特集 2019年8月13日

岐阜の岐阜による岐阜のための「岐阜ホール」がオープンしたんやて

僕たち私たち、この辺が出身地あるいは居住地です

きっかけは郷里・岐阜の母親から送られてきた画像だった。それは、東京に岐阜県のアンテナショップ「岐阜ホール」がオープンしたことを報じる新聞記事。とにかく、地味な印象を払拭できない県である。実にめでたいことではないか。

東京で岐阜出身者に出会う機会はかなり少ない。運営者にコトの経緯を聞きつつ、思う存分岐阜トークをしてこよう。

※ちなみに「したんやて」とは岐阜弁で「したんだよ」の意

ライター。たき火。俳句。酒。『酔って記憶をなくします』『ますます酔って記憶をなくします』発売中。デイリー道場担当です。押忍!(動画インタビュー)

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「とんちゃん」は岐阜のソウルフード

記事は「『飛騨高山』は有名だければ岐阜となると…」で始まる。本当にその通りで、出身地を聞かれて「岐阜です」と答えると、一瞬沈黙が流れ、振り絞るかのように「ああ、高山とかの」と言われる。

僕は県中央部、濃尾平野の北端に位置する美濃市で生まれ育った。そして、美濃市から高山までは電車で3時間近くかかる。

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こちらがその新聞記事

岐阜のことを考えていると思い出した。近所の飲み屋のマスターが岐阜県出身だ。

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高円寺の「やきとりキッチン はなこん家」

マスター、岐阜のどちら出身でしたっけ?

「武芸川の上流の山県市です。結構な田舎で見どころは自然(笑)。あと、昔の自販機やゲーム機を置いている『岐阜レトロミュージアム』も面白いですよ」

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奥さんは東京の大田区出身

家族で帰省するのは年に1回程度だが、奥さんと娘は「自然がいっぱいで気持ちいい」と言って二人だけでも山県市に出向く。

「高校時代の主人は超大盛りで有名な『みのや食堂』というお店に通っていたそうだけど、私はまだ行けていないんです」

美濃市は「ニュー柳屋食堂」が有名だ。豚のホルモンを味噌ベースのタレと一緒に鉄板で炒める「とんちゃん」は岐阜のソウルフードだろう。

最寄りは鶯谷駅だが上野駅からも歩ける

岐阜愛を思い出したところで、いざ「岐阜ホール」へ。最寄りは鶯谷駅だが上野駅からも歩ける。この日は上野駅から東京芸大の脇を通るルートを選んだ。

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こちらの建物の2階が「岐阜ホール」です 

想像よりこじんまりとしていた。いや、むしろ岐阜のアンテナショップはこれぐらいの規模の謙虚さが似合っている。

取材には編集部の石川君も来てくれた。彼も岐阜出身なのだ。

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レンタサイクルで颯爽と登場

猛暑が続く日々。頭上では降るような蝉の声。中に入るとキリッと効いた冷房がありがたい。

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さっそく岐阜県のイラストマップがお目見え

この日、取材に応じてくれたのは3人。僕と石川君を含めて全員が岐阜出身だ。都内でいま最も岐阜率が高いスポットだろう。

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それぞれの出身地あるいは居住地を指差す岐阜人たち

 

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週に5日はここで仕事をして週末に岐阜に帰る

さて、「岐阜ホール」プロジェクトの音頭を取るのは岐阜市内でリトルクリエイティブセンターを経営する今尾真也さん。広告やウェブなどのグラフィックデザインの他、ショップや街のブランディング、商品の企画開発なども行っているデザイン会社だ。

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県南部、愛知県に隣接する各務原市在住の今尾さん

あれ、東京在住じゃないんですね。

「週に5日はここで仕事をして週末に岐阜に帰ります。都内のカプセルホテル事情についてはだいぶ詳しくなりました(笑)」

今尾さんは就職して2年間だけ東京に住んだことがあるという。

「不動産屋さんで『交通の弁が良い街がいい』と言ったら東新宿のマンションになりました。結構静かだなと思ったら、ホストや水商売の女性がたくさん住んでいて深夜になるとめっちゃうるさいんです(笑)」

一方、残る2人の女性はどうだろう。

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尾関加奈子さん(中央)と小瀬生恵さん(右)

尾関さんは山県市出身で結婚を機に各務原市に移り住んだ。小瀬さんは県最北部で富山県と隣接する飛騨市で生まれ育った。2人とも岐阜から出たことがない。

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今日、岐阜からやって来たとは思いえない軽装

 

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共通して抱えるのは「岐阜といえば」問題

方言に関する話題も出た。捨てるは「ほかる」、画鋲は「画針(がばり)」、学校の掃除の時間は机を「吊る」。

「『吊る』というのは持ち上げて前後に移動させること。よく考えたら2つの動作を表現している動詞だし、机以外には使いませんね」と石川君。

また、5人が共通して抱えるのは「岐阜といえば」問題。「これ」という決め手がないのだ。繁華街の柳ヶ瀬は1966年に美川憲一が発表した『柳ヶ瀬ブルース』で全国に名を知られるようになったが、若い人にはピンと来ないだろう。

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岐阜駅から1kmぐらい離れているんですよね
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柳ヶ瀬アーケード街

今尾さんによれば、一時は人が減ったが現在はリノベーションをした空きビルを借りて出店する若者が増えて賑わっているそうだ。8月18日には「マルイチ」というカフェも新規オープンする。

鮎も誇れる特産品だ。長良川では古代漁法として伝承されてきた鵜飼漁で皇室に納める鮎を獲る「御料鵜飼」が行われる。石川君によれば、鵜匠は宮内庁の職員なんだそうだ。ほう。

あとは岐阜のシンボル、金華山か。岐阜人にとっては富士山のようなものだが、さすがに全国的な地名度は望めない。

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おなじみの風景である長良川と金華山

なお、今尾さんには苦い過去がある。

「特色が少ないし、みんな知らないので就職時は『名古屋出身です』と言っていた時期がありました。でも、一回外に出ると岐阜のいいところにたくさん気付ける。このままじゃもったいないというのが東京に『岐阜ホール』を出した理由のひとつです」

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スタッフの求人をかける前にリトルクリエイティブセンターの前で撮った集合写真

資金はクラウドファンディングで調達。告知を始めたのは今年5月で、企業や個人を合わせて瞬く間に374万円もの支援金が集まった。かくして、7月下旬に晴れて「岐阜ホール」がオープン。以前は六本木に岐阜のアンテナショップがあったが2009年にクローズしている。

さっそく、各務原市内の「はしもと農園」からお祝いの胡蝶蘭が届いた。

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「いつも元気に咲いてくれてありがとう」と語りかける小瀬さん
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尾関さんは2匹の飼い猫を含む4口分を支援

クラウドファンディングのリターンも面白い。「岐阜ホール号」という客船に似顔絵とともに乗船できる権利を得られるのだ。

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おお、そういうことか

当初は1階建ての船だったが、予想以上の支援があったので急遽、大型客船に変更したという。

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左岸は東京の支援者、右岸は岐阜の支援者

尾関さんは自分の他にご主人と2匹の飼い猫を含む4口分を支援した。

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自身のセレクトショップ名、「長月」の旗を持つのが尾関さん
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伊吹山は高尾山に次いで薬草の種類が多い

さて、「岐阜ホール」にはショップとカフェもある。ショップの売れ筋商品を3つ教えてもらった。まずは、和菓子職人と老舗油屋のコラボで誕生した「おからのかりんとう」。

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“大地の味”を岐阜から全国に発信

続いて、各務原市の日本温浴研究所が開発した贈答用入浴薬草ハーブセット。今尾さんによれば「県内の伊吹山は高尾山に次いで薬草の種類が多い」そうだ。

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都内で購入できるのはここだけ

最後は、人気すぎてすぐに売り切れてしまうという「長良川サイダー」。取材当日も売り切れ御免、入荷待ちだった。

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売り上げの一部は環境保護団体が植樹する苗木代に充てられる
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「かみのほ柚子ゼリーソーダ」と「岐阜蒸しぱん」

お次は岐阜グルメを味わいたい。

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ゆくゆくは大人気の飛騨地ビール「古里古里の国」も販売するそうだ

カフェメニューの中から「かみのほ柚子ゼリーソーダ」と「岐阜蒸しぱん」を注文した。

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揖斐川町産のほうじ茶と関市上之保産で無農薬栽培された柚子を使用

ドリンクもパンも感動的に美味しい。岐阜に住んでいた頃は、県内にこんな特産物があるとは知らなかった。

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都内で味わえる岐阜グルメMAPもありますよ

新聞でも紹介され、県内外の自治体が視察に来る

アンテナショップは通常、自治体が運営するケースが多い。しかし、このような形で民間企業が中心になってオープンさせる事例はかなりレアだ。そのため、新聞でも紹介され、県内外の自治体が視察に来るなど大いに注目を集めている。

なお、この場所はレンタルスペースとして借りることも可能だ。全国の岐阜人よ、上野に集まろまい(集まろうよ)。

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料金はこんな感じ

 


岐阜を縦断する「ドラゴンルート」が大ブーム

最後に、今尾さんからステキな情報を聞いた。

「金沢と愛知県常滑市の中部国際空港・セントレアを結ぶ『ドラゴンルート』が外国人観光客の間で大ブームらしくて。当然、真ん中の岐阜県も縦断するのでその魅力をどんどんアピールしていきたいです」

美濃市は「和紙の里」なのだが、こちらの見学ツアーも人気だそうだ。さらに、来たる9月1日には美濃市の有名な和菓子店の娘さんが岐阜ホールでイベントを実施するという。僕の母校、関高校の卒業生とのことなので、こちらもぜひ行きたい。

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撮影用に机を「吊る」2人
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