くさい、でもうまい
300年前から作られてきたくさやは、おそらく300年後には今よりもっと熟成されたものになっていることだろう。それを食べられる子孫たちが正直うらやましい。
くさやはくさい。でも食べてみると他に類を見ないくらいにうまい。周囲に迷惑にならないよう気を配りながら、多くの人にぜひ挑戦してもらいたいものです。
くさやは有名どころのデパ地下か、新島のくさやはインターネットでも購入することができるようですよ。レッツエンジョイ、くさや。
くさやの里で自分用と編集部へのおみやげ用にくさやを購入してきた。パックになっているので大丈夫だとは思うのだが、手荷物で飛行機に持ち込むのはちょっと気が引ける。気圧の変化とかでどうかなっちゃって機内が……なんてことにならないといいのだが。
もちろん問題なく持って帰ってこられた。
晴れた冬の日、編集部工藤さんを誘って近くの公園でくさやを焼くことにした。くさやはもちろん一番代表的な青ムロアジのくさやだ。パックの上から触ってもできたてでまだ半分柔らかいのがわかる。
ある文献によると、くさやのにおいは焼くと3倍くらいの勢いで強まるのだという。においの基準ってよくわからないが、普通においを何倍とかで比較したりしないので、すごいんだろうということだけはわかる。
くさやは火にかけるとしみ出した脂がブツブツと音を立てて焼けていく。それと同時ににおいも……
「いやいや、くさい、くさいっすね。」
くさや工場のあの目にしみるほどのにおいから比べたらまだまだへみたいなレベルだが、平和な公園にこのにおいはたいへんにやばい感じだ。
くさやの里の藤井さんが「マンションだったら絶対焼かない方がいいです」と言っていたのを思い出した。これまでにもくさやを焼いていたら「死体を焼いているにおいがする」と通報された、などの話があるらしいが理解できる。
じっとしていると服に染み込みそうだったので(工藤さんはこの後結構大切な取材を控えていた)、工藤さんににおいが消えるところまで遠ざかってもらった。
はるか彼方だ。いま、半径これだけの範囲でにおっているということか。あらためてその破壊力を思い知った。
焼いているすぐ近くでにおいを嗅ぐと、くさや臭の中にも魚の焼けるにおいが確かに感じられ、くさいけどうまそうなのだ。しかしこれがちょっと離れるとくさや臭しかしなくなる。そうすると逆に、少し食欲が落ち着く。
くさやを焼くときには弱火で背側7割、腹側3割くらいを目安に焼くとよいらしい。それにしても焼けば焼くほど、脂が出れば出るほどににおいが立ちこめてくる。
くさやはいい色に焼き上がった。ものすごくくさいのだが、その中にも脂が焦げたいいにおいが混ざっているのがかすかにわかる。そのかすかに掴んだいいにおいのしっぽを手放さないよう、一気にかぶりついてみた。
「うまーい!」
これがすごいうまいのだ。もんのすごくくさいけど、それを跳ね返すくらいのインパクトでうまい。普通に売られている干物よりもしょっぱくないので噛むほどに魚の味がしみ出てくる。そこにくさや液の独特の甘みというかうま味がプラスされて、それはもう、日本酒飲みたいっす。
通の人の嗜好はよくわからないのだが、これ、くさいからうまいってわけじゃないと思う。この味でくさくなかったら全国の干物はすべてくさやに取って代わられていたんじゃないか。なのにくさい、それだけで珍品あつかいされてしまっているのだ。
性格いいのに顔が悪いアイドル、ちがうな、性格良いのに体がくさいアイドル、いや、例えを間違えているか。まあとにかくそういうもったいない感じがするのだ。
においにつられて猫が寄ってきた。
頭と骨の部分をあげるととりつかれたように食べていた。猫にはあのにおいも魅力的なのだろうか。
くさやを食べた後は、帰りの車やエレベーターなど、しめられた空間が特に緊張する。自分でもわかるくらいに体がくさいからだ。特に口がくさい。
ここまであえて書かずにいたのだが「うんこ」のにおいだ、しかもやばいことに口が。口がうんこくさい男二人がエレベーターに乗ってきたら、どうだ、嫌だろう。みなさんもくさやを食べる時にはいろいろ状況を見極めた上で食べたほうがいいですよ。
300年前から作られてきたくさやは、おそらく300年後には今よりもっと熟成されたものになっていることだろう。それを食べられる子孫たちが正直うらやましい。
くさやはくさい。でも食べてみると他に類を見ないくらいにうまい。周囲に迷惑にならないよう気を配りながら、多くの人にぜひ挑戦してもらいたいものです。
くさやは有名どころのデパ地下か、新島のくさやはインターネットでも購入することができるようですよ。レッツエンジョイ、くさや。
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