立体作品は良い
野外に立体作品があると色んな方向から像を見て、景色と一緒に自由に楽しむことができる。銅像巡り、楽しかった。
体操の基本の姿勢をとる時、あと発声を習う時にインストラクターの人に「足を肩幅に開いてください」と言われる。体を動かしやすい立ち方なのだろう。
慌てて自分の肩幅を思い出して足を開くが、結局、ちゃんと肩幅ぐらいに足を開けていたか確認する間もなく体操は終わる。自分の肩幅って自分で見えないから確かめるのも大変なのだ。
というか確かめたことがない。足が肩幅に開けているかどうか測ったことがないのだ。
皆どうなんだろう。ここぞという時にしっかり肩幅に足を開いて立つのだろうか。銅像で調べてみた。
つまりこういうことだ。
そして肩幅に対して足の開きが何パーセントあるのか調べる。
別に銅像はこれから体操するわけでも発声練習をするわけでもないのだが、どうせなら動きやすい姿勢の方がいいだろう。
…こうやってこじつけているが、結局なんだか気になったので測りたいから測る。そういう気持ちの時があるのだ。
数日間で23体の銅像を見て回った。結果をまとめたものがこちらである。
人類史上最も豪華な表ができた。キリストとガンジーと西郷隆盛と可美真手命(うましまでのみこと)が同じ列にいる。すごい。やたらめったら聖人偉人を集めた感じがたまらない。
そして23体(西郷隆盛の犬を入れると24体)の足の開きの平均は70%、人間の像、21体の平均は64%であった。
皆、意外と足開かないのだ。妻に結果を伝えたところ、「小股ー」と漢字2文字で返事をくれた。
パーセント別に銅像の様子を見てみよう。
足の開きが小さい銅像から見ていこう(40%代のエクナトンやガンジーがいますが、哲学堂公園の銅像はあとでまとめて紹介します)。
60%前後なんて肩幅の半分ちょっとだ。
新一万円札の顔に採用されることが決まっている『近代日本経済の父』渋沢栄一である。第一国立銀行(現在のみずほ銀行)をはじめ約500もの企業の設立に関わったという、もうピンとこないほどの突き抜けた功績を残した人物である。
すごい人物だが、これから体操をしようという姿勢じゃない。体操する孫を土手の上から見ている人の立ち方である。
いや違う、本当は日本経済の基礎を作りその先の未来を見つめている表情だ。だから肩幅に足を開く必要なんてない。
ここから突然ストレッチをされてもびっくりするので、親鸞の足の開きもこれくらいでいいと思う。
吉田茂なんて「バカヤロー解散」で有名な人だ。すごく大股で立っていそうなものだが、この吉田茂は静かだ。
これから体操をしようという姿勢ではない。体操する孫を土手の上から見ている人だ(二人目)。でも立ち姿はしっかりかっこいい。
足の開きが大きくなってきたのがこの4人。7割足を開いたらだいたい肩幅、といってもいいかもしれない。
銅像は野口英世の死後、医学界の働きかけによって製作されたらしいので、野口英世の要望でこういうポーズになったわけではないみたいだ。(そもそも銅像ってそういうものなのだろう)
銅像を作る会議のようなものがあって「やはり野口英世先生の銅像はかっこよくなくては」ということになったのだろう。そしてかっこいい銅像ができた。つまり野口英世は、人にかっこいい銅像を作らせるほどの偉業を成し遂げたのだ。かっこいい銅像の背景には人を動かすすごい功績がある。
ずっと当たり前のことを言っているような気もするが、野口英世のポーズからそんなことを考えた。
肩幅に足を開いて、きっとこれから発声練習をする。いい声が出そうだ。
この4体だ。
江戸城を最初につくった室町時代の武将である。さすが武将らしく、足を95%開いてどっしりと立っている。
95%である。ほぼ完璧に肩幅に足を開いている。これから動く人の姿勢だ。重心が少し後ろにあって、これから前方に飛び出しそうな気配を感じる。立像でありながら非常にスポーティーでもある銅像である。
映画の宣伝のプレートがあって足が見えなかったのだけど、周囲をぐるぐるして足のラインを確認した。129%だった。
今回、体操や発声の基本姿勢として肩幅に足を開くことを考えていたけど、シン・ゴジラはすでに動いているし発声している。その調子でお願いします。
最後に、彫刻作品群をまとめて見よう。ワグナー・ナンドールという彫刻家の『哲学の庭』という作品である。中野区の哲学堂公園に11体の聖人の銅像が展示されている。
「オールスター」と表現するのも憚られるような世界の聖人たちが輪になって佇んでいた。何かに例えようとして「いいともの最終回」とか「スマッシュブラザーズ」とか考えたが、どうしてもスケール感で圧倒的に劣る。
とにかくこの空間がものすごく静かでドキドキした。
アブラハムはユダヤ教、キリスト教、イスラム教の源流となった最初の預言者である。イスラム教では偶像崇拝が禁止されているのでそこに配慮して全身を隠し、祈りを捧げる姿を描いたらしい。ギョッとしたけどなるほど、と思った。
粛々と写真を撮り、肩幅と足の開きを調べた。
足が小さいのは23cmのキリストと聖徳太子、大きいのは32cmの達磨大師だった。インターネットで検索したらマイケル・フェルプスの足のサイズが32cmだという記事があった。
たくさん銅像を見たが、姿勢に特徴のある銅像を除くとだいたい6割から7割くらいのところに数値が集まっていることが分かった。
銅像というと足を開いてバーンと立っているイメージがあったが、そこまで足を開かなくてもいいのだ。
渋沢栄一みたいにはならなかったけど、何も意識しない立ち方よりは渋沢栄一に近い。「何もしないよりはマシ」というやつだ。
野外に立体作品があると色んな方向から像を見て、景色と一緒に自由に楽しむことができる。銅像巡り、楽しかった。
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