失敗も不条理
デモ映像に見えなくてボツにしたものもある。
電気屋さんのテレビ売り場で奇妙な映像が流れていた。恐らくなんの意味もないんだけど、だからこそ目が離せないような不思議な魅力がある。
この雰囲気、自宅で再現したくてやってみた。
電気屋さんのテレビ売り場を通りかかったら、大きなテレビにこんな様子が映っていた。
『鉄琴をひっくり返したような物体の上にどっちも下半身になったボウリングのピンが浮かんでいて、鉄琴のパイプの部分が波打つように伸びたり縮んだりしていて、それに合わせてボウリングのピンが回転している』
文字で言われてもさっぱり分からないと思う。正解はこちらです。
デモ動画である。賑やかなテレビ売り場の中、これを見ている間だけ周りが静かだった。
こういう滑らかな動きを繰り返す置物ってあるとなんとなく見ちゃうが、テレビ売り場で高画質で流れていると独特の味わいがある。
他のテレビは世界の絶景とかアーティストのライブを流していて、このなんとも言えない動きをする物体が特別不条理に思えた。
そんな中、これである。
数学の世界では有名な動きだったりするのだろうか。
分からない。分からない僕にとってはただただ不条理に感じる。そしてこの分からなさが魅力的だと思った。
この不条理デモ動画、電気屋さんを何箇所か回って集めてきた。
意味の分からなさを際立たせたいので、画像を出す前に文字で何が起きているか説明します。
過剰にたっぷりと、意味ありげにトマトを見せる。こういう不条理もあるのだ。
こういう不条理動画を、自宅で撮ってみたいと思った。
電気屋さんの映像には『テレビの性能を伝える』という目的があったが、それすらも無くなる。ただ今まで見てきた映像たちの、謎の迫力や説得力だけを再現してみたい。
4つできたのでここから下に貼っていきます。追って紹介するので、全部再生しなくても大丈夫です。
電気屋さんで見たトマトの映像である。ああいうのであれば僕にもできる気がする。
もったいぶってゆっくりフェードイン。「もっと見たいだろうけど、今日はここまで」とゆっくりフェードアウト。
新しいiPhoneみたいに見せているのは、冷蔵庫にあったニンジンである。
最初の動画を撮って少し疲れたところで頭が真っ白になり、限りなく無意識に近い状態で目に付いた材料を組み合わせていた。
三脚とカメラとワイヤーとクリスマスツリーの飾り。
物体そのものの意味の無さが不条理、という理屈である。
こういう風に説明してみると、電気屋さんで映っていた映像と似た雰囲気があることが分かる。良い不条理ができた、と言ってもいいだろう。
色んな風に撮ってまたボワーっとつなげる編集をした。
先ほどまとめて紹介した動画の他、撮ったはいいけど動画にするほど分量の無い素材がある。ここでショート不条理として紹介します。
そろそろ「そんなもん見せられても」と思うかもしれない。
しかし最初の動画から情報はゼロなのだ。ゼロの動画をいくつ見たってゼロ。何も不安に思うことはない。大丈夫だ。この記事を読む前のあなたと読んだ後のあなたはぴったし全く同じ人間である。
いつも通りノリノリで手伝ってくれた。
それでもいつの日か「これなんの意味があるの?」と聞かれる時が来るんだろう。何事にも終わりはある。あまりに意味の無い撮影なので、いつも以上にそのことを考えた。
最後はこちらの二つである。
重力に従って伸びていくスライムがいい感じで不条理だった。
ここまでやってヘトヘトになって、撮った動画の良し悪しが分からなくなってきた。
『鉄琴ひっくり返した物体の上をボウリングのピンがぐるぐる回る動画』の雰囲気を目指して『三脚に取り付けたスライムがゆっくり崩れていく動画』を撮って、良いか悪いか考えるのだ。
頭が疲れるわけである。
自分で考えても埒が明かないので、別の部屋にいた妻に背景を説明してこの動画を見せた。
なんだかすごく笑っていた。僕はなんで笑っているのか分からず「こわー…」と思ったがその動画を撮ったのは僕だ。
分からないがなんか笑っているので、その点にのみ満足して撮影を切り上げた。
不条理デモ映像、魅力に取り憑かれて向き合いすぎると危ない。ほどほどにしよう。
デモ映像に見えなくてボツにしたものもある。
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