?

先生にだけ転校生が見えているようだ。
カズマンヌ
料理長は「人間の皮膚で包んだ」と説明した。
もんぜん
「あなた死んでますよ?」戸籍係は静かに言った。
自由人
スケルトン学園は、三年生にもなると幽霊部員だらけだ。
ともきよ

新入生はまだ内臓が透ける程度。

誰にも言ってないが、絶対怨感がある。
胸見て一杯
坊主が徐霊すると、パエリヤの上のムール貝が全て煙のように消えた。
prefab
「そこの自転車、二人乗りは止めなさい。」「……え?」
昼行灯
私と蚊取り線香、しづかに白骨化していく。
さくさく
金魚のゾンビは、腹を上にぷかぷかと浮かべたまま泳ぎ続けた。
さくさく
確かに私は、前向きに駐車したはず、なのに。
さくさく
「これは私がフードコートで、釜玉うどんの出来上がりを呼び出しブザーと一緒に待っていた時の話なんだけどね」
さくさく

迷惑なクレーマー客を、機知に富んだ言葉で追い返した霊の話?

そいつはデッドスペースで生きている。
ちやん
校長先生の長い話は途中から怪談になるので人気がある。
住民パワー

七不思議を織り込んだ校歌も人気。

「あの世」とだけ書かれたヒッチハイカーが追いかけて来る。
人馬一体勘
「これ落ちてましたよ」右の眼球を渡された。
人馬一体勘
この処刑場はかつてホテルであった。逆ではない。
高田
爪の中に祖母が居る。
轍眼鏡

カリスマネイリストだった祖母が……

見知らぬ人の写真を焼く。
xissa
お墓になくした右の上履きがあった。
ウチボリ
障子の奥からゆっくりと源氏パイのシルエットが近づいてくる。
しきさい感覚

どうリアクションしていいか分からない恐怖。

今年もこの樹にだけあの子の声で鳴く蝉がやってく来る。
空想庭園
また一人、村で行方不明者が出た。庭のザクロは年々黒くなる。
ぴすとる
幽霊に童貞を奪われるくだりで照明が桃色に変わった。
寂寥
私が見始めた映画がホラーだと気付いた人面瘡は思わず目を閉じた。
インターネットウミウシ
彼の怪談にはビタミンEが足りてない。
フルカワ
「お前だ」の前に大きく息を吸い込んだ。
にかしど
「お前だー!」がハモった。
ともきよ

妖怪「ハモり童」の仕業。

書き出し怪談はもう何度もやってるが、相変わらず質は落ちない。紀野珍氏の作品が示唆するように現代ホラーにスマホは欠かせない、というよりスマホ自体がホラーだ。手に負えない「便利」が無限に広がるイメージは恐怖以外なにものでもない。さくさく氏は四本採用の爆発回!フルカワ氏の「彼の怪談にはビタミンEが足りてない」がバカで好き。元気をもらえる怪談があってもいいと思う。


 それでは次回のモチーフを発表する。

次回モチーフ
フェティシズム

次回のテーマはフェティシズム。ある特定の対象や状態に執着する性癖のことで、いわゆる○○フェチと呼ばれるものである。足フェチとか脇フェチとか分かりやすいものから、風船に興奮を覚えるバルーンフェチ、食べ物を踏みつぶすことに快感を覚えるクラッシュフェチなんていうのもあるらしい。

ともあれ何に快感を覚えるかは人それぞれ、フェチにはまだまだ多様で深い世界があるのではないだろうか。是非オリジナリティにあふれた、あなただけのフェチを提示して欲しい。

締め切りは8月30日。発表は9月1日を予定しています。下記の投稿フォームから部門を選んで送ってください。力作待ってます!

最終選考通過者

ボンショ/江戸ガットン/せっき/はらけん/ぐぬぬぬぬ/いそかぜ/ろっさん/にら将軍ハルナ/ともやぴ/ 

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