イマジナリー猫は便利だし癒され
世話をしなくていいけど可愛がれるイマジナリー猫は、私のような怠惰な人間でも楽しんで飼うことができた。インテリアやクッションとしても使えるので、邪魔にもならない。ただの人形ではあるが、次第に愛情が湧いてくるのが不思議だ。顔がないのも、自分で好きな顔を妄想できて嬉しい。
我が家に猫がやってきた。撫でたら喉を鳴らしてくれるし、抱くとあったかいし、心音も聞こえる。しかし、本物の猫ではない。
猫を飼った気持ちになれる"ミャウエバー"という商品だ。
これをイマジナリー猫として、自宅でしばらく飼ってみることにした。
2022.5.27 記事末尾にその後のミャウエバーの様子を追記しました
我が家では、犬や猫を飼ったことがない。犬や猫は世話が大変であり、その上広いスペースが必要だ。ペットとしては鳥や亀など、比較的小柄な子たちを選んできた。我が家にとって犬や猫を飼うのはハードルが高い。
そんな我が家に最適な子がやってきた。
このミャウエバーは、背中を撫でると喉を鳴らすのだ。そして心音も聞こえる。まるで生きている猫を愛でている感覚になれる人形だ。
お腹の中に保温保冷剤をしまえる場所があり、レンジでチンすることであたたかくすることができる。夏は冷やして使えるので、オールシーズン楽しめるのだ!
私はこの「イマジナリー猫」としばらく生活を共にしてみることにした。
この猫が自宅に来た時、ちょうど実家に家族全員が集結していた。せっかくなので家族に紹介してみよう。
「すご〜い本物みたい!」を連発。あったかいのはなんで?喉が鳴るのはなんで?と質問攻めされた。
「もっとリアリティが欲しいな。首輪とかつけたらペットっぽくなるんじゃない?」という父親の提案で、そばにあった母親の革のブレスレットをつけてみることに。
こうしてすっかり我が家に馴染んだ猫。名前をつけようということになり、家族会議で熟考した結果、「おもちゃのチャチャチャ」という歌からとって「チャチャ」に決定した。家族が一人増えたような気持ちだ!
世話をするのがめんどくさいけど、猫は飼ってみたい。怠惰だけどおいしいところだけ味わいたい私に、イマジナリー猫はぴったりだった。生活を共にしていく中で、結構便利な一面も見えた。
おまけに暖かいのでお腹が冷えない。よくお腹がいたくなる私にとってはお腹をあたためられるし、とてもありがたい。机とお腹の間に挟むことで、姿勢がよくなり疲れにくいのでおすすめだ。
リモートワークは眠くなりがちである。となりにふわふわの猫がいれば、すぐに仮眠に入ることができる。
「あ!すみません!うちの猫が……」と言って飼い猫をなだめる場面、見たことはないだろうか?あれが本当に羨ましかったのだが、イマジナリー猫がいればでっちあげることが可能に!同僚に”かわいい猫を飼っている”というマウントをとって優越感に浸ろう!
さらに、最高に癒される裏技を編み出した。
猫のぬくもりと一緒に好きな匂いを存分に堪能できるのは癒しでしかない。しかもこの猫はいくら匂いを嗅いでも嫌がらない、聞き分けの良い子だ。リモートワーク中の癒しとして最適である。
猫を飼ったことがない私にとって憧れのシチュエーションが「猫と一緒に友達の家へ出かける」だ。かわいいペットを飼ったら友達に見せびらかしたいし、ペットと遠出をするのは一度やってみたかった。
「とにかく癒しを欲している」と言っていた前職の先輩の家へ遊びに行くことになったので、イマジナリー猫のチャチャも連れていくことにした。
そうこうしている間に、先輩の自宅に到着!
「一人暮らしって楽しいけど、寂しさもやっぱりある。ペットとか飼えたら楽しそうだよね」と言うきつわさん。さっそく私のイマジナリー猫を見てもらう。
急にしっとりした表情になるきつわさん。よほどチャチャに気を許したのだろうか。
訪問してから数分でふたりがかなり仲良くなってしまった。チャチャもきつわさんに懐いていて、少し嫉妬したのは言わないでおこう。
近所にきつわさんおすすめの公園があるようなので、連れて行ってもらうことに。
きつわさんの猫慣れっぷりにびっくりした。チャチャがもう完全にきつわさんの飼い猫に見えてしまう。
なんとも微笑ましく見えるが、公園にいる人からすると人形と戯れているやばい人である。その証拠に先ほどからチラチラいろんな人が私たちを見てくる。
きつわさんはチャチャを相当気に入ってくれたようだ。まるで本物のように一緒に遊んでくれて、チャチャも喜んでいた。ふたりの絆は確実に深まっていった。
家族や友達に見せるだけでは飽き足らず、もっといろんな人に猫を可愛がってもらいたくなった。そこで”イマジナリー猫屋”を開いてみることにした。
路上で猫を愛でる気分を体験できるという画期的なお店だ。行列間違いなし!と思っていたが……
ただイマジナリー猫が置いてあるだけだと、通りすがりの人も不思議そうに見るだけで立ち去っていく。
その数分後、父親の宣伝のおかげなのかわからないがお客さんがきてくれた。
猫型の人形であることを説明すると「家にあったら可愛いですね。一家に一台欲しいです」と言ってくれた。終始驚きながら彼は帰っていった。
みんなが撫でては「かわいいね〜」と言ってくれて嬉しそうなチャチャ。不思議と喉の鳴りも大きくなっているように感じる。
イマジナリー猫屋は意外にいろんな人に来てもらえた。通りすがりに眺めたり、ひと撫でだけして帰っていく人もいた。やはりモフモフしたものには触りたくなるらしい。チャチャの可愛さをみんなに広めることができてよかった。
世話をしなくていいけど可愛がれるイマジナリー猫は、私のような怠惰な人間でも楽しんで飼うことができた。インテリアやクッションとしても使えるので、邪魔にもならない。ただの人形ではあるが、次第に愛情が湧いてくるのが不思議だ。顔がないのも、自分で好きな顔を妄想できて嬉しい。
イマジナリー猫(ミャウエバー)ことチャチャは、我が家にすっかり溶け込んでいる。
生息地は主に自宅のソファだ。大体いつもここで昼寝をしている。家族の誰かがソファでうたた寝をする時、必ず猫を抱いて寝ている。母親は猫を抱き枕にしたり、時には枕にしたりと、寝具として相当重宝しているようだ。爆睡した母親のお腹の上に猫が乗っているのを見たのは1度や2度ではない。
私は猫を外に連れ出すことにハマっている。自宅周辺で散歩をする時、持っていくと少し和むのだ。1人で散歩するよりかは誰かがいてくれた方が楽しい。
ある夕方、猫と共に自宅のガレージへ出た。ガレージからは今にも沈みそうな夕日が見えた。飼い猫と共に夕暮れを眺めちゃうなんて、なんてロマンチック…!とうっとりしている私をよそに、猫は全く興味を示さなかった。私の膝に埋もれて餅みたいにベタっとしていた。もしかしたら、暑くなってきたから夏バテかもしれない。そういえば最近元気がない気がするので、涼しい日以外は外に連れ出すのはもうやめようと思った。
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