特集 2021年9月29日

東京のタクシー運転手が必ず受ける「地理試験」を解いてみる

 「蛇崩」っていいたい

ぜつ:やっぱり、試験前に原付きで実際に走ってみて覚えるっていうひともいますね。紙じゃ覚えきれないから。

西村:実際に走れば覚えますよね。

北村:いやー、覚えられるのはビジュアルだけですよ。通りの名前は覚えきれないですよ。

古賀:意識しながら走らないとだめですよね……でも、通りの名前はほんとに覚えたい。あの「なんとか通りを行ってさー、蛇崩(じゃくずれ)のところを曲がってさぁ」とか、蛇崩っていいたいの。いいたいだけ。

林:三宿とか蛇崩っていいたいですよね、駅がないけどみんな知ってる地名。でも三宿っていまだにどこにあるのかよくわからないですよね。想像上の地名みたい。三宿はけっこうガンダーラですよ。 

駅がないけどみんな知ってる地名、蛇崩、三宿

ぜつ:三宿は駅無いのにけっこう栄えてますよね。

林:不思議ですよね。

古賀:しかし、この試験、タクシーの運転手さん、みんな受かってるんですよね、すごいなあ。

ぜつ:僕は受かるまで3回落ちたんですよ。もっとも3回は落ちすぎかと思いますけど、受かる人は一発で受かる人もいます。僕は、東京出身ですけど、多摩ニュータウンで育ったので、都心部はまったくわからなかったんです。

古賀:東京の地理は、電車ベースで覚えてるから、難しいですね。

林:むかし江戸川を知らない運転手がいましたよ。これをこれをこえると千葉ですか? って言うから、それが江戸川ですって言ったら、あー、これが江戸川ですか! って言ってましたよ。

西村:いろんな運転手さんいますからね……。

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 どのへんで営業するのか

西村:ぜつさんは、経堂エリアが専門だっておっしゃっていましたけれども、新宿や渋谷あたりまで出ることだってありますよね。

ぜつ:もちろん、経堂から新宿、渋谷に行くのはまったく問題ないんです。ただ、行った先でお客さんを乗せるとなるとちょっと難しくなるんですよ。

西村:新宿でお客さんを降ろして、すぐお客さん乗せて、たとえば「雑司が谷のどこどこまで」みたいなの言われると困るという感じですか。

ぜつ:そういうときは「あ…っはい……わっかりました……」ってなりますね。

北村:タクシーって具体的に目的地をいわれれば最悪ナビでわかるじゃないですか。でも「なんとか通りのなんとか交差点」みたいなのはナビに入れようないじゃないですか。そういうときはどうするんですか。

ぜつ:まったくわからないと、たしかにお手上げ状態になりかねないんですが、通りの名前を言ってもらえると、我々にとってはけっこうわかりやすくて、助かりますね。幹線道路は最低限把握しているので、ルートを構築しやすいんですよ。

西村:通り名を覚えるのはやはり必須なんですね。

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火事になった家が目印になってしまう……

林:場所の目印で個人宅が目印になっちゃってるところってありますか、例えば「タモリの家」みたいな。

ぜつ:家がランドマークになっちゃってるのは世田谷区だとよくありますね。K(大物歌手)さんの家とか。「Kさんの家の近くなんです」みたいに言われることはありますね。

西村:U(漫画家)さんの家とか。

ぜつ:そうですね、Uさんは吉祥寺界隈のタクシー運転手なら一発でわかるでしょうね。具体的な場所は言いませんけど、よく使われるのはM(スポーツ選手)さんとか、ほかにもT(歌手・俳優)さん、Y(タレント)さんの家もよく出てきますね。

北村:それって、俺らは知らないじゃないですか。タクシーの運転手さんってどうやって知るんですか。

ぜつ:もちろん、こういった情報は積極的に知ろうとして知るわけじゃないんですが、どうしてもお客さんから情報として入ってきてしまうんですよね……。「誰々の家の隣なんだけど」って指示されて「すみません、存じ上げないんですよ」っていうと「じゃあ案内するよー」って言われて……というパターンが多いですね。

北村:口伝で広がっていく感じですね。

ぜつ:あとは、火事で燃えた家がランドマークになることがありますね。

一同:(苦笑)

ぜつ:「燃えたそば屋さんところわかる?」って言われて。

北村:そんな消し炭になってる状態がいつまでも残ってるわけじゃないと思うんですけど。

ぜつ:もうまっさらになった状態なんですけど。目印になるものが無いので、世田谷ではそういうしかないという。

西村:たしかに、住宅街で同じような家が続く場合だと、目印にしたくなりますね。

ぜつ:あと、意外と小学校、神社、寺が覚えにくいんですよね。

北村:神社は同じ名前の神社いっぱいありますもんね。

ぜつ:神社とお寺がごっちゃになっちゃうとか。

林:じゃあ、神社や寺はあまり目印としていわないほうがいい?

ぜつ:もちろん個人差あると思うんですけど、できればタクシー運転手が行きがちな場所をいってもらえると助かりますね。コンビニとか。牛丼屋さんとか。でも、どういったらいいか難しいんですけど……言われてすぐわかるコンビニがある一方、逆に言われてもわからないマイナーなコンビニもあるんですよ。

北村:その差がわからないなあ。

林:駐車場のあるコンビニとかだとすぐわかる?

ぜつ:そういうのはタクシー運転手が行きがちだからわかりやすいですね。

西村:コンビニは同じようなのがいっぱいあるから、逆に分かりづらいかとおもってました。たしかに、小学校って子供が通ってなければ用事がないからわからないですよね。小学校までタクシーで行くっていうシーンもあんまりなさそうだし。

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実戦向き施設とは 

西村:地理試験に出てきた施設、ホテルとか大学とか区役所みたいなのいろいろ出てきましたけど、実際によく行く施設っていうのはどれですか?

ぜつ:たとえば、大使館って試験問題でよく出るんですよ。おそらく出しやすいからだと思いますけど、実戦ではほぼ使わないです。

林:アメリカ大使館まで行くひとっていないですか?

ぜつ:たしかに、アメリカ大使館はランドマークとして使われることはありますけど、そのひとは実際にアメリカ大使館に行くわけでなかったりしますから。大使館に行くひとはほぼいないですね。

西村:フィジー大使館とか言われても、どこだよってなりますもんね。

ぜつ:ランドマークとして成立している、アメリカ大使館とかロシア、中国みたいなのは覚えますけど。それ以外は(覚えるのは)後回しになっちゃいますね。あと、大使館は港区に集中しちゃうからややこしいっていうのもありますね。

北村:経堂からよく行くのはどこですか?

ぜつ:病院で言うと、関東中央病院に行くことが多いですね。

林:関東中央病院ってどこの駅からも遠いですよね。

西村:そうか、病院に行くひとって基本的に体調が悪いわけだから、タクシー使うんですよね。

ぜつ:さらに付け加えると、総合病院って駅前にはなかなか無いんですよね。世田谷区内だと、世田谷中央病院とか、成育医療センターとか、どれも鉄道の駅からは遠いんですよ。タクシーでちょうどいい距離なんですよね。

古賀:なるほど。

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経堂周辺は迷路 

林:経堂周辺についでですけど、経堂周辺って道がすごいんですよ。 

林:地図をみると、駅前から西に向かう場合、曲がる道を間違えると、いつのまにか北に向かって走ることになるんですよね。駅の東南のあたりは区画整理されてるんですけど、西南の部分がグニャリと北に向かって曲がっていて、一方通行も多くて、ものすごく複雑なんですよね。

ぜつ:そうです、このあたりは一方通行が厄介で、よく見ると区画整理されているところの道も一方通行が設定されていて、中に車が入れないというか、入らせないような構造になってるんですよね。

ぜつ:同じようなことが、もうちょっと南の用賀周辺にもいえて、用賀周辺は区画整理されてるんですが、一方通行が細かく設定されていて、迷路状になってるんです。これは、となりの渋滞しやすい環八通りの抜け道に使われないようにわざとそうなっていると言われていますね。 

林:攻め込んできた敵を迷わせる構造の城下町みたいですよね。

北村:たしかに、小田急線沿線とかはクルマで行きたくないイメージありますね……。


地理問題に関しては現役タクシー運転手よりも点数が高いウェブマスター

タクシー運転手の話を聞くのに夢中になってしまい、すっかり地理試験の結果をまとめるのを忘れていた。

以下、試しに解いてみた問題の合計点はこちら。※40点満点

林 28点
北村 17点
ぜつ 27点
西村 26点
古賀 15点

32点には届かなかったものの、林さんの異常な高得点ぶりが目立つ。現役のタクシー運転手よりも高得点なのはいったいどういうことなのか。はやく免許を取りに行くべきだろう。

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