たぶん一番大きい
作ってからネットで調べてみたら、同じようなつばの大きな麦わら帽子が存在していた。
しかも結構安くてショックだった。でもサイズは大きくても直径90センチ。
つばの耐久の限界がそのぐらいのサイズなのだろう。
私の作った帽子は直径100センチ。
たぶん一番大きな麦わら帽子だ。
もし、このサマンサ帽を使ってくれる方がおりましたら、差し上げますので編集部へご連絡ください。楽しく使ってもらえたらと思います。
映画「SEX and the CITY」でお色気セレブのサマンサが、どでかい麦わら帽子をかぶっていた。
大きなつばで顔が見えない魅惑。
風で揺れるつばから見え隠れするくちびる。
かっこよくて度肝を抜かれた。
ハイブランドのバッグは買えないけど、つばの大きな帽子があれば魅惑なセレブになれるのだ。
これが欲しい。この、どでかい麦わら帽子が欲しい。
作ってみよう。そしてサマンサみたいなエレガントなセレブになろう。
一般的に女優帽と呼ばれるつばの広い帽子がある。調べてみると、女優帽のつばは広いもので15センチだった。
一方、サマンサのかぶっていた帽子は、見た感じ30センチ以上はある。
どうせ作るのならばサマンサ帽より大きな帽子を作りたい。
私の目標はつば42センチだ。頭を入れる部分(16センチ)を合わせて直径1メートルの大きさにしたい。
もし、そこまで大きな帽子が作れたら、全身の日差しを防げるかもしれない。
そしたら日傘を持ち歩かなくても良いし、日焼け止めを塗らなくても良いし、ビーチに行ったらパラソル代わりになる。さらに魅惑的になれるのだ。
作り方は単純明快である。
元々ある麦わら帽子の円周を縫い足していくだけ。
さっそく、つばの長さが13.5センチの女優帽を4つ用意した。4つで3000円だ。きっとサマンサの帽子は、うん十万するのだろうからお安い。
今のところセレブ度は0%だ。Tシャツがいけないんだと思う。
私がセレブに憧れるのは、カッコいいからだ。細かいことを気にしないところも、自己中心的な自由ささえもカリスマ的に思わせる。
つばの大きな帽子はそんなセレブの象徴である。
大胆に、周りを気にせずに伸びたつば。
つばを広げたことによって邪魔になってないかな…とか思わない。つばが誰かに当たったとしても「あっ、すみません」とか小声で言わない。
堂々と歩いて「ごめんあそばせ」と振り返らずに言うのだろう。しびれますよね。
さて、まずは下準備。
3つの帽子をほどいて紐状にしていく。
全てほどけたら、霧吹きで湿らせて柔らかくする。
ひどくカーブしている部分は湿らせてから手でほぐしてアイロンをかけるとクセが取れた。
お世話になっているミシンの登場。
ひたすらミシンで、ダカダカ縫い進めていく。
ミシンを縫う時のオノマトペはカタカタよりダカダカが好きだ。そう聞こえるから。
糸は軽くて強いプラスチックの糸を使う。
元の帽子は綿の糸で縫われているが、円周が広がるにつれ、ゆるく縫ってしまうと重さで垂れてしまう。
軽くて強い糸ならば保ってくれるという目論見だ。
また、縫製は元の帽子に合わせて粗い目で縫っていく。粗い目で縫うことで帽子に柔らかさやしなりを与えているのだろう。
また、円周が大きくなるにつれて細かい目にしていけば強さを増して垂れにくくなると予想。
服飾は小さなひと縫いで風合いが変わってくるところがおもしろいのだ。
縫い始めること1時間。
5周ほど縫ったところで、なんかふちが反り上がってきた。思ってたイメージとさっそく違う。いいのに、反り上がらなくて。
おそらく、縫う糸や強さが変わったことで固くなり反ってしまったのだと思う。
でも、垂れてくるよりは良い。
のちに縫い進めていき、つばが重くなって垂れてきたときに、この反りといい感じに相殺されるだろう。
全てがいい感じになる、焦らない。
セレブになるのだから、これぐらいの余裕がなくっちゃいけない。
縫い進めて4時間。
宇宙が広がってきた。
麦わら帽子が巨大な銀河で、マスキングテープが回る惑星に見える。
そして、ついに縫うこと5時間半。
1つ目の帽子を縫い終えた!
帽子に魅惑のうねうねが発生した。
うねうねのおかげで、片目が見えないミステリアスさがある。
セレブ度は一気に上がって60%になった。
セレブになれて嬉しい。やったね。
これで外に出たら、日差しは肩まで防げそうだ。
さて、続けて2つ目の帽子を縫っていく。
1つ目で5時間半かかって、少しビビっていた私に無敵タイムがやってきた。
帽子が大きくなるにつれて、円周のカーブが緩やかになったことで、格段と縫いやすくなり、ミシンのスピードも上がってきたのだ。
もう縫うのが楽しくて仕方がない、ランナーズハイならぬソーイングハイだ。何メートルでも縫える。
縫い幅は約2ミリ。
麦色の紐の中に白い芯が2本ある。その芯の外側同士を重ねて縫い合わせていくのだ。
同じ幅で縫わないと、半径の長さに差が出てつばの重さが均一にならず、変形や垂れの原因になる。
2つ目は4時間半で縫えた。
まだ反りは残っている。
もしこのまま反ってしまったら、メキシコでマラカス振る人のカーニバル帽子になってしまう。セレブよいずこへ。
なんだか、どでかいトルティーヤに見えてきた。
反りのおかげで垂れ下がりは防げるが、
悪質なケバブ商人になってしまう。
諦めて垂れ下がらせると、
諦めて上に折り曲げてみても
残念なことにセレブ度は30%に下がってしまった。
もう、どでかい生地にしか見えない。
もしかして、回してみたら、
私、ピザを回してる!すごい!!
もしかして、この帽子ならあのピザ生地をヒョイっと投げる技ができるかもしれない。
あれは全人類、子供の頃からの夢だよね!
ちょっと練習したらできた。ピザ屋の面接に行くときに見せよう。
さらに気づいたけど、帽子のゴムをおでこに引っ掛ければ、背負える。
如来の背中から光っている円みたいだ。
帽子のつばを広げるだけで、使い道の幅も広がる。もっと広くすれば、もっと広がるはずだ。
いよいよラストスパート。3つ目の帽子も縫っていく。
10時間以上縫っていると、私は縫うために生まれてきたんだと使命すら感じてくる。
定規で測りながら、つばが42センチになったところで終了!
ついに完成した!
うねりはなくなり垂れ下がってもいるが、絶妙なバランスでミステリアスを醸し出している。
これはセレブだ!100%セレブ!!
反りもまだギリギリ残っている。結局最初の反りのおかげでここまで保てた。
気づいたのだが、顔が見えない方がセレブっぽい。先程セレブ度が30%まで下がったけど、私のかぶり方の問題だったんだな。ごめんあそばせ。
最後の仕上げとして、できるだけ垂れないように補強していこう。
元々綿の糸で縫われていた内側の部分が柔らかいので重さに耐えられないのだ。
残りの紐で内側のかぶるカーブの部分を二重に縫い、強度を持たせる。
さらに、熱を加えて整える。
霧吹きの後にアイロンをかけてパリッと感を出す。
気持ち強度が高まった気がする。ほんの気持ち。
春の日差しが心地よいお昼。
太陽の位置が高い時間を狙って外に出てきた。
実際に外でかぶってセレブになりたいと思います。
日差しが強いけど、私にはサマンサ帽がある。
全身の日差しを防げるかと期待したが、右の手首あたりに光が当たっている。太ももから下は日陰に入れなかった。
この日は風が強くて、補強が役に立たなかった。そういう時もある。
風が吹くと垂れてしまうが、これはこれでこういうオシャレである。
なんか見たことあるなと思ったら、昔みんなのうたでやっていた「北風小僧のかんたろう」だ。
でも全然セレブである。
座ってみたら全身を日陰に収めることができた。
周りは見えないが中は風通しが良くて意外と快適。
撮影してくれた人に何回も妖怪みたいと言われた。
いやいや、セレブです。
他にもこんな使い方がある。
レジャーシートを忘れたら座れる。
太陽の下で寝る時も眩しくない。
サマンサ帽があれば、寝顔が見えない・息がしやすい・大部分が日陰になり快適だ。
サマンサ帽を作って、憧れのセレブになることができた。
最初は少しでも使えるように作れたらいいと思っていたし、実用性を探した。
だが、出来上がったサマンサ帽は重たいし、小さくたためないし、全身が日陰にもならない。人によってはただ大きいだけのお荷物だ。
しかし、そこにセレブのかっこよさがあると思う。
無駄に大きなファー、何も入らない小さなカバン、セレブは実用的かどうかなど関係ない。
そんなことはどうでもいいのだ。
ただクールに見えるかどうか、それがセレブマインドだと気づいた。
便利で効率的なものばかり必要としてちまちま生活していたけど、どーんと大きなサマンサ帽は無駄をも受け入れるゆとりと余裕をくれる。セレブでなくてもそうやって暮らしたい。
作ってからネットで調べてみたら、同じようなつばの大きな麦わら帽子が存在していた。
しかも結構安くてショックだった。でもサイズは大きくても直径90センチ。
つばの耐久の限界がそのぐらいのサイズなのだろう。
私の作った帽子は直径100センチ。
たぶん一番大きな麦わら帽子だ。
もし、このサマンサ帽を使ってくれる方がおりましたら、差し上げますので編集部へご連絡ください。楽しく使ってもらえたらと思います。
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