無線綴じは職人の優しさでできている
一般的な文庫本とか、分厚めの漫画雑誌(ジャンプとかあのへん)が無線綴じの代表的なところ。良く目にする本で背表紙があるやつは、わりと無線綴じで作られている可能性が高い。
無線綴じを担当しているのは、西川さん。で、無線綴じの機械がこれだ。
本文のページを順番通り揃えてまとめて機械に通すと、まず背の部分をカッターで削ります。で、そこに糊を染み込ませて糊付け。あとは別送りされる表紙でくるむように糊付けして、出てきます。
ホットボンドみたいな熱で溶けてる糊なので、冷えるとすぐに固まるんです。ただ、糊の温度や機械のスピードによっては、糊が伸びて糸を引いちゃうんです。糊が伸びるようだとまず速度を落とすんですが、それだと仕事が進まないので、ちょうどいいように細かく調整します。糊の温度も夏場は低めにするとか。糊はじゃじゃ馬ですね。
紙を機械にひとつずつセットするの、手作業だ!1日どれぐらいの数が製本できるんですか?
1日で1000冊ぐらいですかね。印刷物によっては何千冊という注文もあるので、2日3日がかりの場合もありえるんですけど…日にちをまたぐのはしたくないんです。
いま糊がじゃじゃ馬って言いましたけど、この機械自体もけっこうなじゃじゃ馬で。あんまり安定しないというか、上手く動いてるからって放置しておくと、急に糊が糸を引き出したり。天候や湿度も影響するので、こまめな微調整が必要なんです。なので、一発で終わらせずに日をまたぐと品質が揃わないこともあるんです。
中綴じのところでも「湿度や静電気が困る」という話が出たが、無線綴じも同様にいろいろと大変っぽい。
紙だけじゃなくて糊にまで気を配ってやらないといけないので、なおさらだ。
無線綴じの印刷物って、中綴じほど町中で見かける機会は少ないんですが、見つけたらやっぱり糊の具合とか見ちゃいますね。あとは背文字の位置とか。
背表紙に入る文字とかですね。これが背の中心に入ってないとすごく気持ち悪い。
もういっそ背文字を入れてくれるな、とか思うときもありますよね?
正直、たまにありますね(笑)。機械の機嫌が悪いと表紙側に文字がズレて回り込んで来ちゃったり。これも紙が乾いたり湿気で曲がったりすると設定が変わって来ちゃうので、本当に日はまたげませんね。あとは、背文字が背幅より大きいなんてこともあります。普通にしても、表紙や裏表紙側にはみ出しちゃう。
それは単なるデザイン上のミスですよ。それはどうしようもないですね。
そういうときは背の糊をたっぷりめに盛って、背表紙を丸めてやることもありますよ。
あっ!背表紙を平らじゃなくてアーチ状にすることで背の幅を稼ぐんだ!
そこに気付くかどうかなんですけど、「糊を盛ってやれば上手くいくんだけどなー」と思ったら、もうそういうふうにやっちゃう。糊多めにして丸めてあげようかな、と。ささやかな気遣いですけど。
そこまで考えるんですね…めちゃくちゃクリエイティブじゃないですか!
一時期はカドのシャキッとしたのが好きだったんですが、他社さんの仕事で背中をうまく丸めたのを見て「あ、優しい感じになっていいな」と思って。雰囲気が変わるんですね。格好良くしてあげたいときはカドカドでシャキッと作るんですが、年配の方が手にする会報なんかは優しい雰囲気になるように丸めたり。
正直、背表紙を平らにするか丸めるかなんて、最初の発注段階の仕様で決めるもんだと思っていた。まさか現場判断でやってしまうこともあるなんて、驚きである。
しかもその判断基準が「優しさ」と「気遣い」とは!
ネット注文の大量印刷なんて、流れ作業でガーッとやっちゃうもんだろう、と勝手に考えていたんだけど…そこまで一つ一つ考えてやってくれているなんて、完全に想像外。はー、すごいなー。
…と、綴じ部門を回っただけで結構な量になってしまった。まだこれから次の折り部門もあるのに。
仕方ないので、折りを見てきた話は稿を改めて、別記事でご紹介したい。
それにしても、最初は「職人だから話を聞き出すの難しいかも」なんて言われていたのに、いざ仕事の話となると、皆さん本当に熱い勢いで語ってくれたのは印象的だった。
で、その話してくれた内容も、お客さんが喜んでくれるクオリティに仕上げるにはどうするべきか、というものばかり。これが職人ってやつかー、としみじみ感じ入った次第である。