ハードタックは汗の味
最後になってしまったが自作のハードタックの味である。
これ、レシピを見るとわかると思うのだけれど、砂糖がまったく入っていない。つまり塩の味しかしないのだ。
硬さと戦いながら噛み砕くとなんだか汗みたいな味がする板。嫌いじゃないけど、お菓子ではないよな。
まずはこちら、京都名物八ツ橋である。
有名なお菓子なので知っている方も多いかと思うが、これ、薄い割りにかなり硬い。
尖った破片が口に刺さるとケガでもしそうなほどである。スイーツなんて呼ばれるているゆるいお菓子たちをあざ笑うかのような、尖ったナイフのような鋭さ。
久しぶりに食べてみるとニッキの香りがふんわりと口に広がりとても美味しかった。僕はもちろん生八ツ橋よりもこっちが好きだ。
続いての硬さは「くろがね堅パン」。硬いお菓子、で検索するとまず上の方に出てくるハード食品界の重鎮である。
この堅パン、どのくらい硬いかというと注意書きに「歯を守れ」と書かれているほど。
机の角にぶつけたりしながら細かく砕いたかけらを口に入れると、じんわりと優しい甘さが広がってくる。
おいしい。信じられないくらい硬いのに、信じられないくらい優しい味がするのだ。ぐれた息子が母の日につぶやいた「ありがとう」みたいな味だ。なんの話だったか。
硬いお菓子を求めて。次なる硬さはカンパンである。
震災からこのかた、買い占められて一時どこのスーパーからも姿を消したカンパン。最近になってようやく落ち着いて買えるようになった。
密封された缶を開けると、香ばしい小麦の香りがふわりと広がる。昔はもうちょっと一つ一つが大きかったような気がするのだけれど、それは僕が小さかったからだろうか。一口サイズのかわいらしい存在感。
再会の懐かしさもそこそこに、口に放り込み奥歯で噛んでみる。「ガリッ!」
やはりやたらと硬い。しかし硬いのは表面だけで、中はふっくらと膨らんでいて軽い歯ごたえといえる。イーストで練られているからだろうか。素朴な風味だが、口の中でじっとさせておくと徐々に美味しさがにじみ出てくる。
ここまで市販の硬いお菓子を紹介してきたが、今回は自分でもひとつ作ってみることにした。
ネットで調べた堅パンのレシピの中に「ハードタック」というすごそうなのを見つけたのだ。
ハードタックはアメリカで戦争中に保存食として作られていたのだとか。当時からその硬さには定評があり、弾丸すらはじき返す、とすら言われていたらしい。ほんとに食べ物か、それ。
ハードタックのレシピ 強力粉・・・400ml |
これらをまとめて1時間こねる。そして200℃のオーブンで1時間焼くとハードタックが出来上がる。
しかし「硬い」といっても所詮それは本人の、というかあごの主観である。極端にあごの強い人が噛めば、もしかしたら「柔らかい!」と言い出すかもしれないだろう。そんなの悔しい。
そこで硬さを評価するため、数値化してみることにした。その方法についていろいろ悩んだあげく、下の写真のような装置を開発した。
説明しよう。
先端を鋭利に形成したフックを硬いお菓子に乗せ、他端にバケツをひっかける。このバケツに水を足していくことで、硬いお菓子の表面にピンポイントで荷重がかかるという仕組みだ。同じような仕組みの装置が大学の研究室にあった。
お菓子表面の様子を確認しながらバケツに水を加えていく。コップの水は1杯500gである。
まず最初に硬さの牙城を崩されたのはやはり乾パンだった。およそ2.8kgの重さでピン先が硬い表面を突いて食込んだ。
乾パンを貫いた荷重、2.8kg。本来ならば先端部の表面積で荷重を割れば、かかる力が計算できるはずだが、自作の測定器である。そこまでわからない。
数値にしたら硬さの正体がわかるかと思ったのだが、2.8kgと聞いてもいまひとつピンとこず、むしろよけいになんだかわからなくなった気すらする。
とりあえずこれを一つの基準としてほかのお菓子も計測してみよう。
次に割れたのは八ツ橋だった。その荷重、3.2kg。
八ツ橋は刺さるというよりもある時を境に割れて飛び散った。八ツ橋を貫いた計測器はそのままの勢いで机に刺さった。
麻花兒はその形状からうまく測定器にかけることができなかった。計測点がすぐにずれてしまうのだ。
それでも1.6kgくらいで割れたので、いちおう参考値として記録しておく。
問題はここからだった。堅パンを計測器にかけたとき、僕ははっきりと(こいつは他と違う)と感じたのだ。
堅パンは食べものとして見るとビスケットにも見えるのだが、先入観を排除して見ると、ホームセンターの入り口の外で売られている園芸用の素材っぽい。
これがどこまで水を増やしてもびくともしないのだ。おそろしいぞ堅パン。
結局バケツが一杯になるまで計測を続け、それでも割れなかったので一度機械から外した。これ以上増やすとフックが折れそうだった。お菓子の硬さが計測器の限界を超えたのだ。じつに5.0kgオーバーである。
この一点で5kgの重さを受け止めるというのはたいしたものだ。そりゃあ歯も折れる。
最後にハードタックの硬さも計測しておく。
ハードタックも同様に5.0kgの荷重を余裕の表情で受け止めた。たぶんこれ、60kgの僕が乗っても割れないんじゃなかろうか。そのくらいに無限の可能性を感じました。
堅パン、そしてハードタック。この2つを頂点として硬いお菓子界はこれからも栄えず消えず、好きな人にだけにガリガリと支持されていくのだろう。
みなさんのまわりにまだ見ぬ硬いお菓子情報があればぜひ教えて下さい。
最後になってしまったが自作のハードタックの味である。
これ、レシピを見るとわかると思うのだけれど、砂糖がまったく入っていない。つまり塩の味しかしないのだ。
硬さと戦いながら噛み砕くとなんだか汗みたいな味がする板。嫌いじゃないけど、お菓子ではないよな。
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