石に似せるものたち

民家の塀だ。表面が、切り出した石のように荒々しく仕上げられている。そしてところどころ黒い部分がある。コンクリートに黒い石を混ぜたか塗ったかのように見える。
全体として石に似せているのは間違いないのだが、とくに大谷石に似せているのではないだろうか。
参考:大谷石
大谷石にはところどころ、ミソと呼ばれる黒や茶色の穴が空いている。これを表現したのかもしれない。

こちらも大谷石に似せているのかもしれない。茶色い部分がミソっぽい。

大谷石に似せるという意味ではこの塀がすごかった。この距離だと本物に見える。

でも近づくと本当は穴が空いてないのがわかる。縦に入っているスジは、大谷石でよく見るチェーン引きという仕上げに似せたものだろう。
あまりに驚いたので各社のカタログを調べて商品を特定した。リクシルの「外壁タイル ストーンタイプコレクション 大谷石タイプ」だった。

そしてこれはスターバックスコーヒーのお店の前にあったもの。ちゃんと穴も空いてるし、ミソの場所もそれぞれ違うし、本物だと思う。でもあまりにきれいすぎる。どこかのカタログに載っているのでは、と疑心暗鬼になる。

大谷石ばかりになったので、よくあるタイプの擬石を紹介したい。
擁壁の側面に、同じパターンの擬石が延々貼ってあるのをよく見る。何種類かを貼り分けるということもない。いかにも擬石ですという顔で並んでいる。土木っぽい風景だ。
周りに似せるものたち
これもすごかった。

まんなかにマンホールの蓋がある。その上をコンクリートで埋めてあるのだが、溝が切ってあって周りのブロックに似せてある。
こういうのを化粧蓋という。鉄の蓋は真っ黒なので、そのままだと道路の舗装に黒い穴を開けたようになって目立ってしまう。なので周りの舗装に合わせてお化粧をする。
しかしふつうは、ありものを組み合わせるのだ。

これも同じ波型のブロック(インターロッキングブロック) が蓋の上に埋めてある。材料は周囲のブロックをそのまま使っている。これがふつうだ。しかし円形の蓋に収まるように丁寧に切ってあって、とても手間がかかっていることには間違いない。

しかしこれは、いったん中をコンクリートで埋めた上で手で波型の溝を切り直している。そして周りの波型と中の波型が接続するように気を使っているのだ(その部分を赤く描いた)。
舗装に擬態しようとする化粧蓋の執念にはすごいものがあるので、他にもぜひ紹介しておきたい。

まずこれは完全に合わせてきたタイプ。まんなかのKは警察のKで、たぶん信号機につながる各種の線のメンテナンス用。

いっかい小さく切ってから並べ直したタイプ。

同じ素材で並べたはずが、きれいすぎて浮いちゃったタイプ。よくある。

点字ブロックも含めて完全に合わせてきたタイプ。こんなところに蓋なんてありませんよ、とでも言っているかのような擬態ぷりである。
なぜ似せるのか
まず大元は、たとえば木を使いたいという気持ちがある。しかし火災を避けるために木を使えないといった事情で、木に似せたフィルムを使ったりする。似せる事情はさまざまだ。
しかしそうなると、なぜそこまでして木に似せたいのか、つまりもともと木を使いたかったかという問いが残る。分かりやすいのは周囲に合わせたい場合だ。天橋立のシャワー擬木は、まわりの松の木に合わせたかったんだろう。しかしセブンイレブンの外壁はどうしてレンガに似せているのか。
人は木や石やレンガ、あるいはコンクリート打ち放しでもなんでもいいんだけど、それを見たときにある種の感じを持つ。理由を求めることはできないけど、まあそういうものだ。その感じを再現したいということなのだろう。
編集部からのみどころを読む
編集部からのみどころ
三土さんの写真フォルダが火を噴いた記事。序盤に出てきた割れた擬レンガからのぞく配管、大谷石に似せた擬石写真の豊富さ、そして比較対象の花崗岩や大谷石まで、スッと写真が出てくるのは日頃からのコレクション活動の成果です。
「理由を求めることはできないけど、まあそういうものだ」っていう柔らかい締めも三土さんらしい優しさを感じます。(石川)