特集 2022年7月25日

一番「人と人が支え合っている」フォントはどれか調べてみる

「人という字は、人と人が支え合ってできている」という言葉がある。

しかし、実際の人の支え合い方には差がある。細い明朝体の「人」は、かなりぎりぎりでお互いを支えているように見えるし、逆に太い筆文字の「人」は、ガッツリホールドしていて息ピッタリな気がする。

いろいろな「人」がある中で、一番「人と人が支え合っている人」はどれなのか。実際に「人」を作って確かめたい。

どうでもいいことを真剣に分析してみる記事をたくさん書いているエンタメライター。音楽や映画が特に好き!

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人は本当に人と人が支え合ってできているのか?

人という字は、人と人が支え合ってできているという。

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こんな感じ。

でも、現実にはいろんな「人」があるので、必ずしも支え合っているとは限らない。

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一番「人と人が支え合っている人」はどれなのか。

その答えを探るべく、物理的にたくさんの「人」を作って確かめてみることにした。

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大きめのスタイロフォーム(切りやすい発泡スチロールみたいなもの)を準備して...
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準備した「人」を貼り付けてカット。
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人ができた!!
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これをどんどん作ろう!
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たくさんの人ができあがった。
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髪染めスプレーで黒く塗ったら完成!

またたくまに、黒い人だかりができた。これで下準備は万全だ!

人は支え合ってできているが揺れにはめちゃくちゃ弱い

今回は、次の2つのルールで人の支え合い方をチェックする。

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まずはとにかくやってみよう。エントリーNo.1はこの「人」だ。

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石碑に書かれていた文字から出来たフォントらしい。

龍門石碑体は、書道などでお手本にされることもあるという文字だ。そのせいか、いかにも見た目が「人」っぽい。

「人という字を思い浮かべて」と言われたら、だいたいの人がこんな感じの「人」を思い浮かべるはずだ。

そんな王道派ともいえる龍門石碑体の「人」だが、本当に支え合っているのだろうか。

人の支え合っている部分に、カッターで亀裂を走らせてみる。

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このあたりをカットしよう。
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バラバラになった。妙に罪悪感のある作業。

お互いをばらばらにした途端、2人とも力なくその場に倒れ込んでしまった。

やはり、人という字は常にお互いを支え合っていないとダメなのだ。

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それぞれの「人」を手にとって...
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お互いを支え合わせると...

 

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そこには「人」が!!!

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余裕とまではいかなかったが、2人が支え合うことで、ちゃんと「人」が立つことができた。

どちらが欠けてもうまくいかない。お互いがお互いを支え合っている、これぞまさに「人」である。

しかし、勝負はこれだけではない。どんな障害でも2人は乗り越えられるのか、揺れを与えてチェックする。

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ドンドンドンドンドンドン!!!

いい揺れの与え方がよくわからなかったので、とりあえずテーブルを叩きまくったらすぐに崩れ去ってしまった。

龍門石碑体の「人」は、障害を乗り越えられるほど支え合ってはいなかったらしい。

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意外と人情がない勘亭流とがっつり組み合う相撲文字

この調子で、他の「人」もどんどんチェックをしていこう。

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「凸版文久見出し明朝」は、最近トレンドのフォントである。使いやすくてちょっとかわいらしいので、バナーや装丁で見かけることが増えてきた。

いわばフォント界のホープだが、ちゃんと人と人は支え合っているのだろうか?

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立った!!!

すっくと立った。こんなに不安定そうなのにきちんと支え合っているなんて、なんだかちょっと感動する。

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この「でっぱり」に愛を感じる

凸版文久見出し明朝で特に感動するポイントは、上にちょっとだけある「でっぱり」だ。

正直、これがなければかなり支え合えない人だと思う。

お互いがなんとか工夫をしながら、必死にお互いを支えている感じがすごくいい。

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ただし障害にはめちゃくちゃ弱い。

机を叩くと、0.5秒ぐらいでもろくも崩れ去っていった。やはり、もともとの太さがないと「人」は衝撃に耐えられないらしい。

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続いては、江戸っぽい雰囲気を出したいときに絶対に出てくる勘亭流の「人」である。

見た目は人情あふれる「人」に見えるが、実際のところどうだろうか。

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きっちり立った!
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揺れにはめちゃくちゃ弱い。

こんなに人情味がありそうなのに、揺れがきたらすぐにお互いを見捨ててしまった。せちがらい世になったものだ。

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しかたがないので、相撲文字に期待する。

相撲といえば足腰が大事だ。しかも、相撲のとっくみあいはかなり「人」の形っぽい。

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相撲=人なのでは?

これは期待が持てそうだ。がんばれぼくらの相撲文字!

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なんなく立った!
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揺れにもけっこう持ちこたえた。

さすが天下の相撲文字! 最後は崩れてしまったものの、ぎりぎりまでがっつり組み合う最高の支え合いを見せてくれた。やっぱり最後は人と人の支え合いだ。

切り方がわからないゴシック体と何が起きても最強のポップ体

ここまで手書きっぽい「人」ばかりを見てきたが、ここでゴシック体の「人」にも出てもらおう。

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ゴシックの「人」は、正直作るかかなり迷った。なぜかというとコレである。

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たぶんなのだが、「人と人は支え合っている」と最初に言いだした方は、筆で描いた「人」をもとにして言ったんだと思う。ゴシック体のことは、なにも考えてなかったはずだ。

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熟慮の末、ここを切ることにした。
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立ち上がれ!忘れられたゴシック体!
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揺れにも強いぞ!

ちょっと亀裂は入ったものの、揺れにも負けないゴシック体。ゴシック体でも、人は支え合うことができるのだ。

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もうひとつ、忘れちゃいけないのがポップ体だ。

ちょっと軽薄なイメージがついてしまっているポップ体だが、人と人が支え合っているのなら、ファンを増やせるかもしれない。

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切り離されても普通に立つ。
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支え合ってもきっちり立つ。※左の「人」にちょっとでっぱりがあるように見えるのはカットのほつれ

圧倒的な支え合いだ。バラバラになっても立ち上がり、2人になっても立ち上がる。

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しかも、どれだけ叩いても全然負けない。

倒れるまでテーブルを叩き続けてみたものの、全然崩れる気配がないので最終的に私が負けた。

いまだかつて、ここまで支え合う「人」がいただろうか。ポップ体、圧巻の支え合いである。

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支えあえない草書体と亀裂が走る印相体

最後は、変わった「人」を見ていこう。

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できるだけ早く文字を書くための崩し文字、それが草書体である。

崩し文字だけあって、ゴシック体とも一味違った「どこで切っていいのかわからん」感がただよっている。

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たぶんここ?
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コテーンと崩れた。

人というより「ろ」になった。こんな「ろ」のような人は初めて見た。

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どれだけ調整しても「コテーン」となる。

草書体の「人」は全然支え合っていなかった。この世には、やはりいろんな人があるようだ。

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他のどんな「人」とも違う、謎の風格ただよう印相体。

見たことがない人も多いと思うが、簡単にいえば「ハンコのための文字」である。

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しかし...
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どれだけ調整しても亀裂ができてしまう。

かなり支え合い感のあるフォルムに見えたが、その特殊さが裏目にでたのか、ガッツリ支え合うことはできなかった。「人」は見た目によらないのだ。

一番人と人が支え合っているのは「ポップ体」だった

いろんな「人」の支え合いを見てきたが、結果を一覧でまとめてみる。

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ということで...

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一番人と人が支え合っているのは、ポップ体の「人」だった。

特に「切り離されても立ち上がる」「どれだけ障害があっても支え合う」という強さを見せてくれたのは、たくさんの「人」の中でもポップ体の「人」だけだ。

今後もし「人という字は、人と人が支え合ってできている」という話をするときには、ポップ体の「人」を使うことをおすすめしたい。

 

はりきりすぎて大量の「人」を作ったせいで、全部を紹介しきれなかった。しかたないので、ここでおまけの「人」を紹介する。

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Windowsユーザーなら見かける機会の多いメイリオ。(Windowsでほっておくとほぼすべてのフォントがこれになる)
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ちゃんと立つけど細いので揺れには弱め。
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もうひとつは 国語の教科書などで使われる「教科書体」。ぱっと見て書き順がわかりやすいように出来ているらしい。
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立つものの一瞬で崩れる。

 

教科書体は特に最難関で、作っているときから「あなたたちは本当に支え合えるのか?」と聞きたくなるぐらい不安定な「人」だった。

人と人が支え合っている話をするときは、教科書体よりポップ体なのだ。ぜひ、今後支え合いの話をするときは参考にして欲しいと思う。

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