月の裏側
静岡県の月からの帰り道「月まで3㎞」の看板裏が見え、林さんが「月の裏側だ!裏側を撮る人はなかなかいませんよ!」と少年のようにはしゃいでいた。
わたしも一応写真を撮ってみたものの、めちゃくちゃ逆光だった。
「前澤社長より先に月へ行きませんか」
そんな誘いを受けて月へ行ってきた。しかも、1日に2ヶ所もの月に。
月は、地球から約38万km離れた太陽系と、静岡県と愛知県にある。
太陽系の月へ行くには1人約100億円の予算と訓練、時間が必要だが、静岡県と愛知県の月なら東京からでも日帰りで行ける。
地球の月は、のどかで寒かった。
※当記事は『デイリーポータルZをはげます会』のサポートによって取材させていただきました。
2020年2月某日、月を目指す同志4人が浜松駅南口にあるタイムズレンタカーへと集った。
『スペースシャトルの説明を受ける安藤パイロット』というキャプションを入れるつもりで写真を撮ったが、いざ原稿を書き始めたら恥ずかしくなってきたのでやめた。
ナビを静岡県の月にセットして早速出発!!
まじめな話、静岡県の月とは浜松市天竜区にある『月』という地名の集落である。
さっきから2ヶ所もの月とか、静岡県の月とか愛知県の月とか、書いてるわたしもわけがわからなくなってきたので早々に紹介することにした。
ここが静岡県の月。浜松駅から車で約1時間で行ける。
事前情報は、特にない。
ただただ『月』という地名に惹かれて向かっただけだったので、地名だけで本当になんにもなかったらどうしようという不安の方が大きかった。
そんな不安な気持ちが伝染したのか、西村さんがおなかの調子が悪いのでトイレに行っておきたいという。
たしかに、月には気軽に行けるトイレはなさそうだ。行こう。
たまたま立ち寄ったショッピングモールだったが、我々は月へ行く運命だったのだと感じずにはいられないできごとが複数起きた。
まず、このショッピングモールには温泉施設が入っているのだが、その名前が
書店にあった静岡書店大賞 大賞受賞の本が
しかもペラペラとめくってみると、この『月まで三キロ』という本は、わたしたちが今まさに向かおうとしている静岡県の月が舞台になっているではないか!!
あまりの偶然に仕込みを疑った。
ほかの3人は東京から来ているので、仕込むとしたら浜松在住のわたししかいないのだが(仕込んでないです)
「ハンバーグのさわやかは、インターネットで紹介されてから県外のお客さんばっかり」
「五味八珍は愛知県でも珍しくない」
など、たわいもない話をしながら月へ向かうこと数十分、『月まで三キロ』地点にたどり着いた。
あと、風が強くてめちゃくちゃ寒い。
看板下で集合写真を撮ろうとしたら、風が強すぎて三脚が倒れ、安藤さんのカメラが壊れるハプニングが起きた。
まだ月に着く前なのに!!
安藤さんは「大丈夫っす大丈夫っす」「こういうこともありますよ~」などと平静を装っていたが、大丈夫ではなさそうな顔をしていた。
山道を走ること数分、ついに1つ目の目的地、静岡県の月に到着した。
これより船外活動を始める。
月に来て宇宙っぽいことをしてみたくなったので、映画『アルマゲドン』の横一列に並んで歩くあれをやった。
これはこれで楽しかったが、民家もあるので撮っている最中人が来ないかソワソワしながら撮った。
アルマゲドンに見えるか見えないかは、あなた次第。
静岡県の月はボートの練習や大会会場としてよく利用されるらしく、合宿所のような立派な施設があった。
“一番まともそうなかっこうをしているから”という理由でわたしが玄関を開けたが、胸にでっかく『NASA』と書かれた真っ青なパーカーを着ているし、うしろにピカピカ光っている人たちがついてくるし、内心開けたくなかった。
はじめは恐る恐るだったが、施設の方が出てきて丁寧に対応してくれてほっとした。
施設の方は、
など、さまざまな話を聞かせてくれた。
オリンピック出場選手や松岡修造も来ていてすごい施設なんだろう。が、入口には月の石が無造作に置かれていてとてもよかった。
そのあとも月を余すことなく堪能した。
静岡県の月から再び車を走らせること約1時間、今度は愛知県の月に到着。
愛知県の月は、北設楽郡東栄町というところにある。
昼時間を過ぎていたのでどこかごはんが食べられるところはないかと話していたら、月公民館の向かいにあった集会所から声をかけられた。
集会所に『おいでん家』というのぼりが掲げられていたので、実は先ほど飲食店かと思い中をのぞこうとしていたのだ。
事情を説明すると、おばちゃんは快く中へ招き入れてくれた。
月の皆さんは、
などを教えてくれた。
話を聞いているあいだ、最初招き入れてくれたおばちゃんの携帯電話が鳴った。「変だけど、おもしろい人たちだよ!!」と、あきらかに我々の話をしている。
あとから聞くと、役場の人からの「怪しい人たちが集会所の方へ歩いて行ったけど大丈夫か?」という電話だったそうだ。
役場から完全にマークされていてドキドキする。
集会所をあとにし、教えてもらった月のバス停へ。
先ほどの反省を生かし、林さんの手持ちカメラで撮る。 我々は風が強いと三脚が倒れてカメラが壊れる、ということを学んだ。
そして、また怪しまれた。
こちらのおばあちゃんたちも事情を説明したらわかってくれて安心したが、なにより驚いたのは、こんなに怪しい人たちにも関わらずみんな気軽に声をかけてくれることだ。
月の人たちは、みんな親切でいい人たちだった。
最後に、月小学校へ立ち寄った。
今は廃校となってしまっているが、平成22年まで子どもたちが通っていた月小学校。
地球の月は自然豊かでのどかな場所だった。
そして静岡県の施設の方も、愛知県の地元の方も、みんな親切でいい人たちばかりだった。
太陽系の月はきっと暑かったり寒かったりこんなに穏やかではないだろうし、宇宙人も怖くて家に招き入れてお茶など出してくれることもないだろう。
地球の月に行けてよかった。
静岡県の月からの帰り道「月まで3㎞」の看板裏が見え、林さんが「月の裏側だ!裏側を撮る人はなかなかいませんよ!」と少年のようにはしゃいでいた。
わたしも一応写真を撮ってみたものの、めちゃくちゃ逆光だった。
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