特集 2019年9月27日

イタリアはトリコローレ(国旗柄)を愛しすぎている

イタリア人はイタリアが大好きだと思います。

それを象徴するひとつが、イタリアの国旗にも使われている赤・白・緑の組み合わせ(トリコローレ)の登場頻度。これがミラノを歩いてみても、「そんなところにまで!?」と言いたくなるほどよく見るのです。

※この記事は、 世界のカルチャーショックを集めたサイト「海外ZINE」の特集「カラー(色)」の記事をデイリーポータルZ向けにリライトしたものです。

海外ZINEは、世界各地のカルチャーショックを現地在住ライターが紹介する読み物サイトです。 / イタリア・ミラノ在住、フリーライター。イタリア関連情報や海外旅行、ライフスタイルなどの分野を中心に活動中。旅行先の市場でヘンな食べ物を探すのが好き。

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イタリアを象徴するのは、やっぱりあの色

「イタリアを象徴する色ってなに?」と聞くと、大抵の人の頭に浮かぶのはアレじゃないでしょうか。

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答えを待つまでもなく、コレですね。

そう、イタリア国旗にも使われている赤・白・緑の3色です。イタリアではトリコローレと呼ばれ、さまざまな場面で見かけることができます。いくつか例をお見せしましょう。

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手前のオリジナルカラー(銀色)と比べると、強烈な存在感を放っています。

トリコローレを探しに街に出て、最初に見つけたのがトップでも紹介しているこのマキネッタ。エスプレッソを淹れるためのコーヒーメーカーで、イタリアの家には欠かせない存在です。1杯用、2〜3杯用などサイズが分かれていて、一家に必ず複数台あります。

あえて日本で例えると、日の丸が大きくデザインされた急須みたいなものでしょうか。さすがにこれを自宅で使っている人は見たことがありませんが、商品として作ろうと思った企業の発想に驚くばかり。ちゃんとマーケティングしたのか気になりますが、そういう理屈抜きで作っちゃったのかもしれません。

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なんの商品かわかりますか?

次はこちら。スーパーで見つけました。イタリア語が読める人はすぐわかると思いますが、実は砂糖です。砂糖にトリコローレ、全く関係ないですよね。

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赤のインパクトが強くて水に見えない……。

水のボトルもトリコローレでした。水のパッケージに赤色ってあまり見かけないので、強烈な違和感を放っています。

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マルゲリータはイタリアでもピッツァの代表格。

日本でおなじみのマルゲリータもトリコローレの代表格です。トマトの赤、モッツァレッラの白、バジルの緑で3色。もともとは、イタリア王国時代のマルゲリータ妃をもてなすために、国旗を模したピッツァを考案したのが始まりとされています。

2020年に開催される東京オリンピックのイタリア代表チームのユニフォームにも、トリコローレが使用されています。

 

なんとなく、金太郎をイメージするのは私だけでしょうか。

デザインはイタリアを代表するブランド、アルマーニによるもの。代表チームのユニフォームなのでデザインに国旗を取り入れるのも分かりますが、あまりの大胆な使い方に度肝を抜かれます。

Twitterのコメントを見る限りあまり評判はよくない様子。まあそうですよね。とりあえずここでは、イタリア人がトリコローレに愛着を持っていることだけご理解いただければOKです

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トリコローレが街にあふれる理由は「イタリアが好き」だから?

いくらイタリアっぽい色とはいえ、砂糖や水のパッケージにまでトリコローレが使われるのは過剰な気がしませんか。だって、日本で水のペットボトルに日の丸を見かけたら、別の意図を感じてしまいそうです。

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紹介しきれませんでしたが、トリコローレを取り入れたデザインは本当によく見かけます。

料理に関して言えば、トマトとモッツァレッラとバジルはどう組み合わせても相性がいいというのが理由のひとつ。先に紹介したマルゲリータだけでなく、カプレーゼやパスタなど、この3つの食材を使った料理は無数にあります。

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カプレーゼは暑くて食欲がなくても無限に食べられます。ちょっといいオリーブオイルとモッツァレッラを使うのがおすすめ。/©Rainer Zenz

料理以外のものにトリコローレを使う理由。それはやっぱり「イタリア人はイタリアのことが大好きだから」というのが理由だと思います。

手前味噌……と言っていいのか分かりませんが、なんだかんだ言ってイタリアはいい国だと思います。気候が温暖で過ごしやすく、1年を通して天気がいい。食事は何を食べてもだいたい美味しいし、中世の建物が残る街並みはきれいです。国の経済はちょっと不安ですが、そのぶんゆるさがあってストレスの少ない生活を送ることができます(「職を得るためタダ働き? イタリアの就職難とゆるさを貫くメンタリティ」(海外ZINE))。

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バカンスを存分に楽しめるのが、イタリアのいいところだなと感じるのです。

イタリア人はこんなイタリアが大好きです。自分の国に愛着を持つのは世界中どこでも共通していますが、自己肯定感が強いイタリア人は特にその傾向が強く、「イタリアが好きだ」という感情を隠さないように感じます

こうした背景もあり、イタリア人にとって国の象徴であるトリコローレは好ましい色に映ります。そのため、特に商品のパッケージデザインやプロダクトのカラーバリエーションに取り入れやすい。結果として、イタリアではトリコローレをよく見かけることになるのです。

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ナショナルカラーはイタリア統一のシンボル

イタリアっぽさを表現する色として生活のさまざまな場所で登場するトリコローレ。しかし実を言うと、イタリアにはこのトリコローレよりもさらに長い歴史を持ったナショナルカラーがあります。それが「アズーロ」と呼ばれる色です。

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サッカーのイタリア代表チームは複数形で「アズーリ」と呼ばれます。/©Football.ua

サッカーファンにとっては馴染み深いこの色。実はサッカーに限らず、バレーボールやバスケットボールなどさまざまなスポーツのユニフォームで使われています。少しグレーがかった深みのあるブルーで、宝石のラピスラズリと語源が同じというとイメージしやすいかもしれません。

もともとこのアズーロは、北イタリアのピエモンテ(トリノ周辺)を治めていたサヴォイア家のシンボルカラーとして使われていました。サヴォイア家はもともと辺境貴族でしたが、1713年のスペイン継承戦争でシチリア王国の王位を獲得、また1720年にはシチリア島を放棄する代わりにサルデーニャ王国の王位を獲得するなど、ヨーロッパでも有数の貴族として成長していきます。

19世紀に起こったイタリア統一運動では中心的な働きをし、統一後はイタリア王国の王家となりました。統一後のイタリア王国国旗には、サヴォイア家の紋章である十字の周りにシンボルカラーのアズーロがあしらわれています。

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1861〜1946年まで使用されていたイタリア王国の国旗。

当時の人々にとって、イタリア統一は悲願でした。イタリアは中世以降ずっといくつかの小国に分裂しており、フランスやオーストリアといった周辺強国の支配や介入を受け続けます。イタリア統一はこうした国々と肩を並べ、国を自分たちで治めていくうえでも必要なことでした。つまり、イタリア統一は封建制度からの脱出だけでなく、イタリアの主権を取り戻す戦いでもあったのです。

その戦いの中で中心的な役割を果たしたサヴォイア家は、イタリア人にとっては統一のシンボルとも言えるもの。サヴォイア家のシンボルカラーは特にサヴォイア・ブルーと呼ばれ、愛着を持って受け取られています。他国と競い合うスポーツの代表チームにとっては、まさにうってつけの色といえるでしょう。

現在は王政の廃止によりサヴォイア・ブルーは国旗から姿を消しましたが、サヴォイア家ゆかりの地であるトリノ市の紋章に使われるなど、今もその名残を見ることができます。

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トリノにあるサヴォイア家の王宮。門柱にはサヴォイア・ブルーに彩られた紋章が飾られています。

日本人にとっては国旗にもあるトリコローレのほうがイタリアらしさを感じますが、イタリアではナショナルカラーと言うと、このサヴォイア・ブルーが一般的です。それは自分たちの主権を守るために戦い、イタリアという国を築いてきた歴史があるからこそなのかもしれません。

 

そもそも赤と緑ってアク強いよね

緑、白、赤の3色ってどう見てもアクが強い組み合わせなのに、イタリアでは(特にスーパーやレストランで)頻繁に見かけるのでびっくりします。外国人である自分にとっては違和感ありありだけど、イタリア人にとってはすんなりと受け入れられる色なのかも。

ちなみに先日レストランで食べたパスタもトリコローレでした。パスタの白と、ペーストの緑と、そして赤は馬肉のジャーキーです。「そこにジャーキー乗せる必要ある?」と思いましたが、味は美味しかったです。

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イタリアのレストランはトリコローレの演出しがち
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