ビデオチャットでは一本締めができない
大規模な飲み会には欠かせない、一本締めや、三本締め。これをビデオチャットでやろうとすると、めちゃくちゃになってしまうことをご存じだろうか。
実際にやってみたところを動画で見てほしい。
通信ラグのせいで、一本締めはタイミングがバラバラになり、まったく締まらない空気になってしまった。
三本締めにいたっては合わせるべきリズムが完全に行方不明になってしまい、「ヨッ」の合いの手も勘で入れるしかない状況であった。
なぜこんなことになってしまうのだろう…!?
それは一本締めも三本締めも、リズムを使った行為だからである。
時間の束縛を解き放て
音楽の三大要素は、リズム、メロディ、ハーモニーであるとよく言われる。
リズムは時間の流れのうえに成り立っているので、ビデオチャットのような通信ラグのある状況では合わせられないのだ。
同じように、メロディも時間軸上にあり、オンライン飲み会向きではない。
そうなると必然的に、「これからの飲み会はハーモニーで締めるしかない」という結論が見えてくると思う。
そこで考案したのが、手を叩く代わりにハーモニーを作る一本締め、「一本ハーモニー」である。
実験
とはいえ消去法で導き出した結論である。実際のところどのくらい実用的なのか、この記事では検証していきたい。
デイリーポータルZのライターと編集部から、6人に集まってもらった。
特に音楽の素養がある人を選んだわけではなく、たまたま企画会議のあとに時間が空いていた6人だ。もしかしたらいきなりハーモニーといってもハードルが高いかもと思い、まずは和音にせず単音で試してみることにした。
検証1 単音
全員にキーボードの「ド」の音を聴いてもらい、「お声を拝借 よーぉ、」につづいて発声した。
なかなか良いのではないだろうか。みんなの声を一つに重ねたことにより、一体感が出た。新年度もこの仲間たちとがんばっていくぞ!という気持ちになるだろう。
しかし、単音を狙ったにもかかわらず、中盤からちょっとハーモニーが生まれてしまっている気がする。誰かの音程がずれているわけだが、ネガティブにとらえないでほしい。大切な仲間たちとの絆=ハーモニーが、少し漏れ出てしまったのかもしれない。
検証2 2和音
つぎにパートを2つに分けて、「ド」「ソ」の2パートでやってみることにした。
はじめのピッチが不安定で、一瞬雲行きが怪しい。しかしお互いの声を聴きあうことですぐに軌道修正され、いいハーモニーに落ち着いたと思う。チームワークが生まれたのだ。
もしかして一本ハーモニーは、飲み会を締めるだけでなく、共同作業の訓練にもなっているのかもしれない!
なおこのあたりで参加者より「締まった感じがしない」という感想が聞こえたが、無視して進める。
検証3 メジャーコード
さあ、いよいよ3和音だ。いわゆる「コード」と呼ばれるものである。
数あるコードの中でも今回はわかりやすい、Cメジャーを採用した。「ド」「ミ」「ソ」で構成された明るい響きのコードである。
むむむ……ちょっと難易度が上がってきたかも。なんとなく和音っぽくはなっているが、いわゆるCメジャーとはちょっと響きが違う気がする……。
しかし、逆に考えれば、それこそが一本ハーモニーの魅力ともいえる。Cメジャーの響きがいつも同じじゃないといけないなどと、誰が決めたのだろうか。型にはまったCメジャーではなく、100のオンライン飲み会があれば100通りのCメジャーコードの響きがあってもいいじゃないか。そして、それらすべての響きがオンリーワンなのである。
君(御社)も、一本ハーモニーで君(御社)だけのCメジャーを見つけてみないか?
検証4 マイナーコード
コードにはいろんな種類がある。ここでは明るい響きのメジャーコードにかわって、悲しげなマイナーコードを導入してみたい。
例えば目標未達になってしまった年の忘年会や、失敗したプロジェクトの打ち上げなど、状況によっては明るい締めはかえって白々しく思える。そんな時はこのCマイナーである。
マイナーコードを通り越して完全に不協和音になってしまった!
各メンバー、ハモりを探って微妙にピッチを上下させているのが切ない。音響的にはマイナーコードではないが、そのいじらしさはしっかりと、悲しげなマイナーコードだ。
コードには他にも、ちょっとおしゃれなセブンスをはじめ、ディミニッシュとかオーギュメントとかいろいろある。女子会ではセブンスにするとか、飲み会の趣旨や状況に合わせて使い分けると楽しいだろう。
一本ハーモニーの奥の深さと汎用性の高さ、おわかりいただけただろうか?
検証5 応用編:コード進行
ここまでで、一本ハーモニーの基本形は試し終えた。最後に応用編をひとつ試してみたい。
音楽においてコードが単体で使われることは少なく、多くの場合、いくつかのコードをつなげることで展開が作られる。これは「コード進行」と呼ばれる。
一本ハーモニーにおいても、コードが出てきたのであれば、それは当然進行すべきなのでは?
やってみた。
ダメだ、これはダメだ……。
元はと言えば、時間軸から解放されるためにリズムを捨て、ハーモニーの世界にやってきたのだ。コードを進行させることによって切り替えのタイミングが生まれてしまい、またも時間の奴隷に逆戻りしてしまった。
一本ハーモニーはコードを進行させず、一つのコードでやるべきである。
一本ハーモニーのTips
さて、そろそろ読者のみなさんも「次の飲み会で一本ハーモニーを取り入れようかな」と思い始めていることと思う。
ここで、一本ハーモニーを実際にやる際のアドバイスをまとめておこう。
・出す声を決めておくとよい
「アー」でも「ナー」でも何でもよいのだが、発声する声をあらかじめ決めておくと混乱がなくて良い。
ただし、「ラー」は音程のラと紛らわしいので避けた方がよい。
・音取りは各自で
上に載せた動画では、筆者が電子キーボードを弾いて、参加者はZoom経由でそれを聴いて声を出した。
ただ、そうすると楽器の音がZoomに入らなくて難儀する。Zoomには人の声以外を削除するノイズ除去機能がついているためだ。
実際やるときは各自が手元で音を取るとよい。スマホアプリの鍵盤や、バーチャルピアノという便利なサービスもあったので使用するとよいだろう。
・発声しなおす
これもノイズ除去機能のせいなのだが、持続音を長く出していると徐々に小さくされて声が消えてしまう。
「アー、アー、アー」という感じで少しずつ区切ってハーモニーを維持するようにするとよい。
以上に注意することで、初心者の方にも快適に一本ハーモニーを楽しんでいただけると思う。
一本ハーモニー精鋭版
さて、先ほどは音楽経験にこだわらずメンバーを集めて実験した。
いっぽう熟練者は熟練者で、また違った一本ハーモニーを楽しめると思う。
別の日、音楽経験者だけを集めて、再度検証を行った。
このメンバーで、まずはCメジャーとCマイナーをやった様子をつづけて見てみよう。
先ほど触れたノイズ除去の影響もあって、完全にきれいなハーモニーができたかと言われるとなかなか難しいのだが、少なくともメジャーコードとマイナーコードの響きの違いはよく表現されているように思う。
ただの飲み会の締めなのに、これだけ饒舌な、音楽的感情表現が生まれるとは。一本ハーモニーの可能性を感じた。
そしてこれもリベンジとして試しておきたい。コード進行だ。
なんかちょっとそろった気がする!
実はこのコード進行のビデオは2回目で、1回目はもっとタイミングがバラバラだった。3回4回と繰り返せばもっと素晴らしいハーモニーが生まれるはずで、そうやって協力して作品を磨き上げていく過程は、チームの結束を高めるのに最適である。
飲み会を締めるだけでなくメンバーの結束を固める一本ハーモニー。まさにウィズコロナ時代の新しいスタンダードと言えるだろう。
もしかして新たなハラスメントではないか
そういうわけで、オンライン飲み会の締めに一本ハーモニーが非常に有用であることが検証された。
しかし一点だけ、気になることがある。実験の終了後、参加者に感想を聞いたところ「異常な緊張感があった」「一本締めとちがって、(正しい音程の)正解と不正解があるのがやばい」という意見が出たことだ。
先日、会社でITが得意な人が不得意な人に強く当たることを「テクハラ」と呼ぶのだという記事を読んだ。
もしかしたら、一本ハーモニーを職場の飲み会でやると、音楽慣れしている人が慣れていない人に対して音楽行為を強要している「ミューハラ」になってしまうのではないだろうか。
職場のハラスメントに詳しい弁護士の方の見解を求む。