とさかはおいしい。というか鶏がおいしい。
とさかを巡り奔走する結果となったが、フランスの貴族や大場久美子が夢中になるわけがわかった気がする。きれいになれるというのが一番のポイントかもしれないけれど、私は十分おいしいと感じたし、また食べたい。
鶏のとさかはとてもおいしいという話をきいた。
フランス料理にはよく用いられ「そのおいしさは感動的」らしい。
本当なのだろうか。食べてみたい。
※2010年6月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。
いきなりですが、ここで「世界奇食大全」という著書の引用をさせてください。
今の豪華なフランス料理の基礎が築かれたのは16世紀だと言われている。そのきっかけはイタリアのメディチ家のお姫様カトリーヌがフランスの公爵に嫁入りした事だった。それまでのフランス料理は手づかみで丸焼きの肉にむしゃぶりつく粗野なスタイルだったが、彼女がイタリアからお気に入りの料理人やデザート、食器類、テーブルマナーなどすべてを持ち込んだ事でフレンチに革命がおきた。
そんなカトリーヌがこよなく愛したのが「鶏のとさかのパテ」だった、というのだ。
どうやら日本にも食べられる所はあるらしい。しかしそれはフランス料理屋ではなく、ごく普通の焼き鳥屋だという。
インターネットでお店をさがし、行ってみることにした。
とさか体験には、知り合いの登坂さんに同行してもらう事にした。ダジャレだ。
実はあの本をくれた人でもある。だからと言って彼からとさかを食べたいなどとは一言も聞いていないが、「登坂さん」なら同行させねばならないでしょう。常識的な判断だと思う。
そのお店は神楽坂に軒を構える焼き鳥屋さんだった。あまりに普通すぎて意外なほどだった。変な食べ物があるようには見えない。
とさかを注文すると、他の串と一緒に盛られてさりげなく出てきた。
一見同化しているが、遅れて飲み会に来た人が「あれっ?」と二度見するような違和感がそこにある。
感想をもらいました。
うまく例えられませんが、色以外見た目はかっこいいと言うか、想像の冠らしいかなと。
食感はクニュッとしてて触った感じの耳たぶに近いかなと思いました。
噛むとゼラチンとかコラーゲンを感じます。それに塩振って焼いたような。ヒアルロン酸とか肌に良いと言われれば良さそうな。
でも食べ物としてまた食べたいとか人に勧めたいとは思わないですかね。
最後の一文が、素直でよいと思いました。
今写真を見ても、奇妙な物を食べている人の顔だらけだ。わかりやすい。
食べてみると、ほぼ登坂さんの感想と同じだった。まずくはないけど、おいしいかといわれるとちょっと自信ない。食感は面白いけれど、それ自体に味がない。
ただ食物の魅力として、コラーゲンやヒアルロン酸が豊富というのは強い。まさにそれ自体を食べているようで、市販のサプリより効果絶大なのもわかる。
ちなみに、あの本には「ねっとりとした液体が、官能的に溢れだし、舌に絡みつく。それはほのかに甘く、シュークリームにも似ている。」と書いてあった。前半のエロティシズムも気になるが、シュークリームという例えに物申したい。こんなシュークリームないぞ。
きっと、もっとおいしいとさかがあるはずだ。あの本に書いてあった表現が嘘には思えないのだ。
日を改めて、とさかを扱う鶏肉屋に行くことにした。
すべてはうまいとさかのために。
千葉県柏市にある「鳥正」 は創業から85年を超える老舗の鶏屋さんで、とさか単体の販売もしている。
足を踏み入れると、職人さんがもくもくと鶏を捌いていた。スピード感あふれる包丁の動きがたくさんの鶏をつぎつぎと解体していく。
しばらく、その風景に圧倒されてしまった。
熱湯処理され桜色になっているが、このとさかは今朝まで真っ赤だったのだ。
職人さんと、店長の伊藤さんにお話をきいた。
--とさかは売れていますか?
伊藤さん「40~50人はリピーターがいるね。ほとんど女性だけど。食用以外は、化粧品会社におろしている。うちらも、これを触っていると手がつるつるするんだよ。」
職人さん「ずいぶん昔の話だけど、おねしょの薬としても食べられていたんだよ。」
--えっ、おねしょに効くんですか?
職人さん「18才の女性がおねしょに悩んでいたのだけど、とさかを食べ続けたら治ったんだ。焼いたり、スープにして食べただけだけど。」
--それはすごいですね。
職人さん「うん。そんな事もあるんだなあ。あととさかは、大人になるとメスのほうがうんと大きくなるんだよ。」
--他のお店ではなかなか売っていないですが、なぜとさかを売ろうと思ったんですか?
伊藤さん「4年前くらいかな、テレビみてたら、大場久美子がとさかを食べていたんだよ。お肌にいい!って言って、スープで食べてて。へえ~、と思って。」
--それで売ることにしたんですか!?
伊藤さん「あんなの売れるんだ、って思って。」
--ということは、大場久美子のおかげなんですね。
伊藤さん「そうだね。それまでは捨ててたよ。商品になっても今までは犬のエサだったから。」
そういえば事前に鶏のとさかについて調べた時に、犬用のジャーキーばかりが出てきて人の口に入るような商品は出てこなかったのを思い出した。
ちなみに、とさかを食べさせると毛並みがつやつやでテカテカになるため、ドッグショーに出す犬には向かないらしい。ショーでの判定基準では、毛並みが少々ワイルドなほうがよいらしいのだ。
知っている人は知っていると思うが、ちゃんこ鍋に鶏肉が使われるのは、四つ足が負けを意味するので縁起を担ぐためらしい。なるほど!
他にも、
・砂肝が大きく育つようエサに混ぜる石がある
・やげんの軟骨のやわらかさで鶏の若さがわかる
・鶏のハラミは一羽から4グラムしか取れない
・香港で頭の開きを出されてどこを食べるのかわからなかった
など、すごく面白い話が聞けた。最初はとさかを求めて行ったけれど、帰る頃にはニワトリそのものが好きになっていた。とさかだけじゃなくまるごと食べたいわという鶏肉欲。
さて、新鮮なとさかを手にいれた。どうやって食べようか。
そうだ、あのコンロで焼いたらおいしいのではないか。
知り合いの焼き肉屋に「とさかを焼かせてもらえませんか」と頼むと、まさかの快諾。
この場所でとさかを焼いたら、絶対おいしいはずだ。
クーラーボックスに夢ととさかを詰めてやってきた。
焼き鳥屋で食べたものよりも大きく、厚みがある。そしてトングでこのコンロに並べると、ぐっと魅力的なビジュアルになる。これは覚えておきたい。 とさかがそうなのだから、どんな肉でもそうなのだと思う。
先端にちょっと焦げ目がついた頃に、塩を振っていただく。
じゅわっ!っと肉汁(とさか汁?)が口の中ではじける。おお、なんだこのジューシーな食べ物は。
外側はカリッ、中はじゅわっ!だ。一回目に食べたものとは明らかに違う。ちゃんと味を感じることができた。とさかが本気を出してきたようだ。
お店の方がレモン汁を用意してくれた。塩とレモンで食べると高級味が増し、お店の雰囲気も手伝い上品で貴重な何かを食べているようだった。これは人に薦められる。
すっかりおいしい焼き肉にうつつを抜かしてしまった。我らがとさかを忘れてはいけない。
つぎは、大場久美子にあやかってスープを作ります。
鳥正では、普通サイズと特大サイズを販売していた。
「帰宅したら冷蔵庫に鶏のとさかが入っている家って結構こわいよ。」妹にぼそっと言われた(今ではそういう事があっても私が来たのかとしか思わなくなったらしい)。言われてみるとそうかもしれません。ごめんなさい。
塩を振って食べてみると、予想以上に固かった。豚足の歯ごたえを倍増にした感じだ。何かに似ている……。
そうだ、ミミガーだ。
味自体は薄いが、コラーゲンやヒアルロン酸が溶け出している感じはある。とろっとしていておいしい。
茹だったとさかをポリポリと食べると結構おなかが膨れるので、ダイエットとしてもアリだと思う。
細く切り、青菜と炒めてみるとまさにミミガーだった。コリコリしておいしい。丸のままよりも食べやすくなった。
飲み物やスープに混ぜるコラーゲンの粉末の味が苦手人は多いと思う。私も苦手で、毎日続けようとしてもなかなか減らないのだ。でもこれならまったく臭みがない。毎日摂るなら迷わずこっちだ。
とさかを巡り奔走する結果となったが、フランスの貴族や大場久美子が夢中になるわけがわかった気がする。きれいになれるというのが一番のポイントかもしれないけれど、私は十分おいしいと感じたし、また食べたい。
取材協力: 鳥正商店 焼肉 香月 |
※編集部注:現在は取り扱いがないようです
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