お弁当はスイカでもいい
先日図書館で仕事をしていたら、タッパーにスイカを入れて持ってきている人を見かけました。お昼時だったし、お皿の上に置いてフォークとナイフで食べていたので、あれも「お弁当」の一形態ってことでいいんでしょう。
なんとなくバランスよくたくさんの品目を食べなきゃいけない気がする毎日の食事。でも、こんなに忙しいんだし、何か適当にお腹に入れときゃいいよね。イタリア人のお弁当を見ていると、そんな気持ちになってほっこりするのでいいと思います。

牛の骨髄をトロトロに煮込んだ「オッソブーコ」とか、子羊をオーブンでカリカリに焼いた「アバッキオ」とか。とかく美味しいものが多いイタリア料理。
だけど毎日のランチである「お弁当」となると急にトーンダウンする傾向があり……そのギャップってどこから生まれるんだろう。ちょっと考えてみました。
※この記事は、 世界のカルチャーショックを集めたサイト「海外ZINE」の記事をデイリーポータルZ向けにリライトしたものです。
イタリア人と食事をしていると「やけにうるさいなあ」と感じることがよくあります。
例えばピッツァを注文するにしても「玉ねぎは抜いて、あとケッパーとツナを多めにして」とか。水を注文するときも「炭酸水」でも「炭酸なし」でもなくて、わざわざメニューにない「微炭酸」を注文するとかは日常茶飯事。
あとは「魚とチーズは一緒に食べない」とか「パーム油の入った食品は食べない」なんてマイルールがある人も少なくありません。
しかもそういうこだわりに対して、カメリエーレ(給仕人)はいちいち対応しているのもすごい。それだけ、食に対するこだわりが強いんだと思います。
ところがこのこだわり、会社に持っていく「お弁当」となるとその威勢は急にトーンダウン。「え、それランチなの?」と思ってしまう、ざっくりしたお弁当をよく見かけます。
というわけで、以前の職場で撮らせてもらった同僚たちの弁当をお見せしましょう。
まずはイタリアらしい組み合わせのこのお弁当。生ハムとモッツァレッラチーズ、それから右下のパックの中身はフルーツポンチです。写真には写っていませんが、これに小さなパンをひとつ加えて1人分。
イタリアのスーパーには生ハムをカットして販売してくれるコーナーがあり、「100g」とか、「5枚くらい」とか、自分の好きな量を指定して包んでもらうことができます。なので、生ハムはビニールのパックもしくはこの写真のように紙にくるまれている状態が標準。モッツァレッラは水気があるので、袋から出してタッパーに入れて持ってきていました。
見て分かる通り、スーパーで買ってきたまま……ですね。「優雅なイタリア人のランチ」とのギャップに戸惑っているのはきっと私だけではないはず。他の人のお弁当も見てみましょう。
こちらはお店側の手心すら加えられていない、さきほど以上にシンプルなお弁当。
左上の袋に入っているのはグリッシーニと呼ばれる堅パンで、クラッカーのようなものと考えるとイメージしやすいでしょう。塩気も甘みもないので、味はただただ小麦粉です。タッパーがないぶん、さきほどのお弁当よりもさらにスーパーで買い物してきた感が増しています。
こちらは「昨日の晩ごはん」系のお弁当で、かぼちゃとズッキーニのグリルです。
なにかメイン料理の付け合わせだったのか、これがメインだったのかは聞き忘れてしまましたが、持ってきていたのは本当にこの写真のタッパーだけ。そんな少しで足りるのか心配になりましたが、そもそも普段からそんなに食べないのだとか。
えー、ここまでくると「お弁当」の体を成してないと思う人もいるかもしれませんが……もう一つだけ紹介していいでしょうか。
ここまでくるとお弁当感ゼロになってきましたが……こちらは豆のスープです。
イタリアでは硬い乾燥豆を1時間以上も煮込むので、サラサラではなくドロドロのスープになります。こちらもいわゆる「昨日の晩ごはん」系のお弁当で、同僚はこのスープだけをタッパーに入れて持ってきていました。
さて、イタリア人のお弁当、いかがでしょうか。きっと、「美味しそう!」よりは「そんなざっくりしてるの?」と拍子抜けした人のほうが多いはず。
イタリア人全員の弁当を見た訳でもないので偏りがあることは否めませんが、それでも手軽さ……というか、手をかけない感じはだいたいみんな似たようなもの。このように、イタリアでは、色とりどりのおかずが詰め込まれた日本のようなお弁当に出会うことはほとんどありません。
これが好みかどうかは人それぞれだと思いますが、お弁当のために早起きする必要もなく、好きなものを食べていればいいという発想はとても気楽なもの。とくに普段から弁当をつくる人であれば、真似をしたいと思うのではないでしょうか。
ここまで読んで、ずいぶんイメージが違うなと感じた人もいるかもしれません。先にも紹介したとおり、イタリア人は食にとてもこだわりがあるはず。でも、ランチにはそれほど手をかけない、それってなぜなんでしょうか。
■イタリアには弁当文化がない
実は小さな弁当箱にご飯と何種類かのおかずがコンパクトに詰められた「お弁当」は、日本ならではのもの。その弁当文化がイタリアにはないため、料理そのものに手をかけることはあっても、「外へ持ち運ぶランチ」に手をかけるという意識自体があまりありません。
そのため、会社に持ってくるランチも「家にあるもの」もしくは「昨日の残り」をそのまま持ってくることが多いのです。
イタリア人はピクニックが好きなので、ランチを持って公園や野山に出かけることもあります。ただ、その場合もパニーノ(サンドイッチ)や、大きなタッパーに人数分のパスタを入れたものが一般的。ちなみに、パスタの場合は人数分のお皿とフォークを持参し、その場で取り分けます。
■手軽な外食が少ない
イタリアには手軽に外食できる場所が少ないというのも理由のひとつ。日本はあまりお金をかけなくてもそれなりのクオリティの食事が楽しめ、さらに選択肢も多いですが、イタリアではランチでも外食なら10ユーロ(1300円)くらいからが相場。
手軽に済ませようと思うとバールでパニーノを注文するくらいしかなく、「だったらスーパーで買ったものや晩ごはんの残りで済ませるよ」ということなのです。
ただでさえイタリアは近年、慢性的な不景気に見舞われていることもあり、国民は全体的に節約ムード。できれば優雅にレストランに行ってゆったりとランチを楽しみたいけど、毎日そうはできない事情もあるのです。
ランチタイムだって、できれば優雅に、しっかりと栄養のある食事を摂りたい。でもお金はかけたくない。そんなジレンマを映すかのように、実は最近は、イタリアでも少しづつ弁当文化が広まりつつあります。
食へのこだわりが強いイタリア人にとって、主菜や副菜がバランスよく詰められたお弁当は、まるでフルコースの料理がひとつの箱に入っているように映るのだとか。家で作れば安全な食べ物かどうかを気にする必要もないし、自分の好きなものを食べられる。そんなふうに考える、食に対する意識の高い層を中心に人気を集めています。
これまで、イタリアでは日本食というと寿司、天ぷら、ラーメンくらいしか知られていませんでしたが、最近はそこに「弁当」が追加。日本式の弁当を販売するお店が登場したり、お弁当作りの教室が開かれたりと、日本食の1ジャンルとしての地位を確立しつつあります。ちなみにイタリアで弁当はそのまま「BENTO」で通用します。
また、最近ではこうした流行を受けてなのか、日本のように仕切りのついた弁当箱を売っているお店もよく見かけるようになりました。イタリアでランチを持ち運ぶ容器というともともとはタッパーが主流。日本人にとっては見慣れたなんでもない弁当箱も、イタリアではかなり珍しい存在だったりします。
こんな感じで少しづつ浸透しつつある弁当文化。作るのは少し手間がかかりますが、節約しながらでもしっかりと栄養のある食事を摂りたいというイタリア人のニーズには合致しているのは確か。そう考えると、いずれイタリアで独自の弁当文化が誕生することがあるかもしれません。
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