特集 2021年4月5日

泡がもこもこ!ビール風ドリンクを作った

ビール?いいえ、レモンティーです。

子供のころ、ビールの泡が好きだった。
もこもこした泡はかわいいし、ビールを飲んで泡を口ひげのようにくっつけている大人は楽しそうに見えた。

現在ならこども向けのビール風ジュースが販売されているが、私の幼少期にはまだ存在していなかった。
炭酸ジュースの注ぎ方を工夫して、自力でもこもこ泡を再現しようとしては、ふくらむことなく消える泡に首を傾げていたと記憶している。

成人をとうに過ぎビールも飲めるようになった今、童心に返り、泡立つジュースを作りたい。あわよくば口ひげを乗せたい。幼女時代に抱いていた、もどかしさを晴らすのだ。

愛知県出身、東京都在住のデザイナー。イラストを描き、写真撮影をして日々を過ごす。
最近は演劇の勉強に熱中。大きなエビフライが好き。

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ビールの泡の生み出すための材料

泡ひげを作るためにビールの泡の成分に注目した。調べてみると、秘密は二酸化炭素とタンパク質にあるらしい。
泡の素である二酸化炭素(炭酸ガス)を、ビール特有の成分が包み込むように作用するという。
その成分のひとつが、タンパク質だ。炭酸ガスは表面をコーティングされたようになり、結果泡が長持ちするのだとか。

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炭酸系のお酒も、ビールのように泡立ったりしない場合がほとんど。

つまり、普通の炭酸ジュースでも、タンパク質を加えればビールのようなもこもこした泡が生み出せるのではないか。作ってみよう。

実験のために用意したのは、ゼラチンと重曹、そしてクエン酸。この3つをいい感じに組み合わせれば、飲み物と混ぜるだけでビールのような泡が生まれる「ビール風ドリンクの素」ができるはずだ。

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パッケージカラーがマゼンタ、シアン、イエロー。

ゼラチンはタンパク質から作られているということは、記事「ホースでゼリーを作る」を執筆する際に、ゼリーの原料について調べていて知った。味もほとんどしないので、今回の実験にちょうどいい。

「ビール風ドリンクの素」の作り方自体は、重曹とクエン酸を水に混ぜるという炭酸水のレシピをアレンジすることにした。このレシピは以前炭酸水メーカーについて調べているときに知った。

くわしい方法は先で説明したい。さっそく実験にとりかかろう。

ビールの泡はこうして作る

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沸かしたお湯にゼラチンを溶かし、よく混ぜる。ゼラチン同様、重曹も冷たい水には溶けないのでこのタイミングで入れた。しかし既に泡立っているような。いいのかな。
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ゼラチンと重曹を溶かしきった液体がこちら。ゼラチン重曹液と呼ぼう。

鼻を近づけてみると、何とも表現できないにおいがモワ〜ンとした。ゼラチン臭だと思うが、口に入れるのが少しこわいくらい、強めににおう。

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においのことは一旦忘れて、作った液をほんの少しグラスに注ぐ。そこにクエン酸をひとさじ加える。
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グラスにクエン酸を入れた途端、小さな泡が発生!

重曹を鍋に入れた時よりはっきりとした泡がでてきた。むずかしいことはわからないが、いい感じに炭酸水ができているということなのでは!?
ここに飲み物を加えて、ビールのような泡ができたら成功だ。

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無炭酸には炭酸をくわえよ

いきなりビール風ができたことにより満足しかけてしまったが、そもそもコーラには炭酸が含まれている。無炭酸の飲み物でも試してみよう。

せっかくなのでビール代わりに飲みまくっていた思い出のジュース代表、コーラを注いでみることに。
「今炭酸水作ったのにコーラを入れるの?」と思うかもしれないが、ここは一旦スルーしてほしい。

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ジョワーー!

液体と液体を混ぜ合わせただけでビール泡、いや、コーラ泡が!

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ちょっと多めに注ぐと、グラスからちょっと飛び出してとどまるところもビールの泡そっくり。
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念願の泡ひげは少しすっぱい味がした。

コーラの表面が見えるまで観察する気でいたが、そこそこ待っても消える気配が無かったので飲んだ。目の前の泡に耐えられなかった。それでも5分は待ったことを報告しておきたい。

先ほど感じた不安になるにおいは、コーラの香りにまぎれたのか気にならなくなっていた。

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左のグラスは普段通り注いだコーラ。写真をとる間もなくあっという間にはじけてしまった。

料理とは科学だとよく聞くが、これは調理室で理科の実験をしているような気分。

コーラのボトルにメントスを入れて吹き出させる遊び「メントスコーラ」も、コーラの中の二酸化炭素がメントスのタンパク質と反応しているらしい。そう思うと今回の泡の爆誕っぷりも納得である。

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家にあったレモンティーで試してみた。あきらかに泡立ちが悪い。なんならこの中途半端な泡は必死でかき混ぜて起こしたものである。
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泡立たない上に、ぬるりとした口当たり。私の表情筋がこれはダメだと言っている。

無炭酸でもいけるのでは!?と淡い期待を(泡だけに)抱いていたが無理っぽい。おまけに味もおいしくなくなってしまった。

重曹とクエン酸で作った二酸化炭素はなんだったのか。仕事してないじゃないか。ちょっと反則技っぽいが、市販の炭酸水を加えることで強制的に泡立たせることにする。

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作り直し。ゼラチン重曹液とクエン酸を混ぜたのち、炭酸水を注ぐ。その直後に大量の泡が発生することから、やはり二酸化炭素に反応しているということがわかる。

炭酸水もそこそこに、さらにレモンティーを加えたものがこちら。

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ビールかな。
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つまみを添えたらいい感じの晩酌になった。ビールだな。

錬金術か、マジックみたいだ。飲めばなんてことない(微炭酸)レモンティーだが、見た目は子供の頃にイメージしたビールそのもの。楽しい。

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右から炭酸水、レモンティー、レモンティー。

他のドリンクももこもこにした

当初の狙いとは違うけれど、とにかく炭酸水とゼラチン重曹液、クエン酸を入れれば無炭酸飲料でもビールのような泡ができるようだ。この方法をいろんなドリンクで試してみた。コーラ以外の炭酸飲料、スポーツドリンク、無糖飲料、野菜ジュースなどなど。

そのうちどの飲み物でも「ビールのような泡」を作ることができたし、炭酸のシュワっと感が備わる以外は飲んでみた印象もほとんど変わらなかったが、そのなかでも特に印象に残った3種類を紹介したい。

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見た目さわやかな、はちみつ黒酢。
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ちょっと色が薄すぎる気がするが、青島ビールだって言われたら信じる。

要は黒酢のソーダ割りだが、見た目がお酒っぽいぶん飲みやすくなった。視覚情報に惑わされている。

お酢を飲むということに抵抗感が強い方だが、酸味の強いカクテルだと思えばいける。お酒を飲んでいるつもりで健康になれてしまう。

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ウェルチは遠目で見ても泡が重い。

100%ぶどうジュース、ウェルチ。味が濃いので炭酸水で薄めても大きな変化が無さそう、という理由でチョイスした。実際その通りだったのだが、泡の変化が気になった。

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泡が濃密……を通り越して、メレンゲのようなカタマリになっている。

立派な泡ひげ作りに最適な、しっかりとした泡ができた。しかし飲めば飲むほど泡は口から遠ざかっていくので、一向に泡ひげを生やすことはできず、砂漠のオアシスのようだった。

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泡の裏側。何かの成分に反応していたらしく、細かいぶどうの皮のようなものがびっしりくっついていた。

 

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最後は果実感が強い、いちごのスムージー。見た目がかわいい。

最後はカップのスムージー。素材感のあるドリンクのなかで、これが一番おもしろかった。
見た目も味わいも他の飲み物とは異なるのだ。

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よく見ると液体部分に泡がとどまっている。

泡立ちが足りていないようにも見えるが、実際はジュースの中の果肉が表面近くにまで上ってきていて、泡と一緒に浮いている。飲んでみると、とろけたマシュマロをのような、とろとろ・ふわふわとした不思議な食感が生まれていた。病みつきになるうまさで泡ひげを試すのを忘れた。

くわしい人に聞いてみた

最終的に実験はうまくいったが、無炭酸ドリンクはなぜ泡立たなかったのだろう。理科の先生でもあるDPZライターの加藤まさゆきさんに聞いてみました。

【加藤さんコメント】

レモンティーを注いだ際に泡が発生しなかったのは、そもそも二酸化炭素が水に溶ける力はそんなに強くないからです。レモンティーにクエン酸と重曹を混ぜて炭酸になるかというと、ほぼほぼなりません。

市販の炭酸水は、機械で加圧して大量の二酸化炭素を無理くり溶かしこんでいます。
クエン酸と重曹を混ぜて作った炭酸水はそういったプロセスを踏んでいないので「ほんのり二酸化炭素が通過した水」レベルなんですね。さらにナトリウムの味がするので、まずくて弱いひよっこ炭酸水。

そういう意味では無炭酸の飲み物で泡を作るために、重曹とクエン酸で作った炭酸水ではなく、市販の炭酸水を入れたのは正解です。

なるほど!炭酸の「強さ」は意識していなかった。
炭酸が抜けかけたジュースや、微炭酸飲料もほとんど泡立たない。重曹とクエン酸でできるものが「二酸化炭素が通過した水レベル」なら、そりゃ泡立つはずがない。

モヤモヤと謎が残っていたが、加藤さんのおかげで腑に落ちた。

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身近で純粋なたんぱく質を用意するなら卵白が一番使いやすいと聞いたので試してみた。かんたんに立派な泡ができたが、細かな卵白がグラスの中を舞うので、飲むにはちょっと勇気がいる。

夢があるぞビール泡

「お酒は飲めないが、お酒への憧れはある」という意見を下戸の友人から聞いたことがある。
今回作ったビール風ドリンクを飲み会で用意できれば、お酒が弱い人に雰囲気だけでもビールを楽しんでもらえるのではないか。
泡が増えていく様子もおもしろいし、割り物によっては想像してもいなかったような新たな飲み物ができる可能性もある。親しい人たちと集まって、わいわい試してみたい楽しさがある実験だった。

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桃ピューレ入りサイダー。果肉入りジュースは間違いなく泡がうまい。とろふわ泡ドリンクで開業しよう。

 

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