特集 2023年7月29日

ストレスフルな毎日を過ごす現代人へ。「暗食」のススメ

「暗食」は後ろ向きな解決策ではない。むしろ攻めの姿勢で逆ゲーテ

「暗がりで味、ちゃんと分かるの?」という疑問を抱かれる方もおられるだろう。うん、まあ、分かりますよ。

「お前の心が病んでるだけだろ!」。仰りたいことは分かります。実際、妻に何度も「やめて欲しい」と言われている。

ドアを開けたらパートナーがこの状態でボーっとしているのだから、無理もない

妻からしたら、私が本当に弱ってるように見えて心配なのだと思う(念のため言っておくが、深刻な心のダメージを負っている方はすぐに医者や専門家に頼ってください)。だが、若干の憂鬱さとの付き合い方として、暗食は弱いどころかむしろ攻めの姿勢と言える。

昔、赤瀬川原平さんが「疲れた時は思いっきり疲れた顔をすると気持ち良い」と言ってたそうだが、暗食はこの発想に近い。洞窟の闇を恐れて外の光に逃げるのではなく、むしろ積極的にその場にとどまる。そしたら、ほら。心も目もじんわりと暗がりに慣れてきたでしょう?

ゲーテが「もっと光を!」と言って死んだなら、私は「もっと暗く!」と叫んで生きる。逆ゲーテ。 

既に暗食の時代は来ている?

こんなことやってるのは私だけかと思ったが、暗食の良さを周囲に説いているうち、他にも実践者がいることが分かってきた。例えばDPZライターの窪田さんもその一人。

窪田さんは普段、神職として神社で働いている

暗食は殆どの場合、仕事の合間の昼食時にやっているそうだ。 

元々暗い半地下の休憩所の電気を消して…
神職の方が暗食をすると、厳かな儀式の趣がある

窪田さんからは以下のようなコメントも頂いた。

「暗い部屋でご飯を食べると落ち着きますよね。味は別に変わらないと思います。確かに他の人から心配されるんですけど、そもそも明かりとか眩しいのが苦手で休憩中はひっそりと過ごしたいんです」

私が暗食をする理由と驚くほど一致している。私も暗食をするのは殆どが仕事の合間の昼食時で、夜はやらない。せわしなく動いている昼間は、休憩時くらい心を落ちつけたいのだ。 

仕事の合間、ひと時の落ち着ける時間。光はいらない

窪田さんからのコメントは、次のような文章で締めくくられていた。

「寿司やクリスマスケーキなど賑やかで祝宴の感じがするハレの食事と、カップ麺やスーパーの半額弁当など、ただ生命をつなぐためだけに食するケの食事があると思ってて。

ケの食事は独り暗い部屋で食べても違和感ないし、食べ物も、食べている俺も光を当てるほどの存在じゃないんで」

このコメントを読んでから窪田さんの記事を読み返すと、今までと違った趣がある。かつて漫画版『風の谷のナウシカ』最終巻で「お前は危険な闇だ。生命は光だ」と問い詰められたナウシカが、「ちがう。いのちは闇の中のまたたく光だ」と叫んだのを思い出す。

暗食という日常の闇から、記事というまたたく光が生まれているのかもしれない
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「低刺激生活」の時代が来る?

実は暗食以外にも「面白過ぎない映画やテレビを見る」「熱くも冷たくもない、ぬるい料理を食べる」など、あえて低刺激なものを選択する機会が増えた。DPZ林編集長は、たまに電気を消して風呂に入っているそうだ(「暗浴」ですね)。我々は、単純に年をとっただけなのだろうか?

否。過剰な刺激が容易に、どこでも手に入る時代だからこそ、「低刺激生活」を選択する波は年齢に関係なくすぐ近くまで来ている。事実、まだ若い人からも暗食をやっていると聞いたことがある。本当だ。1人しかいないけど。

心がなんか重苦しい時。皆さんもまずは騙されたと思って、電気を消してご飯を食べてみて欲しい。暗食のススメ。暗がりが皆さんの心を仄かに照らす。

さあ。冷やし中華食べ終わったので、デザートいってみよう!

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