特集 2018年10月23日

沖縄で『ハイイロゴケグモ』という毒グモが増えているらしい

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先週、沖縄で外来の毒グモが大量発生しているというニュースが駆け巡った。

それは気になる。どんな具合にはびこっているのか視察しに行ってみよう。個人的に。

※注意:ハイイロゴケグモやセアカゴケグモは有毒です。見つけても素手で触らないようにしましょう。また、どちらも特定外来生物に指定されており生きたままの輸送や飼育は禁止されています

1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。

前の記事:三陸の奇妙な海の幸「エラコ」を食べる


その名はハイイロゴケグモ

今沖縄を騒がせているのはハイイロゴケグモというアフリカ大陸や中南米が原産とされる(原産地については諸説ありハッキリしない)クモだ。

90年代に外来毒グモとして話題をさらったセアカゴケグモに近縁な種でもある。

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これはオーストラリア原産のセアカゴケグモ。関西へ侵入して早20年。いまや各地に広がっている。

沖縄本島ではこれまでもチラホラと見つかっていたクモだが、この度は沖縄市のよりによって公園内で大量に発見されたことで話題になっている。

ハイイロゴケグモがこれだけ取り沙汰されたのは沖縄でも初めてのことのように思う。

どんな具合に大発生しとるんかいなー?と観察に行こうと思ったが、騒ぎになっている現場を素人がまぜっかえすのも迷惑になってしまうかもしれない。自粛すべきだろう。

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ハイイロゴケグモが発見された公園には注意を呼びかける看板が設置されていた。
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同じ公園にはこんな看板も。繁殖・定着しているとは限らないが、発見例だけなら西日本のあちこちにある。

ところが沖縄在住の友人に話を聞くと「数年前から国頭郡の金武町では定期的に見つかっていて、やはり最近になって急増している」ということだった。

あらあらあら…。では世間がまだ目を向けていない金武町でハイイロゴケグモの定着事情を視察してみよう。

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友人のアパートの配電盤。こんなところ普通は生き物がいるとすら思わないよね
 

訪れたのは大学時代からの友人であるNさん夫妻が暮らすアパート。

Nさんたちはこの敷地内で2年ほど前から時折ハイイロゴケグモを見かけるという。

なるほど。ではひとまずこのアパートをスタート地点にして、クモが見つからなければ捜索範囲を周辺に広げていこう。

「この辺の配管とかに巣を張ってたけどねー」と配電盤の下を覗き込むと。

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おや?スリット状の金具にクモの糸が…。

えっ、いきなりいるじゃん…。しかも卵まで…。

これはもしかすると思っていた以上に深刻な状況なのでは。

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本当にいたわ…。しかも卵のかたまり(卵嚢)を守っている。
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ハイイロゴケグモのメス。名前のとおり白灰色の腹部が特徴。むしろシックな美しさを感じるくらいで、さほど毒々しい印象は受けない。
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裏側から見ると腹部に赤い模様が。ヤバそうなオーラを放っているのはここくらいか。
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画質が荒くて申し訳ないがこちらがオス。この手のクモ全般に言えることだがメスよりもふた回り小型でさらに目立たない。触肢(頭の近くにある触角のようなもの)が丸く膨らんでいるのもオスグモにありがちな特徴。
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ハイイロゴケグモの網は『不規則網』と呼ばれるタイプの網。その名の通り一見乱雑な作りだが三次元的に自身の周囲をカバーできるのでエサを捕るトラップとしては理にかなった構造。
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ハイイロゴケグモの卵嚢。大きさはこんなもん。
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形状もサイズも金平糖のようだ。
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卵嚢は糸で頑丈に編まれており、破ると数十粒の卵が詰まっているのが確認できる。

まさか、と付近の物陰へ頭を突っ込んでみるとえらいことになっているではないか。

ハイイロ、ハイイロ、ハイイロ…。
ゴケグモ、ゴケグモ、ゴケグモ…。

ええ~…。この有様はわりと由々しき事態だぞ。

このアパート、もはやハイイロゴケグモ向けの物件と化してない?

もう今回の観察はここの敷地だけで十分に事足りそうだ。

日や風の当たらない人工物の陰がお好き

アパートの各所とその周辺を見て回るうちにハイイロゴケグモが好む環境が見えてきた。どうやら彼らは

・どちらかというと地表付近の
・日光と風が当たらない冷暗所にある
・人工物の基部

を好むようだ。

この傾向はセアカゴケグモやクロゴケグモとほぼ同様である。

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こういうところ!低くて凹んでるとこ、入り組んでるとこ、それでいて風も日も当たらないとこ。そういう場所は人目にもつきにくいので発見が遅れがち。
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壁面下部の隙間をのぞくと…。うわ!虫の死骸がからんだクモの巣だらけ!しかもそのほとんどがハイイロゴケグモのものだった。
 
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多産なのもハイイロゴケグモの特性。このように一匹のメスがワンシーズンに多数の卵嚢を産んで守ることができる。
 
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ハイイロゴケグモは仰向けの姿勢で定位している場合が多い
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特徴的な腹部の模様が見えていない姿勢だと種の判別はより難しくなる。
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あとは郵便受けの下にもいたし…
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ステンレス製の手すり(の基部)にもいた。こういうところは手を置く機会が多いので気をつけた方がいいだろう。
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側溝のコンクリート蓋やグレーチングの裏側にもよく見られる。
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うち捨てられたガレキの隙間も要注意。特にコンクリートブロックが乱雑に積まれているとブロック穴の中がゴケグモマンションになりがち。
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プランターの裏も要確認。特に指をかけるために反り返っている縁の部分はゴケグモが身を隠すのにちょうどいい。
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あと忘れてはいけないのがこれ。壁に通った排水パイプ!

特に興味深かったのがコンクリート壁に空いた排水パイプ。ここも条件を満たしているので当然高確率でハイイロゴケグモが棲みついているのだが、『部屋割り』にある傾向が見られた。

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ほらいたいた。
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奥をのぞくとメスの死骸と大量の卵嚢がぶら下がっていた。

奥側と手前側とに複数のハイイロゴケグモが雌雄問わず同居しているパイプがある一方、一匹も入っていないパイプもある。

そしてそうしたパイプのほとんどにはユウレイグモという別のクモが巣を作っていたのだ。

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ユウレイグモの一種。こいつらがいるパイプにはハイイロゴケグモの姿はなかった。ユウレイグモは貧弱に見えるがクモ、特にゴケグモ類を含むヒメグモの仲間をよく襲うのだ。

ユウレイグモの仲間には他のクモを積極的に捉えて食べる種がおり、イエユウレイグモなどはセアカゴケグモの天敵だという話もある。

ハイイロゴケグモもユウレイグモとは同居できないのだろう。食われるから。

あるいは、逆にユウレイグモが餌食になってしまうことだってあるかもしれない。なんにせよ両者が犬猿の仲であることは間違いなさそうだ。

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お腹の丸いネッタイユウレイグモが特に多かった。不思議とユウレイグモは別種同士でも同じパイプに同居していたりする。

まあそもそも別種で同体格のクモ同士が狭い空間に同居すること自体あまり多くない話なのだが。

何を食べている?

観察は夜間にも及んだ。ハイイロゴケグモは夜行性の傾向が強く、暗くなってからは捕食シーンを頻繁に見ることができる。この機会に食性を調べてみよう。

日中でも網に絡んだ死骸を見ることでエサのタイプはおおよそ判断できるが、食べずに放置した虫などもそのままになっていたりするので正確性に欠ける。やはり現場を押さえるのが確実だ。

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ワラジムシを食べている場面に多く遭遇。セアカゴケグモもダンゴムシやワラジムシをよく食べている。

何十という網を見回ったところ、いろいろな虫が捕らえられ、押さえ込まれ、食われていた。

その中でも特に目立って多かった獲物がワラジムシやダンゴムシ。次いでアリだった。

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かなり体格差があっても平気。糸と毒があるからこその捕縛術か。
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アリもよく襲われていた。ハイイロゴケグモの不規則網は飛んでいる虫をキャッチするのではなく、地べたを歩く虫をひっかけるタイプの罠なのだ。

ダンゴ&ワラジムシはカタいし、アリは蟻酸出したり毒針持ってるやつもいたりするしと、どちらもかなり食べにくそうに見える。が、ハイイロゴケグモ的にはオールオッケーらしい。

特にこれらが好物というわけではなく、単純に網にかかる機会が多いから主食になっているだけなのかもしれない。

他に食べづらそうなエサとしてはゴミムシやカメムシまで食われていた。

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こちらは小さなバッタをグルグル巻きにして食べている。あまり好き嫌いはなさそうだ。

咬まれると骨が疼くような痛みが

ところで僕はアメリカ合衆国(原産地ではなく人為分布地)でこのクモに咬まれた経験がある。

まず咬まれる瞬間はほとんど痛みを感じない。犯行現場を見ていなかったら、毒蜘蛛に噛まれたとはいつまでも気づけないかもしれない。

この犯行の静かさが実は厄介で、「心当たりがないのに異常が出る」という恐ろしい事態に陥る。医者にかかろうにも診察·処置が難航するのは想像に難くない。

特に小さな子供の場合は「ハイイロゴケグモに噛まれた」という事実をうまく認識、伝達できないケースがより多くなるだろう。それでいて大人に比べて症状が強く出る可能性が高いであろうから困りものだ。

症状を把握しておくことは意義があるだろうから、ここへ参考までに記しておく。

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アメリカでハイイロゴケグモに咬まれた際の患部写真。牙が突き立てられた部位には腫れも赤みも痛みすらほとんど出ないため非常にわかりにくい。そしてなぜかとっくに痛みや痺れが引いた数日後に思い出したようにちょっとだけ腫れて微妙に痒くなる。

咬まれて数分すると咬まれた箇所からじわじわと、周囲の骨に疼痛が広がっていく。蜂に刺された時のような『鋭い激痛!!』というものではなくジンジンと鈍く不快に、不安感を煽るような痛み方だった。

ほんのり熱を持つような感覚もある。そしてやがてうっすらと痺れが生じる。

僕の場合、咬まれたのは手の甲で痛みは肘にまで痛みが広がったが2時間ほど経過したあたりで痛みと痺れは引いた。

症状の概要はセアカゴケグモに似ているが、両種が分布しているオーストラリアでは「ブラウンウィドウ(ハイイロゴケグモ)の方がレッドバック(セアカゴケグモ)よりは毒性が低い(症状が軽い)」とよく言われる。

たしかに個人的にもセアカよりかなり軽く済んだように記憶している。

ただし、クモ毒への耐性はかなり個人差が大きく、人によっては重篤な症状を引き起こす。特にゴケグモ類の毒は呼吸器にも作用する神経毒であるため、セアカであれハイイロであれ絶対に咬まれないよう十分に気をつけたい。

ただし基本的には臆病で攻撃よりも逃げを優先するクモであり、牙も小さく人間の皮膚を貫くのは容易でないため、余程のことがないと咬まれないとは思う。子供は遊具使用時などに、大人は清掃や家庭菜園の世話といった屋外作業時にうっかり触れてしまわないよう気を配ることが重要だろう。

コンビニ素材で捕獲を作る……

さて、Nさんが沖縄市での一件と自宅の惨状を受け、ハイイロゴケグモを採集して役場へ提出するという運びになった。いい機会なのでお手伝いすることにした。

しかし今回はあまり本格的に捕獲することを考えていなかった。

素手で掴むのは避けたほうがよいだろう。かといって手袋をはめると指先がごわついて狭い隙間に入り込んだクモをうまくつまめない。

ピンセットなどもない。

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ランチ兼捕獲器の材料。今思うと穴埋めパテ代わりのおにぎりは不要だったが、おいしかったのでノープロブレム。

そこで、即席の捕獲器を作るべく近くのコンビニへ向かった。

購入したのはタピオカミルクティーと大きなフタがついたペットボトル入りジュース。それからおにぎりをひとつ。おしぼりとストローもつけてもらった。

ランチとしてはえらくバランスが悪いが、これは食事であると同時に素材としてチョイスした品々であるがゆえ。

これらの空き容器や付属品でインスタント捕獲器を組み上げる。

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紙おしぼりを伸ばして薄くする。
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曲がるストローの先端に巻く。フィルターだ。
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ペットボトルのキャップに大小二つの穴をあける。友人がたまたま電動ドリルを持っていたのでスムーズにかつ精密に仕上がった。
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ストローをキャップの穴に通し…

ペットボトルのフタに大小二つの穴をあけ、径の太いタピオカストローと細い曲がるストローを差し込む。曲がるストローの一端には ほぐしたおしぼりの切れ端を取り付けフタを閉めれば即席の『吸虫管』が完成する(おにぎりはストローを通す穴に隙間ができた際に米つぶを練ってパテにするつもりだったが出番なし。まるっと胃に収まった)。

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ペットボトル本体に取り付ければ即席『吸虫管』の完成。ボトルはもう少し小さくした方がよかったかも。

吸虫管とは読んで字のごとく、小さな虫を吸い込んで捕まえるための装置である。

指やピンセットでつまめない小さく脆い虫を採るのに重宝する。

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まさか手すりを吸う日が来ようとは。一人でやってたらたぶん通報されていた。

コンビニで入手した素材で即席の吸虫管を作成!安全に毒グモ捕獲!

…というと、さも鮮やかな臨機応変ぶりと受け取られるかもしれないが、これが実にグダグダだった。

実用的な吸虫管はビニールチューブを使用したフレキシブルなものだが、こちらはストローなのでキスを迫るように自分の顔をクモの巣(しかもよりによって軒下とか排水管の中に張られているもの)へ寄せなければならない。

しかもゴケグモは意外と網への踏ん張りが強いので、顔を真っ赤にしながら結構な勢いで吸い込まねばならない。

スマートさのかけらもない。

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悲しき蜘蛛吸い男。妖怪や怪談、都市伝説とはこうして産まれるものなのかもしれない。

…本当は「とっさの思いつきで寄せ集め素材の吸虫管を作り、毒グモをスパスパ捕まえまくったらコレ相当カッコいいのでは…!?」という中学生みたいな思いつきとでやっちゃったのだ。

Nさん夫婦も僕のことを「平坂はなんてクレバーでスマートな男なんだ…。」と評価してくれるのではと期待してやっちゃったのだ。

結果、「スマートでもなければ効率も悪い。色々と裏目に出ているがまあどうにか使えないこともない!」…という程度の装置を咥え、意地だけでクモを吸い込む羽目になった。縛りプレイというやつだ。

結局、コンビニで材料を揃えるにしてもだ。ただカップ麺でも食べて使用済みの割り箸でダイレクトにつまんじゃうのが一番手っ取り早くて効率よかったのではないか。

そんなことは今や痛いほど分かっている。だが僕は吸うしかない。吸うしかないんだよ。

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ほんの数メートル四方でこの数…!※その場で殺処理して友人に託しました。

吸うも吸ったり瞬く間にその数20匹近く。

アパートの一角だけでここまで反映してしまっているとはあらためて驚く。これだけ数が揃っているということは、ここからは沖縄県内全域へ爆発的に増えていく可能性が高いだろう。


見分けられるようになっておこう

Nさんの通知もあったことだし、金武町でもすぐにハイイロゴケグモについての周知や勧告、調査が行われることだろう。

ヒアリの時もそうだったが、こうした外来生物問題はある地点に一度火種が起きると波及するように一斉に報道、啓蒙される傾向にある。

今後は沖縄県の各市町村、あるいは日本各地でこの地味な毒グモが話題に上ることになるかもしれない。そうならないよう行政も個人も相手がどういうクモなのか、その生態と特性を勉強しておかないといけない。

あと、特に重要なのは正確にゴケグモを区別できるようになっておくこと。ほかの無害な在来クモたちを巻き添えで駆除したりしてしまわないように。
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コンクリート造りの集合住宅にも意外と色々なクモが棲んでいた。雨風がしのげて、夜には灯りに虫が飛んでくるのだから彼らにしてみれば案外快適な環境のかもしれない。
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