吾輩は針尾無線塔である。図面はもうない。
大正時代に建てられた、県内一の高さを誇る針尾無線塔。
100年経ってもなお、コンクリートはひび割れも劣化もなく、綺麗な状態を保ち続けている。
このコンクリートは、わたしたちが現在立っている足元に転がっている玉砂利(撮るのを忘れてしまいました……)が混ぜられている。
これは佐賀県唐津市の松浦川から船で運び、1つ1つを真水で洗い拭き上げられたものだそうだ。なんという、気の遠くなるような手間だろう!
佐世保は川の長さが短いため、上質な玉砂利がなかった。
コンクリートに気泡が入らないよう、現在ではバイブレーターが使われるが100年前当時はもちろんなく、マンパワーで叩き締められ空気を抜いていた記録が残っている。
まだ日本に鉄筋コンクリートの技術が入って30年足らずの時代にこれだけの建造物を作ったのだ。
なお、図面は戦後、GHQ接収の前に焼却されたとのことで、今後は図面の復元も行っていくそうである。
んんん、文化財を守ろうとする気概がすごい。
お話を聞き拍手を送っていたところ、「50年前のものです、よかったら使ってください」と、おじいさんが職員さんに大判の写真を手渡していた。こうやって貴重な資料が集まってくるんだな。
そうこうしているうちに順番が回ってきた。オレンジの網の中がおれたちの客席だ。
100年間、20倍もの高さの塔を支えてきた基礎とは
見学用のデッキをぞろっと囲み、おそるおそる見下ろす6m。
おおお、深い……!これ、おそらく生きているうちにもう一回見ることってきっとないんだろうな。
目の前にあるのが、100年前の基礎。100年前の空気までもがそこにあるような気がして、思い切り吸い込んでみたい気持ちに駆られた。
1号塔よ、今どんな気持ちだい。
今回の調査工事について説明してくれたのは、文化財建造物保存技術協会の職員さん。
説明の通りによく目を凝らして見ると、綺麗なコンクリートの端に岩盤がのぞいている。
ボーリング調査ののち実際に掘ってみたところ、この上に基礎が乗っていることが確認できたそうだ。
この岩盤が、九州でも1、2位の強度であるため100年経った今も倒れずに安定しているという。
6mの基礎が136mの鉄筋コンクリート造のタワーを支えている。ざっくり20倍じゃないか。
雨にも風にも負けず、100年以上もずっと。わたしは目を1.5倍見開いた。
当時建設に関わった人たちは、岩盤の強度も含めて基礎部分を手計算して作っていたそうだ。
計算中の現場に行って、その壮絶な熱気を感じてみたい。きっと大雨のようにそろばんの音が鳴り響いていたはずだ(完全な想像です)。
10分程のガイドをたっぷりと聴いたあと、お姑さんが「大変ね、お疲れ様です!」と労いの言葉を掛けていた。職員さん曰く、昨日は1日に100回ものガイドをこなしたという。
「そんなの大変、休まなきゃ!」と、家族みんなで心配した。
昨年公開となった電信室も探検
せっかくなので、昨年公開となった電信室にも行ってみた。
こちらの電信室は、100周年記念で写真展などのイベントを行なったことを皮切りに、一般向けの場所貸しも始めたらしい。
コスプレ撮影や展覧会などOKとのことだ。
気になる方は佐世保市教育委員会文化財課に問い合わせてみてほしい。
なんだか針尾無線塔が、文化財の枠を越えて次なるステージへ羽ばたいてしまった感じである。
わたしは、一人のファンとして、彼を遠くから見つめた。
針尾無線塔で佐世保廃墟倶楽部による写真展があります!
イベント期間中はトークイベントも行なわれる予定で、わたしもMCとして参加します。
興味のある方はぜひぜひ、佐世保にお越しください。
『佐世保廃墟倶楽部2023写真展×旧佐世保無線電信所(針尾送信所)施設建設101周年』
・開催期間
2023年11月3日(金・祝)~11月12日(日)
・会場
旧佐世保無線電信所(針尾送信所)施設
長崎県佐世保市針尾中町382
・観覧料無料
・施設見学時間
9:00~16:00
※写真展示は11月3日(金・祝)12:00より、11月12日(日)15:00まで