一度経験すると意識が変わる
避難器具は、作るのも設置するのも点検するのも、すべて消防法で規格や基準が決まっているそう。命を預けるものだから当然だけど、もちろんその基準をクリアするのは簡単ではない。
避難器具を一度体験してみて、「もしものことがあってもこれを使えば避難できる」という安心感と、「これをいつでも使えるようにするのって当たり前じゃないよな」というありがたみを感じた取材でした。
取材協力:オリロー株式会社
屋上に設置されている避難器具、最後は「緩降機」である。家崎さんは「うちの主力製品」だという。
緩降機のセッティングはこうだ。屋上に固定された支柱を伸ばし、逆L字の形にする。そのL字の先端にあるフックに、「調速機」と呼ばれる機器を取り付ける。
調速機からは長短2本のロープが伸びており、それぞれの端には体に着用するベルトがついている。
家崎さん 井戸のつるべってありますよね? 水を汲んだ桶を上げると、もう片方の桶が下がる。緩降機も同じ仕組みなんです。ベルトを着けた人間が下に降りると、もう片方の空のベルトが上がってくる。そうやって交互に人を降ろす避難器具なんですよ。
ロープの長さには差があって、長いほうのロープはリールに巻かれている。井戸のつるべでいうと、水面に近いほうの桶にあたる。
奥野さんは輪になったベルトを頭からかぶり、胸の辺りでギュッと締めた。脇の下から拳1個分下くらいがいいらしい。
そしてその様子を見ている我々は、これから起こることが徐々にわかってきた。
と同時に「この次に自分がやるんだよな」と思い出し、「あぁ……」と小さく息を吐くのだった。
奥野さんが地上に着くまで約10秒。緩やかに降りるから「緩降機」である。なるほど……。
ベルトを頭からかぶり、家崎さんにギュッ!ギュッ!と強めに締めてもらう。
下をのぞき込むとリアルに高い。超高層ビルから見た現実味のない高さではなく、ちゃんと「落ちたら大変だな」と実感できる高さ。
その様子を見ていた橋田さんから「(この高さ)空中ブランコぶりじゃないですか?」と言われる。 あれは7年前ですね……。
ベルトを巻いたら、屋上のヘリに座る。右手でロープをつかみ、体を反時計回りに半回転させ、手を離して宙づりになる。
ここが一番怖かった。さっきの救助袋と違い、すべての景色が見えるのだ。ここで15分くらい動けなくなる人もいるらしい。無理もないと思う。
それでは地上に降りるまでの一部始終をご覧ください。
ぶら下がったら、小さく前へならえの姿勢で壁に両手をつける。そうしないと着地したときにバランスを崩し、最悪の場合後ろから倒れてしまうから。
でもあとから動画を見たら、すっかり手が縮こまっていた。降りている最中は目の前の壁を追うのに必死。あと、風がない日で本当によかった。
この後、橋田さんも挑戦。地上からの映像をご確認ください。
以上で屋上での体験は終了。屋上と地上を4往復くらいしてしまった。
家崎さんによると、一通り体験が終わったあとに「会社に帰ったらみんなで試してみます」と言い出す人がいるそう。「絶対にやめてください」と必ず止めるのだとか。
家崎さん うろ覚えでやるのが一番危ないんです。使い方を間違えると大変なことになりますから。避難訓練は、必ず消防設備士や消防設備点検資格者などの立ち会いの下で行ってください。
もちろん、有事の際は経験の有無にかかわらず避難するしかない。でも何も起きていないのに、使い方を間違えて怪我をしてしまっては本末転倒だ。
そもそも避難器具は「最後の手段」なのだという。
家崎さん 「火事になったら避難器具で逃げなきゃ!」と思うじゃないですか。そうじゃないんです。火事になったら、まずは非常階段で避難するのが最優先です。
火の手が回って階段が使えないとか、救助に来た消防隊員が戻れなくなったとか、そうした最悪の事態のときに使うのが避難器具。使うのは、1人か2人の世界なんですよ。
最後に、普段の生活で避難器具が気になることがありますか?と聞いてみた。
奥野さん 気になりますね。外を散歩していても、マンションにどんな避難器具がついているか目で追っちゃうんですよ。避難ハッチはメーカーによって下ブタの形状が違うので、「あれは○○社だな」ってひと目でわかります。
家崎さん 会社の飲み会でも、2階や3階にある店だと窓側の避難器具をチェックしますね。社員旅行でホテルに行ったときは、避難経路を確認してみんなで見に行ったり(笑)
奥野さん 僕マンションに引っ越すときも、ちゃんとオリローがついてるか確認して引っ越ししましたよ。完全に職業病ですよね(笑)
避難器具は、作るのも設置するのも点検するのも、すべて消防法で規格や基準が決まっているそう。命を預けるものだから当然だけど、もちろんその基準をクリアするのは簡単ではない。
避難器具を一度体験してみて、「もしものことがあってもこれを使えば避難できる」という安心感と、「これをいつでも使えるようにするのって当たり前じゃないよな」というありがたみを感じた取材でした。
取材協力:オリロー株式会社
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