特集 2020年2月12日

廃バスの扉をあけると、そこは公民館だった

廃バス公民館

公民館。町の人たちが集う憩いの場。3階建エレベーター付きでビニル床がつやめく小綺麗なものから築何十年も経過した木造の民家のようなものまで、全国各地さまざまなタイプがある。
 
わたしの地元・佐世保市踊石町の公民館はバスタイプだ。廃バスなのだ。
バスタイプと聞くとユニットかどうかみたいなことが頭に浮かぶが、そうじゃない。ガワの話だ。廃バスだ。そもそも公民館として機能しているのか。
さっそく中に入れないか、町のひとにお願いしてみた。

1986年生まれ佐世保在住ライター。おもに地元の文化や歴史、老舗や人物などについての取材撮影執筆、紙媒体のお手伝いなど。演劇するのも観るのも好き。猫とトムヤンクンも好きです。


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バスとは縁が遠い場所にある

踊石町は、市街地から車で30分ほどののどかな場所だ。最寄りのバス停は居住エリアからは遠くて徒歩10分ほど離れているし、肝心のバスも1時間に1本来るか来ないかだ。そんな、バスとは縁が遠い静かな町なのだ。

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バス通りから外れたこの道をまっすぐ行けば踊石町だ

目的地へ行く途中、幼稚園の大きな建物を眺めていた。少子化が進むこの片田舎だが、子どもがいる希望ある未来に想いを馳せてしまう。

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子どもたちよたくましく育ってくれ

ふと、無人販売所が目についた。

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てっきり農家さんの作業道具が置いてある棚かと思ったが、こんな道沿いに堂々と設置するはずがない。

並んでいるのは神社で使う葉っぱ(榊)と柑橘類のなにかだ。

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お金はココだ。簡単に取り出せないようしっかりとした作りになっている

踊石橋。

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思わず何度も口にしたくなる町名だが、日本全国でも「踊」がつく地名は四か所しかない(佐世保市踊石町・岐阜市雨踊町・奥州市水沢区踊子・佐世保市吉井町踊瀬)。名前の由来については後述したい。

堤防広がる風景を眺めながら先へ進む。緩やかな坂道を歩くこと10分ほど。昔ながらの家々が密集する高台へ向かう道の途中に、その公民館は現れる。

停留所じゃない、公民館だ

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何度も言うが、バスの停留所ではない

バスだ。バスが停まっている。しかし普通ではないところは、行き先表示を見てみると明らかだ。

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すごい。猫バスの「メイちゃん」とは対極にあるフォントだ。尖っている

誰かの手作りだろう。「踊石新町」とは、どうやらこの辺一帯を指す地名らしい。
バスのすぐ眼前には町民に向けられた掲示板が設置されており、正面から全貌を伺うことはできない。

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中をのぞいてみると、見えるのは運転席ではなくシンク
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フロントには町内掲示板が。3月にイベントやるんですね
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ボディにもしっかり公民館の表示が
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一応、防犯連絡所になっている

たしかに、外側は長年のお役目を終えたバスだ。しかし、人の手によって今でも血が通っているのが伺える。

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バスの周りは駐車場になっているが、取り付けられたトタン屋根はバスだけを覆っている。バス専用屋根だ
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草花も生きている。まるでラピュタの世界のようだ
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背面のディスプレイが電光板じゃないのも新鮮。昔ってどうだったんだっけ
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簡易トイレもあったが中に入るには少し勇気が必要だ

近くに見える大きな一軒家を目指して、やや急勾配な坂道を登った。

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道中にこんなものも。空き家も多いみたいだ

親子二代で長年住んでいる男性にお話を伺ったところ、やはりあの廃バスは今でも使われているちゃんとした公民館だった。大正8年に初代の廃バス公民館が設置されてから老朽化に伴うチェンジを繰り返し、現在のもので3代目。かれこれ40年になるらしい。初代から数えると、この町では100年ほど続く見慣れた光景だということか。

また、この町は以前、炭鉱であったことがわかった。いまでは60世帯に満たないが、かつてはサラリーマンの倍以上の収入で炭鉱マンたちが活躍していた時代があったのだ。

昭和40年代に閉山したのちは、残った人たちで家々を守りながら静かに暮らしている。数年前から新興住宅地が登場し、若い移住者がぽつぽつと増えているとはいえ、住んでいるのは60代オーバーが多数を占めている。

随所に見られる広々とした土地は、かつて財を築いてきた炭鉱の跡なのだそうだ。

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家主との会話に盛り上がっていると、坂の上から白装束を着た老人3人組が鳴り物をガンガン鳴らしお経のようなものを読み上げながら家の前にやってきた。開け放たれた玄関先にいるわれわれなど視界に入っていないようで、彼らは1分間ほど地鳴りのような斉唱を披露し終えたのち、懐からピッと一枚お札を取り出し家主に差し出した。

「やー、すいません。ウチは違うんで」

と家主はやんわりと断った。

わたしはしばし呆気に取られつつそのようすを観察していた。

老人3人組が再び鳴り物を手に坂を下って行ったのを見送る。気を取り直し、とりあえずどうしても公民館の中を見たいとお願いしたところ、現在の町内会長のお宅を紹介していただいた。嬉々として向かう。

町内会長の60代の男性は突然の訪問にも関わらず、快くバスの中を見せてくれた。

バスのカギは自宅や車のカギと一緒にジャラッと1束になっていた。

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鍵はもちろん手動だ

手動なので、もちろんブザー音は鳴らない。土足厳禁とのことで、靴をぬいであがらせていただいた。

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ステップ手前にお靴。なかなか見られない光景だ

「お邪魔します」とステップを登る。

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まず目に入るのは、冷蔵庫とシンク。ステップの床はピンクのカーペットだ

眼前に広がる光景に思わずおぉー、と歓声をあげてしまった。

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長机、椅子、ヒーターが完備されている

ちゃんとしている。ちゃんとした部屋だ。座席はすべて撤去され、代わりに椅子がぎっしりと並べられている。最大で35名が収容可能、夏は暑く冬は寒いそうだ。そうだろうな…。

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座布団はきっと町内の御婦人方が持参したものだろう。フリフリレースとヒョウ柄がなんとも愛らしい

フロントガラスには予定を書き込む黒板が。

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ということは、会議中は身体をバスの進行方向に向ける形になるんだな。

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降車ボタンを探してみたが、高い位置のものだけが残されていた。

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もちろん押す。音が鳴らない代わりに、指がスコッと沈む感覚に集中できた。会議中、話が進まないときはこれを押しながら考え事をするのも良いかもしれない

乗車中は絶対にまじまじと見ることはないであろう、換気口やら配線やらを観察する。

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こんな注意書きなんて生まれて初めてじっくり読んだかもしれない

窓の外は公衆トイレの景色。

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ご婦人たちがここに立ってガチャガチャと働くのだろう。生活感あふれる空間だ。

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水道、電気完備というから驚きだ。ここでお菓子を用意したり洗い物をしたりするのだなあ
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冷蔵庫の中身はペットボトルのお茶だ

感無量だ。きっとこの町の誰よりもこの公民館を堪能したという自信がある。それはもう舐めるように。

町内会長さんに、ここが設置された当初のことを聞いてみたが詳しくはわからなかった。

せめて中が人でいっぱいになっているところだけでも見たいと、月に1回の町内会への参加を希望したが、お金のお話がメインなのでちょっと厳しいとのことだった。それはさすがによそ者が入る余地はない。無念だ。

しかし、長年炭鉱の町に生きてきた彼にとっては、100年も続く廃バス公民館は当たり前の光景で、かつては遊ぶ子どもたちでにぎわっていたという話も伺えた。いよいよジブリの世界だなと思った。

先代町内会長をたずねて

現町内会長に紹介してもらい、3代目バスの公民館リニューアルに携わったという先代会長の城戸さんを訪ねた。

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先代町内会長の城戸勘市さん(86歳)と奥様の千枝子さん(83歳)

勘市さんはとても耳が遠かったので、千枝子さんを挟みつつのインタビューとなった。

―さっそくですが、なぜ公民館がバスなんですか?
「もともとこの町には公民館として使える建物がなかったの。なによりお金も土地もなくて。どうしようかと知り合いのバス会社さんに相談したらね、廃車になったバスをいただけることになって。そこからかれこれ3代目になるわね」

―なるほど、バス会社さんのご厚意で、省エネ省スペースが実現できたわけですね。設置や内装はどうやって手掛けたんですか。
「設置はね、廃車といってもまだ動くものだから、ここまで運転してもらって。それで座席を全部取り外して、近くの小学校から使わなくなった椅子を譲ってもらって置いてるの。カーペットやクッションとか、細かいものはみんなの自前よ」

なんと、隅から隅まで人の手が行き渡った温かい成り立ちだろう。というか、「バスが通らないこの町を走った唯一のバスは公民館なんです」と言い切って良いんだろうか。聞いた人はさっぱりかもしれないが。

―ところで、お聞きしたいのはあの行き先表示板に書かれた町名です。あれはひょっとして、勘市さんが?
「そう。お父さんの手作りですよ。もともと自分で何かしら描いたり作ったりするのが好きなのよね。ね、お父さん?」
「そ。正直大変だったけど、楽しかったよ」

ーおお、手作り!!すげえー!
わたしはすっかり舞い上がった。あのフォントを手掛けた本人と話をしているこの現状に。
勝手ながら「カンイチ(勘市)フォント」と呼ぶことにした。

町のあちこちに散りばめられたカンイチフォント

実は公民館だけでなく、城戸さんが手掛けた“作品(と呼ばせてもらう)”は町のあちこちにある。

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公民館の向かいにあるごみステーションも手作り。かつて夏祭りで使われていた盆踊りの櫓(やぐら)をリサイクルしたものだ
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町の手前にもあるごみステーション。定期的に油を塗ったり磨いたりのメンテナンスも行ってきた
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どれも薄いアルミ板をカットして作られている。立ちくらみがしそうな大変な作業だったろう
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とくにこの漢字は作るのに時間を要したはず
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補強用なのか、台紙が貼られている文字も。わたしはここまで出来ないぞ

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町の入口付近に佇む作品。初見では「ひょっとしてこれは関わってはいけないやつだろうか」と思わず身構えてしまった

―正直、最初見たときは怖かったんです。とっても文字のパワーが強くて。でもよく見ると「交通安全」とか「飲酒運転撲滅」とか、当たり前のことがしっかり書いてあるだけなんですよね。
 
「もう10年以上経つからね。見た目も確かに怖くなるけど(笑)。けど、お父さんはとにかくこの町と子どもが大好きで。登校中の子どもたちを送り迎えしたり見守ったりが認められて表彰されたりもしたのよ」

地域愛が具現化したものがカンイチフォントだと知ったとき、ちょっと怖かったごみステーションがとても愛らしいものに見えてきた。

昔は色々やってたよ

公民館の話に戻る。現在は月に一度の町内会しか開かれないという寂しい状態だが、15年ほど前はさまざまな催しで賑わっていたらしい。

「宴会やったり、カラオケなんかで盛り上がったりもしたよ」
「殺風景なもんだから、桜の木を10本ほど植えたのよね。春には提灯で周りを飾ったりして。お祭りでもやってるんですかって、ローカルTVの方が取材に見えたこともあったね」

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城戸さんの手で、公民館の周囲に植えられた桜の木

思い出話に目を細める二人。当時の写真が残っていないかを尋ねたが、残念ながら持っていないそうだ。

ーこれからあの公民館はどうなっちゃうんでしょう。
「新調するにも金が足りんね。高齢化で住む人も減ってるし、町内会費だけじゃ賄えん」

会話中、勘市さんは「駐車場代を集めても足りんのよ。そもそも若い世代がねぇ」という苦言を呈し、千枝子さんから「それはもういいから」と突っ込まれるというやりとりを10回ほど繰り返していた。駐車場の運営も、下の世代との交流も大変なようだ。


ちなみにお祭りなどの催し関係は、別所にある「踊石町公民館」で行われている

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すぐ隣には踊石神社があり、「上水道落成記念碑」が。

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冒頭の踊石橋を渡る箇所でふれたが、この町の地名は“地すべり地帯”に由来するということだ。ごろごろと、まるで踊っているかのように転がる石のさまを表しているのだろう。

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水のような文様をあしらった意匠が、水とこの町との関連性を物語っているかのよう
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それにしてものどかな町なんです

今年も城戸さんが植えた踊石町の桜は満開になるのだろう。廃バスの公民館は、訪れる人が減った今も、静かに町を見守りながら時を刻んでいる。


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さいごに公民館と一緒に記念撮影をしたかったが三脚を忘れた。仕方がないので通りすがりのおばあちゃんに無理やりお願いすることに。彼女は震える手で重い一眼レフを持ち、シャッターを切ると同時に身体を縦に30cmほどブンと振った。きっと、夜の高速道路を撮影したような残像になっているかと思ったがすごく綺麗に撮れていた。

炭鉱の町に生きる女性はやはりたくましい。ありがとうございました。

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